新たな経済制裁により再び不透明感が高まる可能性
2月24日、ロシアによるウクライナへの本格的な軍事侵攻が始まった。これにより、先週の米国金融市場は波乱の展開となる。
24日の米国株式市場は前日比プラスで引けたものの、NYダウは一時800ドル超の下落に見舞われた。WTI原油先物は14年7月以来の1バレル100ドルを一時突破し、10年国債利回りは一時1.84%まで低下。続く25日は過度の懸念がひとまず後退し、米国株式市場は続伸した。しかし、週末にかけてロシアとウクライナの交戦は激しさを増している。
また26日には、米欧主要6か国と欧州連合(EU)がロシアの一部銀行を国際銀行間の送金・決済システム(国際銀行間通信協会(SWIFT))から排除する新たな経済制裁に合意したと伝えられており、再び不透明感が高まる可能性が懸念されている。
こうしたロシア・ウクライナ情勢下の米国株式市場などについてまとめた、三井住友DSアセットマネジメントによるマーケットレポートがこのほど公開された。詳細は以下のとおり。
地政学リスクと金融市場
ロシアをSWIFTから排除した場合、ロシアは輸出代金の受け取りに支障をきたし、経済運営に大きなダメージを受ける。ロシアの輸出の中心は原油や天然ガス、小麦であり、ロシアにとっては輸出と収入の激減、グローバルでは価格上昇が長期化する要因となる可能性がある。
また、排ガス浄化の触媒として活用されるパラジウムはロシアの生産が世界の4割以上を占めている。こちらも流通網への影響や価格動向には注意が必要だ。
経済制裁は、制裁を課す側にも供給不足、物品の価格上昇等を通じて経済面でのダメージとなる。一方、制裁が効いて地政学リスクが後退すれば、投資家のリスク許容度も高まるだけに、効果が注目される。1991年以降、地政学リスクが高まった局面を月単位で整理すると、株式市場の下落は概ね発生日の前月以前であることが確認され、発生後はむしろ上昇していた。
ロシア・ウクライナ情勢を巡っては、まだ、和平への筋道が見えておらず、不安定な状態に変化はないが、両国の停戦交渉等に筋道が見えれば、一旦は収束することも考えられる。過去の経験で地政学リスク発生時から3カ月後、6カ月後も株式市場は概ね上昇を維持している点も注目される。
根強いインフレ圧力
25日に発表された1月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比+6.1%と82年2月以来の高水準となった。物価の上昇は2月10日に発表された1月の消費者物価指数(CPI)で織り込み済みとは言え、インフレ圧力が根強いことが改めて示された。
3月は2-3日にパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言が予定され、10日に2月のCPIの発表、15-16日には米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される。市場は再びインフレ動向と今後の金融政策に焦点が集中する局面となる。三井住友DSアセットマネジメントでは、2月のCPIは1月と同水準の前年同月比+7.5%程度と見ており、FRBは0.25%の利上げに踏み切ると予想している。
緩やかな上昇基調に回帰
3月のFOMCでバランスシートの縮小(QT)についてスケジュール等の言及があれば、市場の不透明感はかなり払拭されると思われる。
ロシア・ウクライナ情勢も、経済制裁によって資源価格等の上昇と消費者物価への影響に留意する必要はあるが、停戦に向けた動きが進むと期待される。折り重なった不透明要因だが、時間をかけて次第に解れる中、米国株式市場は緩やかな上昇基調に回帰すると考えられる。
構成/こじへい