4年振りとなるオリジナルのフルアルバム『DREAM』を2月23日にリリースしたAIさん。そこに収録されたNHK“朝ドラ”主題歌「アルデバラン」完成までの運命的な結びつきや、これまで培ってきた“平和”への祈り、そして、昨年から始めたInstagramでのSDGsの取り組みなど、彼女の今のまっ直ぐな思いを語ってもらった。
ウイークデイの朝、SNSにはハッシュタグ「#カムカム」がわんさと上がる。NHK朝の連続テレビ小説『カムカムエブリバディ』への熱い感想だ。朝ドラ史上初となるヒロイン3人による、母から娘、さらにその娘へとバトンをつないでいく100年のファミリー・ヒストリー。スピーディで予想外な展開で、強いインパクトと満足感を人々に与え続けている。そんなドラマの感動に加えて視聴者の涙腺を崩壊させているのが、AIさんが歌う同番組の主題歌「アルデバラン」なのだ。
シンガー・ソングライターとしても数々の名曲を世に送り出してきたAIさんだが、この「アルデバラン」の作詞作曲を手がけたのは、森山直太朗さん。「昨年の頭に、直太朗さんから曲が届いたのですが、最初のフレーズを聴いた瞬間に、やられた!と思いました」と前置きをしながら、AIさんは「アルデバラン」誕生のエピソードを語ってくれた。
AIさんに歌って欲しい、と森山直太朗さんから届いた運命的な曲
「母娘三世代の100年にわたる物語、それも朝ドラ……いったいどんな曲が相応しいのだろう。何カ月も様々なアプローチでデモテープ制作にトライしてみましたが、なかなか答えを見出せない。そんな中、誰かに委ねてみたら答えが導かれるかもしれないと思ったんです」
そこで楽曲提供を依頼したのが森山直太朗さん。ただし、朝ドラのテーマ曲ということは明かさず、「私が歌う曲を作っていただけませんか?」とお願いしたという。すると、こんな返事が来た。
「僕自身が歌うために書き始めていたけど、途中からAIさんが歌うべきだと思って書き上げた曲があるので、よかったら提供させてもらえませんか?」
まさに、運命的!
「ほんと?って驚きました。直太朗さんとは仕事の現場で顔を合わせたときに、元気ですか、と声を掛け合う程度の間柄でした。ただ、私がお願いしているヘアメイクさんが森山良子さんを長年担当している方で、直太朗さんの話も漏れ聞いていたせいで身近には感じていました。」
そんな直太朗さんから、AIさんに歌って欲しいと届いた曲、その始まりは……、
君と僕(私)は仲良くなれるかな
この世界が終わるその前に
「心が震えました。これだけでいい。すべてがここにある。感動しました」
曲の後半に入ったところに“ペテンな時代に負けないように/もし君が不確かな明日に心を震わせているのなら”というフレーズがある。
「コロナ禍に置かれた自分たちを想起する人も多いはず。世界に目を向ければ、戦争や対立する人同士の争いが起き、差別があり、胸が痛むことばかりで、いつ治まるのかもわからない。そんな将来が不透明で不安を拭えない今だからこそ、誰もが想いを分かち合える。そして、相手の気持ちに寄り添う1曲になっていると思っています」
楽曲タイトルの“アルデバラン”は、“後に続くもの”というアラビア語に由来する牡牛座のα星のこと。「この時代において、この曲が多くの人たちへの輝きと道しるべになるように」との願いを込めて命名されたという。
笑って笑って 愛しい人
不穏な未来に 手を叩いて
君と君の大切な人が幸せであるそのために
祈りながら sing a song
祈りながら sing a song
「アルデバラン」の歌詞の最後のフレーズだ。
「“笑って笑って”というこの言葉を、すぐ近くにいる人、目の前にいる人に向かって歌っています。例えば、歌番組のスタジオで歌うときは、私にレンズを向けてるカメラマンさんに向けて“笑って笑って”ってね。愛おしい人や親しい友たちだけでなく、たまたま目の前にいる人たちにも、一緒に乗り越えていこうってよ、というメッセージを込めて歌い続けたい。そんな曲なのです」
不穏な空気に押し潰されそうになったときに心に響いた父のことば
「アルデバラン」に限らず、AIさんの歌にはいつも人に寄り添う気持ちとメッセージがあり、聴く人の心を前向きにしてくれた。逆に、そんなAIさんの心に響いた言葉は? と訊いてみたところ、いろいろあるのですが……と思いを巡らせて、こう答えてくれた。
「元気だったらいいのよ、っていう父親の一言が強烈でした」
AIさんのディスコグラフィーに『What’s goin’ on A.I.(ホワッツ・ゴーイン・オン・エー・アイ)』という2006年リリースのアルバムがある。その当時も不穏な事件や問題が起こって、もう何が正しくて何が悪いかさえわからないような感じになっていた。そんな中、AIさんが「私は私なりに考えて、メッセージを込めた歌を歌いたい」と思って作ったアルバムだった。
「そのアルバムが生まれる過程で、実際に世の中では何が起こっているのかを肌で感じとりたくて、日本だけでなく海外にもいる友人や家族や親戚にまで電話をかけまくったんです。そうしたら、犯罪に巻き込まれた人が身近にいるという話や、その国の政治・社会情勢から起こる混乱に対する不安や怒り、絶望に満ちた声も聞こえてきたんです」
その暗澹とした気持ちをお父さんに電話で伝えたら、返ってきた言葉が、「そうか、でも元気だったらいいのよ」だった。
この一言で霧が晴れたような気持ちになり、「私に今できることはやっぱり音楽なんだ」と確信を持ってアルバム制作に向かうことができたという。
『ホワッツ・ゴーイン・オン』といえば、1971年リリースのマーヴィン・ゲイのアルバム『ホワッツ・ゴーイン・オン』を思い出す方も多いだろう。ベトナム戦争に行っていた弟から聞いた話をきっかけに、混乱した情勢の中での戦争、貧困などの社会問題に焦点を当てたタイトル曲は、単なるヒット曲という範疇を超えて注目を集めた。それから35年を経てAIさんが『What’s goin’ on A.I.』を出した時も、さらに15年以上の時が過ぎた今も、世界は本質的には変わってないのかもしれない。それでも変わらずAIさんが大切にしているのは、「Peace(平和)に向かって行きたい」という思いなのだという。
「でも、平和ってすごい言葉ですよね。ふたりの子供たちによく言うんです。平和って言葉はみんなが仲良くできる力を持っているんだから、すごいんだよ!って。わたしは平和って言葉が本当に好き。長女に「平和」って名前をつけるほどですから(笑)」
平和やSDGsいうワードをぐっと身近にする、Instagram SDGsメディア『TAP』を発足
歌を通して「Peaceに向かう」というメッセージを伝え続けてきたAIさんだが、昨年から別のアクションも起こしている。それが、SDGsに関する取り組み。昨年6月にInstagramメディア「TAP|Take Action for Peace」を開設し、ピースフルな世界実現を目指して発信を続けている。
SDGsを知って、みんなPeaceに向かっているんだ、と感じたAIさん。
「じゃあ、私もピースに向かうために何かできれば、という気持ちで、「Take Action for Peace」、略して「TAP」を立ち上げたのです。
SDGsの取り組みをしている企業や、世界平和に向けての活動をしている方にインタビューをしたり、将来についての夢について語り合う場をつくったり、いろんなテーマで投げかけをしています。コロナ禍もあって活動の制限はありますが、“私も何かをしたい”という思いをもつ人たちと繋がっている手応えを感じています」
リリースされたばかりのニュー・アルバム『DREAM』は、「平和=Peaceに向かって歩いていくドラマなんだ」という思いで歌った朝ドラ『カムカムエブリバディ』のテーマ「アルデバラン」のほかに、三浦大知やラッパー\ellow Bucks、世界的トップダンサーRIEHATAとのコラボレーション曲、世界201カ国の国と地域の人々の夢を集めた書籍のテーマ・ソングなど、AIさんにしか表現できないダイバーシティ感覚に満ちている。そして、インタビューにあった心に響く言葉を投げかけてくれた大好きなお父さんに捧げる曲「パパへ」も収められている。
「全ての人の心にある“陽のあたる場所”を思い描いて欲しい。これまでになく真っ直ぐに私の願いをタイトルに込めた“夢”の1枚 になっています」とAIさん。5月14日からは、待望の全国ツアー、AI“DREAM TOUR”(全国30箇所前後予定)もスタートする。
■AI Information:https://lnk.to/AI_Link
■『AI“DREAM TOUR”』詳細はこちらから:https://aimusic.tv/category/live/
■TAP │ Take Action for Peace:AI:https://www.instagram.com/take_action_for_peace/
■AI ニューアルバム『DREAM』
▼デジタル配信はコチラから:https://lnk.to/aidreamdg
▼CDはコチラから:https://lnk.to/aidream_ph
▼ニューアルバム『DREAM』スペシャルサイト:https://sp.universal-music.co.jp/ai/dream/
限定盤(CD+BD) UPCH-29423 定価 ¥5,500(税込)※
限定盤(CD+DVD)UPCH-29424 定価 ¥5,500(税込)※
通常盤(CD) UPCH-20614 定価 ¥3,300(税込)
※限定盤特典のライブ映像は、2021年11月1日・東京国際フォーラムでの行われたツアーファイナル「AI 20 周年記念 TOUR “IT’S ALL ME” FINAL ~AI Birthday Special」の模様を収録したもの。 他。
取材・文/堀けいこ
ヘアメイク:小野明美
スタイリスト:後藤則子
カメラ:小倉雄一郎