2022年2月24日のロシアによるウクライナへの軍事侵攻を契機に、金(ゴールド)の先物価格が、円建てで最高値を更新した。金は投資家から比較的安全な資産と見られており、戦争などの有事の際に買われやすい特徴がある。
アメリカをはじめとした西側諸国が厳しい経済制裁をロシアに課すなど、まだまだ先行きが不透明な中、金への投資を始めたいと考える人に、金投資の方法をまとめた。
金先物取引で最高値1グラム=7269円を記録
■大阪取引所の金先物取引価格チャート(金標準先物)
引用元:日産証券
2022年2月以降連日のように高値を更新し、ロシアが軍事侵攻を開始したタイミングで、円建て価格の最高値更新となった。
金への投資方法は大きく分けて3種類
金に手っ取り早く投資する方法は、街中の百貨店や宝飾店などで現物の金を買うことだ。しかし、現物への投資は販売業者の調達コストなどがかかるため、ニュースなどでよく見る「金先物価格」に比べて、手数料が上乗せされている。
ではどう投資するのが効率的なのだろうか。まずは、金への投資方法を下表に整理した。
■金(ゴールド)への投資方法一覧
これらは大きく①現物投資 ②証券投資 ③デリバティブ投資 の3つに分けられる。これらの種類別に投資方法の特徴を見て行こう。
①現物投資:手元にゴールドバーを保管しておく投資
現物投資とはその名の通り金の現物へ投資する方法。田中貴金属や三菱マテリアルなどの業者で購入するほか、証券会社で取り扱っている場合もある。
金地金は「きんじがね」と読み、「インゴット」や「バー」とも言われる。一般的には「ゴールドバー」として認識されている現物の金と理解しておくとよい。
手元に現物を置いて保管するので、盗まれたり紛失したりして、資産を失うリスクがある。
また、純金積立は、地金商や証券会社でのサービス名として、世間には浸透している。毎月一定額ずつ金を購入していく投資方法である。積み立て中は、業者が預かってくれるので、表では、盗難・紛失リスクは「なし」とした。一方、販売業者の破綻リスクがある。これは販売業者が「消費寄託」という方法で、積み立て中の金を保管している場合に起こりうる。
この保管方法では、所有権が販売業者にあるため、仮に販売業者が破綻した場合、預かっている金を換金して、債務整理に充てることが可能になっている。そうなれば、積み立てた金は手元に来なくなってしまう。
■金地金から作った金貨も現物の投資対象に
引用元:三菱マテリアル
オーストラリアやカナダで発行されている金貨を、国内の業者を通じてオンラインで購入することができる。
■金地金価格の例(楽天証券の場合)
引用元:金・プラチナ取引/楽天証券
この例では、金1グラムを購入する場合、購入価格と売却価格での差が手数料となり、その額は78円となる。業者によってはさらに手数料が高くつく場合もある。
②証券投資:金の“値動き”に投資する。原則として現物の金は手に入らない
金の現物投資では、形があるものなので業者による調達コストが上乗せされてしまい、投資効率が悪いし、現物の金を手元に置いておく盗難・紛失リスクも負いたくない。と思う人は証券投資がよい。
証券会社で扱っている投資商品である投資信託や、投資信託をトヨタやソフトバンクといった企業の株式と同じ形で売買できるETFという商品での取引ができる。これらの商品は、投資信託の運営元であるファンドが、集めたお金を使って現物の金や、後述するデリバティブ取引を行い、成果を投資家に還元してくれる。ゆえに、投資家は、直接現物の金を触ることなく、金投資が可能になっている。
投資信託もETFも証券会社を通じて売買できるが、ETFの方が、取引コストが安く、証券取引所が開いている時間ならばいつでも売買できるメリットがある。そこで本記事ではどのようなETFがあるかを紹介しておこう。
■日本の証券会社で取引できる主な金ETF
株価は日本のものは、2022年3月1日終値。米国のものは2022年2月28日終値。
国内の証券取引所に上場しているETFも米国の証券取引所で上場しているETFにも投資ができる。1株あたり5000円ほどから買えて、1株買った場合の売買手数料は、楽天証券の場合55円。仮に30株17万円分ほど購入しても手数料は115円と、現物の金に投資するよりも、コストがかからない。
ちなみに、純金上場信託では、最低1kg分の投資ができているとその分と現物の金を交換できるサービスがある。
③デリバティブ投資:金の“値動き”に投資する。証券投資よりもリスク・リターン大
そもそも「デリバティブ」とは株や商品といった資産から派生した金融商品の総称で、冒頭で述べた金先物取引もデリバティブの一種である。取引は証券会社を通じて行なえる。とりわけ、CFD取引はGMOクリック証券が特に力を入れて取引サービスを提供している。
「売り」からも取引を始められるので、価格がこの先下がると予想した場合でも利益が出せる特徴がある。
ここでは先物取引とCFD取引の2種類を紹介しているが、いずれも証券投資と同じく金の値動きに投資する。異なるのは、少ない元手で、大きな利益が上げられる可能性があること。その分、大きな損失の可能性があること。
つまり、リスク・リターンが証券投資よりも大きくなる。
そのため金投資の初心者はおろか、株などの投資初心者にはあまりおすすめできない。が、投資効率が高く、その仕組みを知っておいて損はない。
先物取引とは「将来の売買をあらかじめ約束する取引」
■先物取引のイメージ
引用元:先物取引/知るぽると
大阪取引所で行われている金標準先物取引を例にする。
2022年12月の将来時点に金1グラム=7000円で取引できるとし、その約束を今日した場合を考えよう。取引は証券会社を通じて行う。
取引単位は1000グラムなので、最低取引価格は700万円となる。しかし取引には700万円の現金を用意する必要は無く、最低15万6000円のお金を証拠金として、取引する証券会社に入れておけばよい。そのため元手に対して約45倍分の金額の取引が可能になっている。この倍率をレバレッジという。
また、取引終了までに価格が下落して、損失が一定額を上回ると「ロスカット」が発動し、取引が強制終了し、その分のすべて損失になってしまう。
■CFD取引のイメージ
CFD取引は、先物取引と仕組みが似ているが、取引期日が定められていない。
証拠金を預けてレバレッジをかけて、元手より大きな取引が行なえる。また、売りから始めることもできる。
金(ゴールド)投資のメリット・デメリットまとめ
最後に、今回紹介した金投資のメリット・デメリットをまとめておこう。
■金投資のメリット・デメリット
現物にこだわりがないのであれば、証券投資だと、コストがかからず、かつリスクが相対的に低くできる。
デリバティブ投資は現物投資と組み合わせると、価格下落のリスク低減が可能になる。具体的には、現物投資で購入した金地金の価格下落に備えて、CFD取引での売り(ショート)を入れておく。という方法がある。証拠金の管理を精緻に行わないと、CFD取引でロスカットされてしまうリスクは残るので、上級者向けの方法だ。
いずれの投資方法をとるにせよ、「有事の金買い」につられて、手元資金を全力で金に向けるのは避け、分散投資を心掛けて欲しい。
取材・文/久我吉史