キャバクラなどの接待を伴う飲食店では、客からキャストに対するボディタッチが行われることがあります。
中には、相手の同意を得ずにボディタッチを行うケースもあるようですが、犯罪に問われるリスクが高まるため、厳に慎まなければなりません。
今回は、接待を伴う飲食店でのボディタッチについて、問題となる犯罪をまとめました。
1. 接待を伴う飲食店でのボディタッチについて問題になる犯罪
接待を伴う飲食店でのボディタッチに関して、成立し得る主な犯罪は以下のとおりです。
1-1. 迷惑防止条例違反
各都道府県が定める迷惑防止条例では、公共の場所における「痴漢」行為を禁止しています。
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること
(東京都迷惑防止条例5条1項1号)
接待を伴う飲食店も、他の客や店員などが存在する「公共の場所」なので、相手の同意がないボディタッチは迷惑防止条例違反に該当する可能性があります。
東京都の迷惑防止条例では、上記の規定の違反者には「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されます(同条例8条1項2号)。
1-2. 強制わいせつ罪・強制わいせつ致傷罪
暴行または脅迫を用いて、相手の反抗を著しく困難にしたうえでボディタッチ等のわいせつな行為をした場合、強制わいせつ罪(刑法176条)が成立します。
強制わいせつ罪の法定刑は、「6月以上10年以下の懲役」です。
さらに、強制わいせつの際に相手にケガをさせた場合には、強制わいせつ致傷罪(刑法181条1項)が成立し、「無期または3年以上の懲役」に処されます。
他の客や店員の目があるため、強制わいせつ罪等に相当する行為はあまり想定されないかもしれません。
しかし悪質な行為については、状況によって強制わいせつ罪等の重罪が成立し得ることを覚えておきましょう。
1-3. 公然わいせつ罪
公然とわいせつな行為をした者には、公然わいせつ罪が成立します(刑法174条)。
公然わいせつ罪の法定刑は、「6月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」です。
「公然と」とは、わいせつな行為を不特定または多数の人が認識できる状態を意味します。
接待を伴う飲食店は、他の客や店員の目がある公共の場所であるため、「公然と」の要件を満たすと考えられます。
「わいせつ」とは、「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」を意味すると解するのが判例の立場です(最高裁昭和26年5月10日判決、最高裁昭和32年3月13日判決等)。
ボディタッチがエスカレートすれば「わいせつ」に該当し、公然わいせつ罪の対象になり得る点に注意しましょう。
2. 相手の同意があれば犯罪は成立しない?
ボディタッチは「相手の同意があればOK」と理解している方も多いところですが、相手の同意の有無にかかわらず成立する犯罪もあるので注意が必要です。
2-1. 迷惑防止条例違反・強制わいせつ罪は、相手の同意があれば不成立
迷惑防止条例における痴漢の禁止と強制わいせつ罪は、いずれも個人の性的自由を保護法益としています。
相手が自由な意思によってボディタッチに同意していれば、個人の性的自由を保護する必要性がなくなります。
したがって、ボディタッチについて相手の同意がある場合には、迷惑防止条例違反・強制わいせつ罪は成立しません。
2-2. 公然わいせつ罪は、相手の同意があっても成立し得る
これに対して公然わいせつ罪は、「性的秩序・風俗」という社会的法益が保護法益であると解されています。
社会的法益は、行為を受ける者の同意があったとしても、保護の必要性がなくなるものではありません。
したがって、ボディタッチについて相手の同意があるとしても、公然わいせつ罪が成立する余地はあります。
3. 相手の「同意」が認められるのはどんな場合?
迷惑防止条例違反・強制わいせつ罪の成立を否定する、ボディタッチについての相手の「同意」は、ボディタッチが行われる時点で必要です。
実際の犯罪の認定に当たっては、ボディタッチ当時の被害者の意思内容を、様々な事情を総合して事後的に判断しなければなりません。
接待を伴う飲食店の場合、ボディタッチに対する同意の有無は、以下の事情などを考慮して判断されることになるでしょう。
・店舗として提供するサービスの内容(ボディタッチをサービス内容に含んでいるかどうかなど)
・客とキャストの関係性(一見か常連か、恋愛関係にあったかどうかなど)
・ボディタッチ当時の会話内容(同席者の証言などから判断)
など
「店としてボディタッチを認めているからOK」と単純に考えることはできず、ボディタッチ当時の状況に応じて、個別具体的に同意の有無が判断される点に注意が必要です。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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