私が診察をしていて、飼い主さんから必ず問診する内容の一つとして、「水を飲む量は増えていませんか?それに伴っておしっこの量は増えていませんか?」という内容があります。いわゆる多飲多尿の症状をチェックするのです。
人では、「健康や美容のために朝起きたらコップ1杯の水を飲みましょう」とか、「しっかり水分を摂って、体内から毒素を排出しましょう」という風に沢山お水を飲む事は健康に良いという意見を聞きます。
そういった情報の影響かもしれませんが、動物に対しても「うちのペットは最近、水を沢山飲む様になっておしっこの量が増えてきたけど、水を飲む事は健康に良いので心配しなくていい」と考える飼い主さんがかなりいらっしゃいます。
水分は動物の体を構成する成分のうちの約60%を占めています。子犬や子猫はもっとその割合が多く、80%近くが水分だと言われています。体の中では体温調節をおこなう際に呼気や汗で水分を蒸散させるために使われたり、老廃物を体外に排泄させるのに使われたり、血液中ではホルモンやイオン、酸素などを運ぶのにも役立っています。
実は水分は最も重要な栄養素とも言われており、10%以上を失うと命に関わるんです。こう書くと確かに水分をたくさん摂取する事は体に良さそうですが・・・
ですが、ちょっと待って下さい!!水分を沢山とるようになることを手放しに喜ぶのは要注意です。
それはなぜか・・・当たり前の話ですが、動物は自分の健康のことや美容のことを考えて生活はしません。「自分の将来の健康を考えて、水を多めに摂取しよう」こんなワンコやニャンコがいたらびっくりですよね。
ではなんで水を沢山飲む様になったのか??それには、何らかの原因があるはずなんです。
ざっと思い浮かぶものでも、腎臓病、副腎皮質機能亢進症、高カルシウム血症、子宮蓄膿症、そして糖尿病などがありますが、これらの重大な病気が隠れている場合、多飲多尿の症状が現れることが多いです。体のどこかで炎症が強くでている場合も飲水量が増える場合があります。特にニャンコは年齢とともに慢性腎不全を発症する子が多いので、要注意です。若い時と比べて水を飲む量が増えていないか、トイレ砂の交換の回数が増えていないか、思い出してみて下さいね。
もちろん季節によって飲水量が増減することも考えられますし、フードの変更でも飲水量は変化します。飲水量が増えたイコール即病気と結びつけ過ぎるのもよくありませんが、多飲多尿の変化が以前に比べ激しすぎるようならかかりつけの動物病院で相談してみるのが良いでしょう。
その際に飼い主さんに是非調べておいて、獣医師に伝えていただきたいことがあります。それは具体的な飲水の量です。
あまり難しく考える必要はありません。例えば「今迄はだいたい1日に200ccくらいだったのが、ここ1週間は500ccくらい水を飲む様になった」と言うように、具体的な飲水量を教えてもらえると、とても参考になるんです。
実際に私が問診をしている中で圧倒的に多いのは、「どのくらい水を飲んでいますか?」という質問に対して、飼い主さんが手で容器の形を作り、「このくらいの大きさの容器に水を8割くらい入れています。それが1日に2/3くらいなくなります」という表現の仕方です。
もちろん診療する中で血液検査などをおこない多飲多尿の原因を調べていくので、「ちょっと多くなった」、「すごく多くなった」という情報でもよいですが、飼い主さんから大体の飲水量を数字で教えてもらえると症状をイメージしやすくなります。
私たちも「435cc飲水したのか?それとも430cc飲水したのか?」とそこまで細かいことを求めている訳ではないので大まかな把握で結構です。
ここで、飼い主さんに「これは絶対におかしいぞ」という飲水量の目安をお教えしましょう。それは、1日に「体重×100cc以上」の飲水量です。つまり、5kgのワンコならば1日で500cc以上、10kgならば1000cc以上という簡単な計算です。500ccのペットボトルにお水を準備してもらい、そこから器にお水を入れる様にし、次の日にペットボトルに残った水の量をチェックするとだいたいの数字が分かると思います。
もちろん、体重×100cc以下の飲水量なら心配ないという訳ではないですが、1つの基準として知っておいて損はないと思います。
また、一日に必要な水分量は、その動物の一日に必要なエネルギー要求量とほぼ同じと言われており、その計算方法は色々あります。
例えば獣医師会では
◆ワンコ 体重(kg)の0.75乗×132(ml)
◆ニャンコ 体重(kg)の0.75乗×70(ml)
と言われていますが、計算が大変と飼い主さんに言われてしまいました!!たしかにそうですね・・・。健康なワンコ ニャンコの場合は一日に体重1kgあたり約50mlの水分が必要と覚えておけば良いと思います。
ただ 水分の必要量=飲水量ではない という事は覚えておいて下さいね。フードの中にも水分は含まれていますから、それも含めて必要な量以上にお水を飲んでいるかどうか、以前と比べてどうなのか をチェックしてあげて下さい。
さて多飲多尿の症状というのは、実は怖い病気が隠れているかもしれないというお話をしたところで、次回からはその病気について説明していきますね。
文/古江加奈子(獣医師)
パーク動物医療センター副院長。福岡県獣医師会、福岡市獣医師会、日本獣医がん学会に所属。言葉の話せない動物を治療するうえで、動物たちに聞く代わりに飼い主から沢山のことを聞き、飼い主とのコミュニケーションを最重視するドクター。http://parkanimal.jp/