Dr.林のわんこの処方箋
人工哺乳について
ペットショップやブリーダーから犬を購入する場合は関係ありませんが、自宅で生まれた新生子には人工哺乳が必要なことがあります。
母犬がいれば、哺乳も温度管理も通常母犬が全部やってくれますがそうでない場合、捨てられていたのを拾ったり、母犬が面倒見ない場合は人間がフォローするしかありません。
まずは哺乳についてです。
正常な新生子は誕生後の最初の5日間は約2~4時間おきに母乳を飲みます。ですから人工哺乳の場合も同様の間隔で行わなければなりません。市販の犬用粉ミルクを体重や日齢(生後何日目)に合わせた量を取り、お湯に溶かして人肌まで冷ますか、液状になっている犬用ミルクを使用します。
飲む力の強い子(吸いつきが強い)は哺乳ビンで与え、力の弱い子はスポイトで与えます。しかし、中には全然吸わない子もいるので、その場合は動物病院に連れて行きましょう。動物病院では口から胃にチューブを入れて、無理矢理にでも少しずつ飲ませてあげないといけません。これを強制給餌と言います。
正常であれば、この頃の体重は1日に5~10%の割合で増加するはずですので、毎日ベビースケーラーなどで体重をチェックしましょう。例えば、300gの体重が、翌日には315~330gになっているはずなのです。このペースで大きくなると普通なら生後一週間で体重は約2倍になる計算です。
子犬が1匹だけなら、その子だけ見ていればいいのですが、母犬が5頭も6頭も生んだ場合はどうすると思いますか?
子犬は大きくなるにつれて体力差が出てきます。つまり、大きくて強い子がいつもたくさんの乳を飲み、小さくて弱い子犬はますます弱っていくのです。私たちは、あまり大きさに差が出ないように弱い子犬がたくさん乳を飲めるように手伝って上げる必要があります。乳は一番下側にある乳房が一番よく出るので、弱い子犬をなるべくそこにつけてやるようにします。放っておくと力強い子がその場所を取ってしまうこともあるので弱い子がしっかりと乳を飲むのを見ていてあげてください。
子犬はお腹いっぱい乳を飲むとすぐに眠ってしまいます。しかし、キューキューと鳴いて落ち着かない時は、お腹が空いている可能性がありますので、母乳が不足しているかもしれません。その場合はミルクを補って飲ませてあげましょう。
当然、飲むだけではなく、それに合わせて出るものを出してもらわないと困ります。通常は母犬が子犬のウンチやオシッコを刺激するために子犬の肛門や外陰部を舐めます。
人工哺育の場合は私たちがこの刺激を与えなければなりません。お湯で湿らせた柔らかい布、脱脂綿、ティッシュなどを使って哺乳の度にオシッコとウンチをさせなければなりません。
また、生後約3週間でようやく自分で排泄をするようになります。ここまでくればだいぶ楽になりますね。
こんな大変なことを離乳する約3週齢まで続けるのです。これって結構大変ですが、動物の世話ってこういうことです。人間の赤ちゃんと一緒です。
あとは温度管理も重要です。低体温は新生子の死亡の主な原因になりますので、常にホットカーペット、カイロ、湯たんぽなどで温めておく必要があるのです。生後数日は常に25~30℃の環境作りが必要です。これは夏でも一緒です。
また、母犬がいる場合は少し難しいかもしれません。なぜなら、母犬にとってその温度は暑すぎるのです。その場合は哺育箱(子犬がいる場所)の半分だけ温かくなるようにして、もし暑ければ母犬だけ涼しい所に逃げられるようにしておくのです。
生後約3週間で結構犬らしくなり、離乳期に入ります。ここまでくれば世話の面では一安心です。
教訓:
一、体重チェックは毎日必要です。体重が減っていたらミルクを飲めていない証拠ですので動物病院に相談しましょう。
二、母犬が子犬の面倒を見ないときはあなたが母犬の役割をしましょう。哺乳、排泄は必須です。
三、温度管理は25〜30℃とちょっと温かめにしましょう。
文/林 文明(はやしふみあき)
1988年北里大学獣医学修士課程修了。1998年コロラド州立大附属獣医学教育病院に留学し、欧米の先進動物医療を学ぶ。現在は、山梨・東京・ベトナムで5つの動物病院を経営。獣医師、日本動物医療コンシェルジュ協会代表理事。最新著書『愛犬を長生きさせる食事』(本体1000円+税)好評発売中!
◆日本動物医療コンシェルジュ協会
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