母犬のお乳を一心不乱に飲んでいる子犬たちの姿はなんとも可愛いものだ。それこそ身を削って子犬を産み落とした母犬も新たな命をこの世に送り出すという偉業を成し遂げ、どこか自信に満ちているようにさえ思える。
犬は何匹の子犬を産める?
ところで、犬は一度に何匹くらいの子犬を産むものなのだろうか?と改めて考えてみた。
今年の2月末、アメリカのアリゾナに住むCleoという名のグレート・デンは帝王切開により19匹の子犬を産んだそうだ(*1)。
「すごっ!」と言いたくなるが、上には上がいるもので、24匹の子犬を産んだナポリタン・マスティフ(名前はTia、イギリス、2004年)のギネス記録もある(*2)。それだけの数の子犬がお腹にいたら、母犬はさぞかし体が重かったろうに…。
この犬たちは特別なのかもしれないが、一般的な犬は1回にどのくらいの子犬を産むものなのか。ノルウェーのケネルクラブに登録されていた224犬種1万810腹の子犬から調査した結果では、「小型犬で平均3.5頭、大型犬では7.1頭、全体的としては5.4頭」だそうだ(*3)。
犬種による違いは?
では、犬種による違いは?というと、以下のとおり。
(*4 via *5,から抜粋/出産後8日時点の平均値、数値は“およそ”)
フラット・コーテッド・レトリーバー ⇒ 7.6匹
ゴールデン・レトリーバー ⇒ 7匹
セント・バーナード ⇒ 5.7匹
ボーダー・コリー ⇒ 5.7匹
ビーグル ⇒そ5.1匹
ブルドッグ ⇒ 5匹
シー・ズー ⇒ 4.2匹
パピヨン ⇒ 3匹
チワワ ⇒ 3匹
トイ・プードル ⇒ 2.2匹
産める数や子犬の大きさに影響を与える要素
このように生まれてくる子犬の数には差が見られるわけだが、その数や子犬の大きさに影響を与える要素としては、主に以下のようなものが考えられている。
・犬のサイズ、犬種
・両親犬の年齢(特にメス犬)
・両親犬の健康度
・両親犬の栄養度
・近親交配、遺伝子プールの範囲 など
総体的に犬のサイズが大きくなるほど一度に産まれる子犬の数も多くなる。しかし、特に大型犬において、メス犬の出産年齢が上がると子犬の数が少なくなる傾向にあるそうだ(*3)。
また、初産、および初産が5歳以降であると子犬の数は少ない傾向にあり、2~5歳の間ではちょうど出産に適した時期であるためか、子犬の数がやや多くなるという(*6)。
その他、オス犬でも年齢が上がると生殖機能の低下が見られることから、子犬の数に影響すると考えられ、確かに年齢要素は大きなポイントとなるようだ。
そして、意外にも繁殖の仕方も関係し、近親交配であると産まれてくる子犬の数が少なくなり、かつ寿命にも関係するとの研究報告もある(*6. 7)。
不妊去勢手術をするのか、しないのか
こうして子犬のことを考えると、中には自分の愛犬の子犬が見たい、愛犬の血を残したい、メス犬として1回くらいはお産をさせてあげたいと考える人もいることだろう。しかし、単にその欲望を満たすだけの安易な繁殖は禁物と言わざるを得ない。両親犬の性格や年齢、健康度、相手との組み合わせ、遺伝および遺伝性疾患、子犬の行先…など考えねばならないことは諸々あるのだから。
昨今では繁殖するつもりがないのならば、生殖器系疾患やそれに関連する行動問題の予防のためにも不妊去勢手術をするのが望ましいという考え方が主流となっており、こと保護犬を譲渡する際には手術がマストとの意見が大勢を占めている。
一方、手術はせず、できるだけ自然のままにいさせてあげたいという考え方も根強くあるのも事実だ。その代わりに、管理はしっかりすることになるが。
ちなみに、北欧の国では不妊去勢手術をすることは逆に飼い主として犬をきちんと管理できていないことの表れであるとの意識があって、手術をしていないケースのほうが多いと現地に住む人から聞いたことがある。余談ながら、手術をしていない場合の生殖器系疾患の論文やデータを探そうとしても思ったようなものがあまり見つからず、どうしても北欧のデータに頼らざるを得ないと言っていた研究者もいた。
不妊去勢手術をするのか、しないのか。どちらをよしとするかは飼い主さん次第。
飼い主が考えを整理しておくことが大事
今、筆者の頭の中には、オーストラリア映画『ライオン』の中のあるセリフが流れている。インド人の幼い子どもを養子に迎えたオーストラリア人夫婦。その奥さんが、「ほんとうは子どもが産める体だった。けれど、世の中には人が溢れかえっており、恵まれない子どもも多い。そういう中で、新たな命をつくり出す必要があるのだろうか?」というような意味合いのことを言うのだ。
ある意味、現状のペット世界はそれに似たようなところがあるのかもしれない。そういう中で、犬と暮らす以上、愛犬の交配・繁殖に関することについては、自分の考えを整理しておくことは大事なのではないだろうかと考えたりしている。
参考資料:
(*1)Veterinarians deliver litter of 19 Great Danes / UPI, Feb. 25. 2019
(*2)Largest litter – dog / GUINNESS WORLD RECORD
(*3)Litter size at birth in purebred dogs—A retrospective study of 224 breeds / Kaja Sverdrup Borge, Ragnhild Tønnessen et al. / Theriogenology Volume 75, Issue 5, 15 March 2011, P 911-919, Doi: https://doi.org/10.1016/j.theriogenology.2010.10.034
(*4)Canine perinatal mortality: A cohort study of 224 breeds / R. Tønnessen et al. / Theriogenology Volume 77, Issue 9, June 2012, Pages 1788-1801, Doi: https://doi.org/10.1016/j.theriogenology.2011.12.023
(*5)Litter Size / Carol Beuchat PhD / The Institute of Canine Biology
(*6)WHAT INFLUENCES A PUPPY LITTER SIZE? / BREEDING BUSINESS
(*7)Inbreeding impact on litter size and survival in selected canine breeds / Grégoire Leroy et al. / The Veterinary Journal, Volume 203, Issue 1, January 2015, P74-78, Doi: https://doi.org/10.1016/j.tvjl.2014.11.008
文/犬塚 凛