今回は“常同障害”というものについてお話ししますが、今までに聞いたことがあるでしょうか?
常同障害とは、ご飯を食べる、鳴く、グルーミングといった行動が徐々に本来の目的とは関係なく、必要な程度を上回る頻度や持続時間で起きることを指します。たとえば体を痒がり、それが講じて毛をむしり続ける、という行為です。
さらにこれが悪化し自分自身を傷つけてまでこの常同行動を行うようになると常同障害をよばれてくることになります。未解明の部分の多いとされる常同障害でありますが、一体どんな常同障害があるのでしょうか?常同障害で多く見られるものが4つあります。
4つの代表的な常同障害
心因性脱毛症
過度のグルーミングによっておこる脱毛のことで、体の一部のみにおこる場合と全身に起こる場合があります。よく見る場所は内股、腹部、太もも内側、足先です。舐めるだけではなく、毛をかんで引き抜くこともあります。
毛織物吸い行動および織物摂食行動
いろんな種類の織物やプラスチックのなどの素材を吸ったり咬んだり食べたりします。多くは毛織物から始まって綿、合成繊維などに広がっていき、中にはプラスチックを好む猫もいます。異物誤飲(食べ物じゃなないものを食べる)で腸閉塞になることもあるので注意が必要です。
尾追いおよび尾かじり
自分の尾を自分のものではないかのように追いかける、尾を見るとうなったりシャーと威嚇したり、追いかけることもあります。尾をかんで出血しても激しく動きながら尾追い行動を続けるので、部屋が血だらけになることもあります。
知覚過敏症候群
発情に類似する行動(活動性増加、転がり、特徴的な鳴き声)、皮膚の波打つような痙攣と筋肉のけいれん、幻覚に似た行動をすることがあります。
常同障害には、遺伝的要因や環境要因などさまざまな状態が関係する可能性があると言われています。以下がその要因となるものです。
1.性別
オスに多いという報告もあるようですが特別性差はない、とする報告もあるようです。
2.年齢
社会的成熟期である2歳~4歳くらいで多いようです発症年齢が最も多いのは1歳くらいといわれています。
3.品種
シャム、アジア系品種、またその交雑種で毛織物吸い行動や反復性の鳴きが多く認められるという報告があるようです。
4.性格
不安傾向が強い猫や過敏な猫は新しい刺激や環境変化ストレスとなって問題行動や常同障害を起こしやすいです。隠れていることが多い、リラックスした姿を見かけない、震えたり耳を横に倒すことが多いなどが一つの目安です。
5.早期離乳
本来の離乳時期よりも早くに母猫から分離された猫は栄養学的な面だけでなく、十分な育児行動を受けられないので、成長後の不安傾向が増し、反社会的行動がみられやすいです。
6.常同障害への対応
常同障害を示している際に飼い主が関心を払う(声をかける、なでる、叱る、体罰など・・・)ことは猫にとっての報酬となるのでさらに常同障害をひきおこす原因となります。
7.ストレスをひきおこすような疾患への罹患
アレルギーや慢性腸炎、手術後カラーをつける、などはストレスとなってくることがあります
8.皮膚の病気
皮膚疾患があり痒みや痛みから自身をなめたり、咬む行動がでるのは正常ではありますが、それに様々な要因が重なって常同障害を併発することも少なくありません。皮膚疾患が治癒しても、その行動が続くことがあります。
このように常同障害には毛をなめ続けたり、しっぽを追いかけたりする行動がありますが、それがみられるのは実は常同障害だけとは言えません。常同障害と診断するためにはその行動をあらわす可能性のある病気を除外しなくてはいけないのです。
除外する病気
脳神経の病気の可能性
常同障害と思っている行動が発作の可能性もあります。
心因性の脱毛、皮膚の病気、傷、変性性脊椎症や関節症など
痒みや痛みに対しての正常な反応としてグルーミングをしている場合があります。
毛織物吸い行動および織物摂食行動
消化器の病気や異物誤飲
栄養の吸収が不十分となり普段の食事とは違うもの(布など)を食べる行動を示す可能性があります。
歯の疾患
歯の違和感から咬むことへの欲求が変化する可能性があります。
食欲が増加する病気(寄生虫感染や甲状腺機能亢進症など)
食欲増加のために食欲ではないものまで食べてしまうことがあります。
尾追いや尾かじり
皮膚疾患や外傷、知覚過敏、末梢神経の異常の可能性があり、痒みや痛みがあってグルーミングしている場合があります。
転位行動の可能性
一時的に生じたストレスに対処するために正常行動から派生した行動を示します。グルーミングやあくび、爪とぎなどもよく見られます。
関心を求めている
ある行動をとった時に猫に関心を向けると、猫にとってそれが報酬となり行動が強化されてしまいます。声をかける、なでるといった対応だけでなく叱るということも報酬となりえます。猫が関心を得たい相手(通常は飼い主)がいる状態でのみ常同障害が起こるのであれば、関心をもとめる行動である可能性が高いです。
分離不安
飼い主との分離により不安が生じて留守番中に徴候(落ち着きがなくなる、過剰な鳴き、破壊など)や生理学的反応(あえぎ呼吸、涎、排泄)などが現れる問題行動のことです。留守番中にのみ常同障害がみられる場合は分離不安の可能性が高いです。
恐怖症
雷や花火など特定の刺激に対して恐怖を示し、それが予期できる状況の時に不安が生じることがあります。常同障害のきっかけが特定の刺激のみの場合には恐怖症の可能性が高いです。
常同障害には薬物治療が有効とされていますが行動療法を補助として行なっていくことがあります。
行動療法とは?
きっかけが何かをみつけることとそのきっかけをなくすこと。なくすことができないようなことであればその刺激や回数を弱めてあげてそれになれさせてあげること。どんなときにおいても、大きな声をだしてしかったり叩いたりすることはストレスを増大することになるのでそのような行為はしない。常同障害がみられているときに、声をかけたり、なでたり、しかったりなどの働きかけはしないで無視すること。
たとえば自分の毛をむしるなどの無視できないような行動がおきているときには、違う音をならして行動を中断させ、その後声をかけ(トレーニングであれば号令をかけ)その号令に従ったら違う遊びを開始したりすることで望ましい行動をしている時間が長くなるように工夫すること。
愛情欲求や食欲旺盛な猫はトレーニングが行いやすいので、おすわりやハウスを教えると役立つ。生活パターンや接し方などをできるだけ同じように行い、猫との関わり合いを予測可能なものにする。トイレ問題など、他の問題行動が併発していればそれらを治療する。
環境改善(常同障害全般)
高い場所や窓辺に居場所を設置する。上下運動が可能なようにする(キャットタワーの設置など)。隠れ場所の設置。爪とぎ場所をふやす。おもちゃの数、質、遊び方の変更、遊び時間を増やす。トイレの数をふやす、トイレ掃除回数を増やす、など。
環境改善(特に毛織もの吸い行動、織物摂食行動に対して)
繊維質の多い食事へ変更し、自由給餌へ変更。缶詰のみの食事の場合はドライフードへの変更。フードを入れられるおもちゃの使用。フード皿数を増やし、分散させて設置。猫草を導入。鮭皮、牛皮の給餌、など。
薬物療法
薬物療法についてはいくつかの薬物が使用されますが薬のなかには1か月から2か月程度使用することによって効果がでるものもありますので獣医師の指示に従って使用していきましょう。
文/林 文明(はやしふみあき)
1988年北里大学獣医学修士課程修了。1998年コロラド州立大附属獣医学教育病院に留学し、欧米の先進動物医療を学ぶ。現在は、山梨・東京・ベトナムで5つの動物病院を経営。獣医師、日本動物医療コンシェルジュ協会代表理事。
日本動物医療コンシェルジュ協会
http://www.jamca.gr.jp/
ノア動物病院
http://www.noah-vet.co.jp/