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見たとたん、うちの子の生まれ変わりだとわかった【犬が死んだ朝】

2020.06.14

犬が死んだ朝

雨が降れば緑が濃く香る昨年の6月に、私の大切な愛犬が旅立ってしまった。ペット霊園で一周忌の合同法要が終わり、ほかの飼い主たちが席を立って帰ってしまっても、なんだかその場から離れがたく、私はパイプ椅子に座って正面の観音様の像をながめている。

観音様は金ぴかで、とても頼れるお姿をしている。仏像なんてことさら興味深く見たことはなかったけれど、ここの観音は慈悲深い、とても良いお顔をしていて、思いがけない奇跡を起こしてくれるのだ。

それにしても一年なんて本当にあっという間だった。朝の散歩の時間に飛び起きて、「あっ、もう行かなくていいんだ」とドキドキしながら、可愛い姿を思い出して泣くことも少なくなった。誰かが「亡くなった悲しみは時が癒してくれる」と言っていたがその通りだった。

それでも亡くなった直後は本当に苦しい毎日だった。親が亡くなった時だってこんなに悲しくなかった。泣きすぎて顔が腫れあがり、仕事中も突然トイレに駆けこんで泣いたりしていたから、会社で変な噂が広まってしまった。

そこで、「たかが犬ごときで」と言う人と、「すごくよくわかる」と言う人の、二つに分かれた。「たかが」の人とはこの一年で、徐々に疎遠になっていき、「よくわかる」と共感してくれた人とは親密になっていった。私の人間関係がきちんと整理されたのには驚いた。

我が子同然の愛しい愛犬との別れを経験して、一緒に暮らしていた時間がどんなに大切で幸せなものだったかをつくづく感じる。もっと一緒の時間をつくって、もっとたくさん遊んであげればよかった。出張なんて断ればよかったのに、悔いばかりが残る。

お寺の事務の人がこちらをチラチラ見ている。そろそろ席を立たなければ。最後に、合同墓地の一角に名前を刻んだ墓碑銘に手を合わせて帰ろう。

木々が生い茂る霊廟を抜けて、墓碑銘が並ぶ一角に出た。私と同じように法要に参加した飼い主たちが集まって、にぎやかにしている。思い出話をしているようだ。愛されて、亡くなった後もこんな風に思い出してもらえる、幸せなペット達がたくさんいた。

私も墓碑銘の書かれた石の前で手を合わせる。今日は愛犬に報告することがあった。ブリーダーさんから新しく子犬を譲ってもらうことが決まったのだ。

最初は断った。こんな悲しみを再び体験するのは嫌だったし、うちの子は自分が一番で、私が他の犬をかわいがるのを嫌がったから。でも、他の子じゃなかった。

ブリーダーに断りの電話を入れたらあっさり、「わかった、じゃあまたね」、と言われて、ついでのように「もしよかったら犬と関係なく、うちに遊びに来ない?久しぶりに会いたい」と誘われた。そしてうっかりケーキを片手に遊びに行って、運命の出会いをしてしまったのだ。

見た瞬間、「うちの子だ」と感じた。生まれ変わってきてくれたんだね、ありがとう、また幸せに過ごしましょう、そんな言葉が頭に浮かんだ。これはもう、運命だ。

墓碑銘に手を合わせながら「こっちの世界に生まれ変わってきてくれてありがとう。もうそこにはいないんでしょう?あなたのことをいつも考えていたから、すぐにわかったよ。どんな姿をしていたって、あなたが一番だからね」と伝える。

前の身体の時にできなかったことを、いっぱい体験して、後悔しないように過ごしたい。慈悲深い観音様がくれた再会に感謝しながら。


文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

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