Dr.林のわんこの処方箋
今回は性成熟に関してのお話しをしましょう。
オス犬の場合、生後7~8ヶ月で性成熟に達します。性成熟とは子供を作れるくらいに大人になった、ということなんです。そしてそれ以降はいつも発情しているのです。
メス犬の場合は生後6~14ヶ月で性成熟に達します。発育の良いものでは、4ヶ月齢で発情兆候があった例もあるようです。性成熟は、一般的に小型犬で早く、大型犬で遅い傾向にあります。また、野良犬(最近はめっきり見ませんね)は飼い犬より早く、温暖地方にいる犬は寒冷地方にいる犬より早いと言われています。
発情が来るのは、小型犬では5~7ヶ月間隔の年二回が普通ですが、大型犬では8~12ヶ月間隔なので、年に一回の場合もあるのです。これらは平均なので、皆が皆、これにピッタリ当てはまる訳ではありません。ちなみに昔からメス犬の発情期は春と秋みたいに思われがちですが、そんなことはなく、特に季節性はありません。
さて、次に子供を産ませる話をしましょう。もし子供をとる予定があるのであれば、第一回目の発情での交配はオススメしません。若いお母さんは心理的にまだ幼さを残していて育児の失敗もある可能性もありますし、体の発育もまだ十分に成犬になりきれていないからです。この辺は人間と一緒ですね。したがって、身体がすっかり充実する2回目以降の発情時に子犬をとるようにした方が良いでしょう。そして、子犬が欲しくない場合は、早めに避妊手術を行った方が良いでしょう。
ちなみに避妊手術の最適時期は、超大型犬を除き、初回発情前です。なぜかって話は、またの機会にしますね。
もし子犬を望むなら、いつから陰部からの出血が始まったか?をしっかりチェックしましょう。犬の発情期間は比較的長いので、交配適期を誤ると、受胎しないことがあります。そこでメス犬の性周期について少し説明しておきましょう。
(1)発情前期
発情が近くなると、メス犬は、散歩に連れ出した時に、小刻みにあちこちオシッコするようになります。これは膀胱炎の症状に似ているので気をつけてください。この時期、毛づやも良くなります。発情の開始は、陰部からの出血でわかるのですが、出血量の少ない犬や、血をすぐになめとってしまう犬もいて、見落とされることもあります。ですので日頃から犬の行動をよく見ておいてください。
メス犬の発情出血は、発情前期から発情期にかけて見られ、霊長類(ヒトとかサルとか)の月経(生理)に似ていますが、基本的に異質なものなのです。つまり、犬の出血は、発情の開始に伴うホルモンの増加に反応して、子宮粘膜の血管系が著しく増殖し、血液がにじみ出てきた結果起こるもので、出血の「後」が交配適期となります。
ところが霊長類の月経は、肥厚した子宮内膜の脱落と共に出血するもので、出血の「前」が交配適期になるのです。
また、その出血が全く見られない犬も中にはいますが、他にも発情前期のサインはあるのです。例えば、外陰部が大きくなり、充血してくる、というのがそのサインです。また、この頃の犬は、その匂いでオス犬を寄せつけますが、交配自体は許しません。ちなみにこの発情前期は平均一週間前後です。
(2)発情期
出血は、はじめ鮮やかな赤い色ですが、次第にその色もあせていきます。発情開始から10日位経つとお尻の辺りを触られると、尾を横に曲げて男の子を許容する態度を示し始めます。この頃が交配適期となり、長さとしては約8~14日くらいです。発情前期も発情期も、若い犬では比較的短くなり、犬によってかなりの個体差があります。排卵は、オス犬を許容し始めてから2~5日の間に起こることが多く、排卵後も発情は続きます。膣の細胞の状態で、発情前期~発情期のおおよその期間を知ることが可能なので、交配適期を知りたい飼い主様は、動物病院で「膣スメア検査して下さい」と言ってください。
(3)発情休止期
発情出血も止まり、男の子を許容しなくなる時期で期間は約2ヶ月です。この時期には妊娠していなくても妊娠に似た徴候を示す犬がいますが、それが偽妊娠と呼ばれるものです。これは自分が妊娠していなくても、体のホルモン状態が妊娠した時と同じように子宮を肥大させ、乳腺を発達させ、お乳を出せる状態になるのです。
(4)無発情期
前述の1~3以外の時期で、発情と発情の間の時期でごくごく普通の状態の時期で、その期間は4~8ヶ月です。
ここでオス犬の性行動についても少し説明しておきましょう。オス犬が性成熟すると、凶暴性が増す、いろんな所でオシッコしたがる(縄張りを広げるためのマーキング)、あらゆるものに向かって腰をカクカクするなど、メス犬よりも、比較的人間にとって問題となる行動が増えてきます。だから、という訳ではないが、やはり子供をとる気がないのであれば、早めの去勢手術をお勧めします。性成熟前に去勢手術をすれば、それらの行動が消失する確率も高くなるので、生後4~6ヶ月くらいで睾丸がわかるようならば去勢手術をしましょう。
教訓:
一、メス犬の場合、普段から性行動をチェックし、現在の性周期を把握しておくべし!!病気の早期発見にもつながります!
二、オスでもメスでも、子供をとる予定がないのであれば、早めに避妊・去勢手術を実施すべし!!将来のためになります。
文/林 文明(はやしふみあき)
1988年北里大学獣医学修士課程修了。1998年コロラド州立大附属獣医学教育病院に留学し、欧米の先進動物医療を学ぶ。現在は、山梨・東京・ベトナムで5つの動物病院を経営。獣医師、日本動物医療コンシェルジュ協会代表理事。最新著書『愛犬を長生きさせる食事』(本体1000円+税)好評発売中!
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