日本酒好きなら誰もが知っているこの5選。だが、名前の由来まで知っている人は意外と少ないだろう。
お酒の席でちょっとした小ネタになる情報を紹介していくので、お酌する時にぜひ得意げに話してみてほしい。
十四代|「としよ」に間違えられた?
入手困難なために、「幻のお酒」と、日本酒好きから崇められている十四代。甘めのフルーティな味わいが特徴的だ。
十四代を作っているのは、山形県村山市に酒蔵を構える高木酒造。1963年(昭和38年)ごろ、日本酒の商標登録で数字は入れられなかったにもかかわらず、14代目である高木辰五郎氏が『十三代』『十四代』『十五代』『十六代』の名前で申請を行なったところ、なぜか奇跡的に十四代だけ通ったことが由来だと言われている。
なぜ十四代だけクリアできたのか正確な理由は明らかではないが、「としよ」などの人物名に間違えられた可能性があることで知られている。十三代は「とみよ」、十五代は「とこよ」とは解釈されなかったのだろうか…
参考:ミツワネットショップ
而今|過去・未来ではなく「今」を生きる
爽やかさとフルーティーさを兼ね備えたバランスの良い味わいで、根強いファンが多い而今(にこん・じこん)。三重県の木屋正酒造で造られている。
而今は「一瞬」という意味を持つ禅語であり、鎌倉時代初期の禅僧である曹洞宗 道元禅師の唱えた言葉だと言われている。「いはくの今時(こんじ)は人人(にんにん)の而今(にこん)なり。我(われ)をして過去未来現在を意識せしめるのは、いく千万なりとも今時(こんじ)なり、而今(にこん)なり。」(「過去にも囚われず未来にも 囚われず、今をただ精一杯生きる」)と道元が説いたことから、「而今」という言葉自体が有名になり、日本酒名に起用された。
余談だが、日本を代表するカメラメーカー『Nikon』の名前は、日本光学工業の略称としてだけでなく、一瞬のシャッターチャンスを「而今」にかけて名付けられたとも言われている。
黒龍|川に龍が現れた?
黒龍は福井県坂井市の黒龍酒造が造るお酒。黒龍酒造は、江戸時代後期に創業された伝統ある酒蔵で、米と水にこだわった酒造りが特徴的。クセがなくすっきりとした味わいだ。
黒龍の名前は、酒蔵のある永平寺町松岡を流れる川に由来している。今は「九頭竜川」(くずりゅうがわ)という名前だが、古名は「黒龍川」(くつれうがわ)だった。
そもそもこの九頭竜という変わった川の名前にもいろいろな説がある。平安時代の寛平元年、現在の福井県勝山市にある平泉寺の白山権現(※)と呼ばれる神様が衆徒の前に現れた。白山権現が、尊像を川に浮かばせたところ一身九頭の竜が現れ、その尊像を頂くように川を下り、黒竜大名神社の対岸に着いたことが由来だと言われている。
※白山権現(はくさんごんげん):白山の山岳信仰と修験道が融合した神の名前。
参考:
福井県酒造組合
国土交通省近畿地方整備局
東洋美人|初代蔵元のイケメンっぷりがうかがえるお酒
東洋美人は、口当たりがまろやかで芳醇な甘さも感じられるお酒。飲みやすいので、初心者でもおいしく楽しめる。公の場で活躍する機会も多く、JAL国際線ビジネスクラスに搭載されたり、2010年のFIFAワールドカップ南アフリカ大会公認の日本酒としても選定された経歴を持つ。
「東洋美人」は、山口県萩市にある澄川酒造場の初代蔵元が、亡き妻を想い名付けた名前だ。今では日本全国に流通し、ファンの多い東洋美人。妻の存在を日本酒として蘇らせ、生かし続ける初代蔵元のイケメンっぷりが感じられる。
参考:酒やの鍵本
酔鯨|鯨が飲むように、豪快にお酒を飲み干してほしい
酔鯨は、高知県の酔鯨酒造で造られており、おだやかな香りと後味のキレの良さが人気。
酔鯨という名前は、この酔鯨酒造の現社長、大倉広邦氏の祖父にあたる土佐藩第15代藩主であった山内容堂が大酒飲みだったことに由来している。山内容堂は「鯨がいる海の酔っ払い殿様」という意味を込めて、自らを「鯨海酔侯(げいかいすいこう)」と名乗っていた。現社長の大倉氏は、「お客様にも鯨が水を飲むように豪快にお酒を気持ちよく飲み干してほしい」という想いを込め、そのまま「酔鯨」と名付けたそうだ。
大酒飲みだと自分で名乗ること自体がユニークな考え。名前だけで、その生き様がうかがえる。今度酔鯨に出会ったら、鯨が飲むように豪快にお酒を楽しもう。
参考:酔鯨酒造株式会社
取材・文/ゆりどん