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学歴や経歴を詐称して入社した従業員は罪に問われる?

2022.02.25

新卒採用や中途採用の選考時に、会社に対して良い印象を与えるため、候補者が虚偽の学歴や経歴を申告することがあるようです。

中には証明書類を偽造する悪質なケースも存在し、会社が学歴・経歴の詐称を見抜くことは容易ではありません。

もし学歴・経歴を詐称して入社したことが判明した場合、従業員は何らかの犯罪に問われるのでしょうか?

また、会社が学歴・経歴を詐称した従業員を解雇することはできるのでしょうか?

今回は、入社時の学歴・経歴詐称に関する法的な問題点をまとめました。

1. 学歴や経歴を詐称して入社したら、犯罪に問われるのか?

経歴を詐称して入社する行為は、原則として犯罪には該当しません。

しかし、学位等の詐称は軽犯罪法違反に当たるほか、会社に提出する証明書類等を偽造した場合には、文書偽造罪に問われる可能性があります。

1-1. 経歴の詐称自体は犯罪に当たらない

会社に対して虚偽の経歴を伝えたり、それを真に受けた会社からの内定を受けて入社したりする行為は、原則として犯罪に該当しません。

なぜなら、そのような行為を処罰する法律上の規定がないからです。

刑法は「罪刑法定主義」を採用しており、法律の明確な根拠がなければ、特定の行為を犯罪として処罰することはできません。

ただし、特定の経歴や資格に対して会社が資格手当を支給している場合に、虚偽申告により資格手当を受け取った場合には、「詐欺罪」(刑法246条1項)に該当する可能性があります。

詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。

1-2. 学歴の詐称は軽犯罪法違反に当たる可能性あり

軽犯罪法1条15号では、以下の称号を詐称することが犯罪とされています。

①官公職
②位階勲等
③学位
④その他法令により定められた称号
⑤外国における①~⑤に準ずるもの

したがって、会社に対して学位(学士・修士・博士・専門職学位等)を詐称する行為は、軽犯罪法違反に該当します。

軽犯罪法違反の法定刑は「拘留または科料」です。

1-3. 証明書類を偽造した場合は文書偽造罪に当たる

会社に提出する経歴・学歴に関する書類を偽造した場合、公文書偽造罪(刑法155条1項)または私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立します。

たとえば学歴に関する書類では、国公立学校の卒業(修了)証明書は公文書、私立学校の卒業(修了)証明書は私文書に該当します。

公文書偽造罪の法定刑は「1年以上10年以下の懲役」、私文書偽造罪の法定刑は「3月以上5年以下の懲役」です。

2. 学歴や経歴を詐称して入社した従業員を、会社は解雇できるのか?

入社時に申告した学歴や経歴が詐称であった場合、会社は従業員を懲戒解雇できる場合があります。

ただし、解雇の可否は詐称の内容・重大性によって変わるので、会社としては慎重な検討が必要です。

2-1. 懲戒解雇の要件

学歴・経歴の詐称により、会社が従業員を懲戒解雇するには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

<懲戒解雇の要件>

①就業規則上の懲戒事由に該当すること
学歴・経歴の詐称が、就業規則に定められる懲戒事由に該当することが必要です。

②解雇権濫用の法理に抵触しないこと
学歴・経歴の詐称の内容・重大性等に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、「解雇権濫用の法理」に抵触し、懲戒解雇は無効となります(労働契約法16条)。

2-2. 詐称の内容が重大な場合には、懲戒解雇が認められる可能性あり

学歴・経歴の詐称を理由とする懲戒解雇を行う場合、解雇権濫用の法理に抵触しないかが最大の論点となります。

学歴・経歴の詐称が軽微なものであり、詐称がなくても会社は従業員を採用したと考えられるような場合であれば、懲戒解雇は無効になると考えられます。

これに対して、学歴・経歴の詐称が重大な場合には、会社が従業員を雇用する理由の根幹が覆されるため、懲戒解雇が適法と認められる可能性が高いです。

ただし、どのような詐称が「重大」であるかはケースバイケースの判断となるうえ、従業員の能力など、その他の事情も総合的に考慮される点に注意しましょう。

3. 入社前の内定段階で学歴・経歴詐称が発覚した場合は?

入社前の内定段階で、内定者の学歴・経歴詐称が発覚した場合、内定取り消しが認められる可能性があります。

最高裁昭和54年7月20日判決(大日本印刷事件)では、内定の時点で(始期付・解約権留保付)労働契約の成立を認めつつ、以下の要件をいずれも満たす場合には、会社による内定取り消しを認めています。

①採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であること
②採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができること

内定取り消しの要件は、解雇よりも若干緩やかであると解されています。

そのため会社としては、できる限り入社前の段階で、学歴・経歴詐称をした候補者の内定を取り消すことが望ましいでしょう。

もちろん、あらゆる学歴・経歴詐称について内定取り消しが認められるわけではないので、事前の慎重な法的検討が不可欠です。

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
https://abeyura.com/
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