新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、我々が普段、口にする食品の抗ウイルス効果の検証が進んでいる。近い将来、新たな健康効果が期待できる食品が誕生するかもしれない、最新の食品研究を3つ紹介する。
1.「高濃度カテキン」新型コロナ・インフルエンザ等の不活化効果
株式会社HPGという食品・化粧品等に使用される各種素材開発・研究を行う会社は、カテキンの一種である「EGCg(エピガロカテキンガレート)」を高濃度化したまま水溶液中で、保存安定性を高めることに成功させていた。
そして、その技術で開発された安定化高濃度カテキン EGCgは、九州保健福祉大学副学長・薬学部長・薬学科長の黒川昌彦教授を中心とした研究チーム他によって、新型コロナ、インフルエンザ、SARSのウイルスに関して有効な不活化効果が実証されたのだ。
●新型コロナ、インフルエンザ、SARS ウイルスの不活化効果を実証
この安定化高濃度カテキン EGCgは九州保健福祉大学副学長・薬学部長・薬学科長黒川昌彦教授研究チームなどの研究によって変異を繰り返すインフルエンザウイルス、SARSウイルス、新型コロナウイルスなどに対して不活化効果があることが明らかにされた。
安定化高濃度カテキン EGCgがウイルス粒子表面のたんぱく質に結合することで生体細胞への侵入を防ぐというメカニズムだ。
●安全性から食品の製品化に期待
先日、この実証結果の発表会で講演したHPG代表取締役 金山正則氏によれば、開発のきっかけは、「ウイルス対策として、皆様の生活に何とか役に立てないかというところから始まり、ようやく今回の結果が出せた」と述べた。
この高濃度カテキンのメリットは、安定化を実現させているすべての構成成分が、厚生労働省が許認可する食品添加成分であることにある。体内に入っても副反応などの心配もなく、子どもから高齢者まで安心して口腔ケアなどによる服用も可能だそうだ。
また、添加濃度にもよるが、不活化効果を示す濃度であれば、カテキン EGCg特有の渋みや苦み、変色等で既存製品本来の味わいや香り・色合いに与えるダメージはほとんどなく、様々な分野の製品に展開できるという。
市販の微炭酸レモン飲料、コーラ飲料、炭酸水、国産焼酎、中国焼酎白酒に添加して、ウイルス不活化の検証も行ったが、変わらずウイルス不活効果が発揮されていたことから、これらの多様な飲料を、抗ウイルス機能を持つ飲料として開発できる汎用性も期待できるという。
さらに、ウイルス予防の口腔ケア、手指消毒、飲食物の開発、家畜のインフルエンザ予防対策への活用にも見込みがあるという。
2.「柿渋」中のタンニンが新型コロナウイルスの不活化に成功
奈良県立医科大学の伊藤利洋教授と矢野寿一教授、同大学と連携する一般社団法人MBTコンソーシアムが、2020年9月に高純度の柿渋を使うことで、新型コロナウイルスの不活化に成功したと発表した。
柿渋中のタンニンが、感染力を持つ新型コロナウイルスを1万分の1以下に減らすという。
●奈良県立医科大学とメーカーとの共同研究
MBTコンソーシアム会員であるUHA味覚糖、カバヤ食品、カンロ、春日井製菓との共同研究の結果が2021年2~3月に発表された。
UHA味覚糖、カンロ、春日井製菓との共同研究では「柿渋含有飴」において、またカバヤ食品との共同研究では「柿渋含有タブレット」において、新型コロナウイルスの不活化を確認している。
カンロに取材したところ、いまだ収束しない新型コロナウイルスの感染拡大の状況に対して将来的な社会貢献を目指し、今回の柿渋を用いた食品の共同研究に参画したという。
柿渋は石井物産株式会社(奈良県五條市)製の高純度柿渋を使用。独自の製法で食品用として得られる無臭の柿渋粉末で、赤褐色の柿タンニンを多量に含んでいる。柿渋は古くから、防腐作用が期待され、塗料や染料に使用されるなど、人々の生活には欠かすことのできないもので、昨今ではその機能性に注目があつまり研究が進められているという。
3.「納豆抽出液」が新型コロナウイルスの培養細胞への感染を阻害
国立大学法人 東京農工大学農学部附属 感染症未来疫学研究センターは、国立大学法人宮崎大学、タカノフーズ株式会社との共同研究において、納豆の抽出液が、SARS-CoV-2の(新型コロナウイルス)の感染を阻害することを発見したと、2021年7月に発表した。
実験では、タカノフーズ株式会社の「すごい納豆S-903」の納豆抽出液を使用。
納豆抽出液に含まれる物質がSARS-CoV-2の表面に出ているスパイク蛋白質の受容体結合領域を分解することにより、感染を阻害することを証明した。
●食品の直接的抗ウイルス効果が示される
これまで、食品の直接的抗ウイルス効果を示された例は少なく、伝統的な食品の非常時における価値が見直されるきっかけになる研究となるという。
この研究に関わった同研究センター長の水谷哲也教授に、研究について話を聞いた。
「これまで食品の感染症に対する効果は『免疫の増強』で説明されてきました。これは(1)食品が免疫を活性化する、(2)活性化された免疫がウイルス感染を阻止するという2段階から成り立っています。しかし、多くの場合には(1)のみが証明されていて、(2)の効果を示すのはかなりむずかしいといえます。もし食品がかなり効果的にウイルス感染を阻止できれば、究極の考え方としてワクチンは必要なくなります。免疫を上げる食品を摂取しない人よりは、摂取したほうが良いに決まっています。
そこで私たちは、食品の持つ抗ウイルス効果をもっと直接的に証明できないか、と考えました。そして、納豆菌が80種類もの蛋白質分解酵素を出していることを知りました。これは当たり前の話で、納豆菌は全力で煮豆を消化しなければならないからです。80種類というのは、包丁もあればハサミもあり、刀もあれば鉄砲もあるということです。そのうち、どれかひとつは新型コロナウイルスを分解できるのではないか、と考えたのです。すると、やはり納豆菌の蛋白質分解酵素は新型コロナウイルスのスパイク蛋白質を分解して不活化しました。他のウイルスについても研究は進行中です」
●今後の可能性
この研究は培養細胞を用いた実験であり、納豆を食べることによりSARS-CoV-2の感染を防ぐことができることを示しているわけではないという。
そうなると、今後食品開発にどのように活かしていけるのかが気になるところ。
「これからは食品中のウイルスなどの病原体を分解し、安全安心な食品を作る方向に進もうと考えています。その最終ゴールは、病原菌に汚染された食べ物で命を落としている発展途上国の子どもたちを救うことです。そのことを目標にしながら、食品の持つ抗感染症のメカニズムは基礎研究として、食品開発は企業化して、両輪で世界に貢献していく予定です」
世界的に猛威をふるう新型コロナウイルス感染症。食品からの不活化についての研究はこれからもどんどん加速していくことだろう。近い将来、身近なところに製品化されていくのを期待したい。
【参考】
HPG「新型コロナ等ウイルス不活化に新展開【緑茶カテキンEGCg】の水溶液中での高濃度安定化に株式会社HPGが成功」
奈良県立医科大学「MBT柿渋の新型コロナウイルスに対する研究成果について」
東京農工大学「納豆抽出液が新型コロナウイルスの培養細胞への感染を阻害することが判明~感染予防対策への貢献に期待~」
取材・文/石原亜香利