ねこの絵を描くときに特徴的なのは、やっぱり口もとでしょう。「ω」の記号で表されたり、「ひげ袋」や「鼻たぶ」などと呼ばれたりする部分には、「ウィスカーパッド」という正式名称があります。そこから左右に3本ずつくらい毛を生やせば、それだけで猫だとわかるはず。ひげ袋フェチも多い、猫のチャームポイントのひとつです。
でも実は、猫のひげは結構ボーボーに生えています。我が家の愛猫・睦月の場合、体が黒いので白いひげがよりはっきりとして、なんだかたくましい印象。まゆ毛もピンピンと白く伸びていますし、よく見ると頬やのどのほうからもひげが出ています。まるで無精ひげ…。気づくと気になってくるこのひげ、切ってしまっても良いのでしょうか?
口ひげの他に、まゆ毛のようなものや、頬などからもピンピンと飛び出した白い毛が。
犬はひげカットをするトリミングサロンも
犬の場合は、トリミングサロンで「ひげもカットしますか?」と聞かれることがあります。我が家のボーダーコリー・小雪は、基本的に毛のカットが必要ないと言われる犬種。それでもシャンプーをお願いしたときにそう聞かれて、思わず「何のためにひげを切るんですか?」と聞いてしまいました。
手指の間の余分な毛を切るのは、肉球を出してすべらないようにするためなど、理由がありますからね。でもサロンの方によると、ひげは好き嫌いで「見た目」の問題なのだとか。試しに一度切ってもらったら、確かにちょっとお上品な顔になりました(笑)。
諸説ありますが、犬の場合はひげを切ってもそこまで大きな問題はないとされています。我が家では先の一度きり切っていませんが、顔回りをすっきりさせたいわんちゃんには良いかもしれません。しかし、猫ちゃんの場合はそれが大問題に。絶対に切ってはいけないと言われているのです…!
犬と猫では、ひげの役割が大きく違います!
猫のひげを絶対に切ってはいけない理由
このひげはとても敏感な触感を持った「触毛(しょくもう)」で、猫たちにとってなくてはならない存在なのです。いつも驚くほど狭い隙間をすり抜けている猫たちですが、実はこのひげに触れた感覚で「ここなら通れる!」と判断しているのだとか。
よく「猫が顔を洗うと雨が降る」なんて言いますが、実はあの顔をゴシゴシするしぐさも、この自慢のひげについたホコリをとって感度を良くしているという説があります。野生の猫は獲物を見つけたとき、そのままじぃっと目で捕らえながらそろりそろりと近づいていきます。目線が獲物から離せないために、ひげの感覚を頼りに障害物がないかを判断しているのです。
まゆ毛のような毛や、頬の毛なども同じように触毛。その根元にはとても発達した神経があり、触ったものはもちろん、風の吹く方向まで把握していると言われています。また、前脚の後ろにもこの触毛が。これは、捕らえた獲物がどんな動きをするのかを敏感に感じ取って、とどめを刺すためにあるのだとか。試しに睦月の前脚の毛をちょちょいと触ってみると、猫が大嫌いな水にぬれてしまったときのように手首をブルブルッとさせて、嫌そうに振り払っていました。
ちょっと失礼して…前脚の裏に生えているこのひょろひょろっとした白い毛も触毛です。
猫のひげが大きく広がるのはなぜ?
我が家の睦月のひげは、ときどきバサッと扇を広げたようになって前方へ向きます。どんなときかをふり返ってみると、何かおもちゃを差し出したり、指を1本伸ばして興味をそそったりするときでした。
ひげと一緒に耳もピンと立ててその方向を向いているときは、「興味津々!」という気持ちが表れているのだそうです。そんなときは、目の瞳孔も少し広がっているのがわかるでしょう。ひげをピンとさせて、しっぽも立てて近づいてくるのは、「遊んで~!」という感情表現です。
指を1本差しだすと、思わずニオイをかぎながらひげビーン!
反対に、ひげがだらんと左右に垂れ下がっているときは、リラックスしている証拠。何か緊張しているな、警戒しているな、というときには、ひげは鼻よりも少し前向きになります。さらに耳を伏せ、「シャー!」なんて言ってきたら怒っている合図。
そんなふうに、ひげには猫の感情も表れています。ぱっと見はあまり気にならないひげですが、よく見るとその気持ちの機微が感じられてとたんに愛おしくなるはず。愛猫のひげは決して切ったりせずに、大事にしてあげましょう。
文/中西未紀