
コロナ禍のステイホームで、スマホ依存になっていないだろうか。SNSやネットサーフィン、動画視聴など、スマホを見ているだけで休日は一日が終わってしまうことも少なくないかもしれない。
今のコロナ禍などの不安なご時世においては、SNSなどを閲覧しながら、ネガティブな情報を目にすることも多いと思うが、そんな情報ばかりを見続けてしまう行為「ドゥームスクローリング」が世界的に問題視されている。
そこで「ドゥームスクローリング」をしてしまうのはなぜか、その対策法を専門家に聞いた。
「ドゥームスクローリング」とは?世界中で検索数が過去最大に
Googleが公式サイト「Year in Search: 検索で振り返る 2021」のページで公表している情報によると、2021年は、世界中で「ドゥームスクローリング」の検索が過去最大になったという。ドゥームスクローリングとは、「気分が落ち込んでいるとき、不幸なニュースを見つけることを期待して、SNSの投稿を延々と読み続けてしまうこと。」を指す。
この表現は少なくとも2018年から存在していたそうだが、2021年1月には検索が過去最大になったという。それだけ最近、ドゥームスクローリングへの興味関心や不安が高まっていることが背景にあるのかもしれない。
ドゥームスクローリングの原因とは?
ドゥームスクローリングをしてしまう原因はどんなことにあるのか。米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラーの長野弘子氏に尋ねた。
【取材協力】
長野弘子氏
米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー。NYと東京をベースに、15年間ジャーナリストとして多数の雑誌に記事を寄稿。2011年の東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。自然災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウェスト大学院でカウンセリング心理学を専攻。現地の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、さまざまな心の問題を抱える人々にセラピーを提供している。悩みを抱えている人、生きづらさを感じている人はお気軽にご相談を、とのこと。
http://www.lifefulcounseling.com
「もともとヒトの脳は、身を守るために、危険なものに強い反応を示すようにできています。事件や事故のニュースをつい見てしまうのも、役に立つ情報を得て緊急事態に備える自己防衛本能と言えるでしょう。
しかし、度を越して見てしまう場合は、情報を見逃せないという恐怖心や、社会的つながりが絶たれることへの不安感などから、どうしても止められなくなる『強迫行為』の可能性があります。
強迫行為は不安を抑えるために同じ行為を繰り返すものですが、繰り返せば繰り返すほど不安は強まってしまいます。つまり、負の情報に触れれば触れるほど不安感が高まり、どんどん悲観思考になっていきます。するとさらに気分が落ち込むので、その嫌な気分を正当化するために、さらに悲観的な情報を探して『世界は最悪だ!』と思い込んでしまうのです。
通常は他者と話したり、息抜きをしたりしてどこかで切り替えができますが、コロナ禍で社会的な活動が制約され、オンライン滞在時間が増えたことで、この切り替えが難しくなってしまいました。そのままにしておくと、情報の偏りから家族や周囲と価値観が合わなくなり、孤独感や絶望感を感じたり、不眠やパニック発作など心身の不調に発展するリスクがあります」
ドゥームスクローリングを自覚したときの対処法
コロナ禍でドゥームスクローリングになっていることを自覚した人には、どんな対策があるのだろうか。
1.「マインドレス」状態にあることを自覚する
「まずは自分が現実とは解離した『マインドレス』の状態にあり、現実に戻ってくる必要があることを自覚しましょう」
2.「デジタルデトックス」に挑戦する
「そして、デジタル機器との付き合い方を見直す『デジタルデトックス』に挑戦してみてください。デジタルデトックスとは、心身のストレスを軽減する目的で、スマホやパソコンなどのデジタル機器を一定期間使わないことです。
すべてを使用禁止にすると仕事に支障が出てしまいますので、例えば仕事に必要な機能のみ使う、メールやLINEなどの連絡は1日に数回だけ行う、ニュースは朝と夜の10分間しか見ない、スマホのSNSやゲームアプリは削除、通知をオフにする、買い物や散歩にはスマホを持ち歩かない、自宅ではスマホを使わないなど、自分のできる範囲からやってみましょう。
まずは週末の2日間でもいいのでチャレンジしてみると、自分がいかにデジタル機器に依存して時間を無駄に使っていたかに気づくでしょう」
3.人や自然と直接触れ合う
「その他、意識して外に出て散歩したり、直接、人や自然と触れ合う時間を増やすと良いです。自然に触れることで心が落ち着き、不安感が和らぎます」
4.瞑想や深呼吸
「瞑想や深呼吸などで気持ちを落ち着かせる時間を毎日作り、『不安のほとんどは実際には起こらない』と自分に言い聞かせます。恐れや不安が理性の脳をハイジャックしてしまわないよう、客観的に物事を見る習慣をつけましょう」
「これらを試しても、ドゥームスクローリングがどうしても止められない場合は、専門機関に行くことをおすすめします」
スマホ依存の人は要注意
ドゥームスクローリングとまではいかなくても、食事中や誰かと話しているときもスマホが手放せない、スマホのやりすぎで寝不足という人などは、スマホ依存の可能性があると、長野氏は述べる。
「ライムライト・ネットワークス・ジャパンの2019年の調査によると、日本人のスマホ依存度は、インド、韓国に次いで世界で3番目という結果が出ています。心当たりがある人は、週末だけでもデジタルデトックスにチャレンジして、デジタル機器との付き合い方を見直してみましょう。
ドゥームスクローリングに限らず、強迫行為やお酒やゲームなどへの過度の依存は、不安回避行為です。こうした傾向のある人は、不安感をうまく処理するテクニックを学ぶといいでしょう。
具体的には、不安なことを全部ノートに書き出し、それが起きる確率は何%か、そうならないよう今できることは何か、それが起きたときに自分はどう対処するか、それが起きたことによる学びは何かをノートに書き出し、実行計画を立てて自分にできることを実践していきます。他人の言動など自分が変えられないことはさっさと手放して、自分ができることだけに焦点を当てるのがコツです。小さなことでも行動することで自信につながり、現実から目を逸らすことが減っていくでしょう」
知らないうちにスマホ依存からドゥームスクローリングに陥ってしまうこともある。心身の健康を保つために、たまにはデジタルデトックスや自然と直接触れ合うといった行為を行うのをおすすめする。
【参考】
Google「Year in Search: 検索で振り返る 2021」
取材・文/石原亜香利