大型のオウム類のようなものはともかく、犬や猫といった一般的なペットは人間に比べて寿命がずっと短い。いつかはペットも天寿を全うするとわかりつつ、大切に思えば思うほど、一緒に暮らしてきたペットが亡くなった時、人は大きな喪失感とともに悲嘆にくれるものだ。
それは子供であっても同じこと。ただ、子供は日々成長を遂げており、その発達段階によっては、ペットの死の受け取り方も微妙に違ってくるのだろう。
カニシャス大学(Canisius College、ニューヨーク州バッファロー)動物行動学および生態・保護学のJoshua Russell助教授は、ペットを亡くした6歳~13歳の子供に対し、個別に聞き取り調査を行った。
亡くなった時のペットの年齢や死亡状況の違いによる差
「ペットは自分と強い関係性をもった仲間、ベストフレンドである」と考える子供が多い中で、亡くなった時のペットの年齢や死亡状況によって、それぞれ死の受け取り方や、その後の気持ちには微妙な差が生じるようだ。
子供は総体的に魚やハムスターは寿命が短いが、犬や猫、ウサギなどはそれとは違うというふうに認識している。ゆえに、自分のペット(犬や猫)が平均的な寿命をまっとうして亡くなった、またはそれ以上に長生きして亡くなったという子供では、ペットの死を想像以上に受け入れているように思われるのに対して、病気や事故などで予想外に早く亡くなってしまったペットと暮らしていた子供では、より感情的で、ペットの死を受け入れられるまでにはより時間もかかっているという。
愛猫を車の事故で亡くした13歳のある少年は、当時、「僕の人生は終わった…」と感じ、2年が経ってもそのことを考えると体が震えて動揺するという話だ。
しかしながら、これを短絡的に捉えてしまうことは少々問題があるだろう。ペットが亡くなった時の状況というのは、大人であってもその後の心理面に大きく作用する。長寿で亡くなったのであれば、その死を受け入れやすいかというと、必ずしもそうではない。そこには長く一緒に暮らしたからこその愛情や絆、想い出もあり、その分、余計に死を受け入れにくく、気持ちが落ち着くまでにはより多くの時間を要するというケースも実際にはある。
要は、ケース・バイ・ケース、人それぞれであり、大人であろうと子供であろうと、一概に振り分けることも決めつけることも決してできないということは踏まえつつ、“新しいペットを飼うことが、亡くなったペットへの悲しみを和らげることになるか?”ということに関しては、子供たちの間でも大きく2つに分かれる。
新しいペット否定派と肯定派
「亡くなったペットとの関係は大事であり、新しいペットとはうまくいかないと思う」と答えた子供もいれば、「新しいペットを飼うことで、気持ちが和らぐと思う」という子供もいた。
後者は、「亡くなったペットのことを忘れる」という意味ではなく、「やり直す、新しい関係を築く」という意味であると答えている。
ここで思うに、ペットを亡くして悲しむ子供を思うばかりに、まるで代替品のようにただ単純に別のペットを与えるという行為は、子供の本当の気持ちを無視し、時に心の成長を妨げてしまうこともあるのではないだろうかと心配にもなる。
なお、子供であっても苦しむペットを安楽死させるということは倫理的に適う選択肢であると考える傾向にあることは、お国柄という背景も影響しているのだろう。
ペットが亡くなった時には正直に話す
一方、American Academy of Child & Adolescent Psychiatry(アメリカ子供および思春期精神医学学会)では、3歳~5歳の子供は死を一時的かつ可逆的(元に戻せる)なものと見なし、6歳~8歳の子供は自然や死についてより現実的に理解しはじめるが、概ね9歳までの子供は死が永久的なものであるということを十分には理解できていないため、「ペットが亡くなった時には、もう動くことがなく、姿を見ることも声を聞くこともできない、二度と起き上がることはないのだということを話すべきである」としている。
その際、普段と変わらぬ環境の中、穏やかな声で、可能な限り子供を落ち着かせた状態で(できれば手を握ったり、肩を抱いたりして)話すこと。何より、正直でいることは大切だという。なぜなら、子供を守りたいばかりに曖昧で胡麻化した説明をすることは、逆に子供を不安にさせ、混乱や不信感を呼んでしまうからだ。
子供の質問に答えるにはシンプルに
それでも一度で納得できる子供はそうそういないだろう。何度も繰り返し同じことを聞いてくるかもしれない。「動物には魂があるの?」と難しいことを聞いてくることがあるかもしれないし、「僕がいい子にしてたら、チョコはもどってくる?」と胸が締め付けられるようなことを聞いてくるかもしれない。
そんな時、子供には、その子にとってわかりやすい言葉や概念を使ってシンプルに答えてあげるよう勧めている。
ペットの弔いは子供が希望する方法で
ペットが亡くなった後は、「埋葬してあげたい」「お葬式をしたい」「メモリアルを作りたい」「手紙を書いてあげたい」「絵を描きたい」など、子供は何か望むかもしれない。それを無視せず、なるべく子供自身の望みに沿った方法でペットを弔ってあげるのがいいそうだ。
子供の助けになるのは家族と友達
前出の調査でも、ペットを亡くした経験のある子供たち全員が、家族や友達の存在が助けになったと答えている。子供であってもペットを亡くした後には悲しみはもちろん、不安や否定、怒り、時に罪悪感や友達のペットに対する嫉妬を感じることもある。そういったものを心に溜め込むのはひじょうに辛いということを誰もが知っているはずだ。また、場合によっては心身や行動に影響が出ることもあるだろう。
子供が苦しくなったり、寂しくなったりした時、いつでも話ができる相手であること、そのような関係や雰囲気を作っておくということは大事となる。「すぐに別のペットを与えるのではなく、亡くなったペットとの想い出のために、子供には時間を与えてあげる必要がある」という。
可能であれば、子供にペットへの「さよなら」を言わせる
また、「ペットが近いうちに亡くなるだろうということがわかっている場合は、子供に“さよなら”を言わせることは、後々の気持ちを整理するための助けになる」とも言っている。
状況によっては、ペットの気持ちを代弁して子供に聞かせるのもいいかもしれない。親と子供が同じ“気持ち”をシェアすることは助けになるそうだ。
子供には、見守りを
いずれにしても、ペットを亡くした子供の心のケアについて、これがベストだと言い切れる方法は存在しない。性格や考え方、環境、宗教観、亡くなったペットの状況などによって様々。自分がベストだと思う方法を手探りするしかないのだろう。
近年では子供たちに動物の素晴らしさやつきあい方、命の大切さなどを伝える活動というのも活発化してきており、動物を愛しむ心を育むということは素晴らしいことであるが、一方では、ペットとの死、別れというのは確実にあるわけで、それを無視することはできない。
動物を愛でるということは、死をも含めてのこと。死や別れは辛い。辛いからこそ、つい目を背けたくなる心理が働く。Russell氏は、「子供が死に直面した時、どう理解し、何を感じ、どう反応するのか、そうしたことは無視されがちなテーマである」と述べている。少なくとも、子供がペットの死に悲しんでいる時、そっと寄り添える大人でいたいものである。
参考資料:Life Goes On / Canisius Magazine / Canisius College
Death of Pets : Talking to Children / American Academy of Child & Adolescent Psychiatry
文/犬塚 凛