2022年1月に開催された、デジタルカードゲーム『シャドウバース』の世界大会「Shadowverse World Grand Prix 2021」。そこで優勝し、日本開催のゲーム大会史上最高額となる1億5000万円の賞金を手にしたのは、19歳の大学生kakip(かきぴー)だった。カードゲーム好きの少年から世界王者へと華麗に転身したkakipに、プロゲーマー兼ライターであるすいのこが直撃取材した。
シャドウバース(Shadowverse)とは?
Cygamesより配信されている、対戦型オンライントレーディングカードゲーム。通称「シャドバ」。「フォロワー」「スペル」「アミュレット」の3種類のカードを組み合わせて40枚のデッキを編成して戦う。1ターンごとに増えるプレイポイントをコストとして支払うことでカードを使用し、相手リーダーキャラクターの体力をゼロにしたら勝利となる。2022年現在、日本語を含む9カ国語版がリリースされており、累計ダウンロード数は2500万を超える。プロリーグが創設されるなど、eスポーツタイトルとしても力を入れている。
カードゲームでも野球でも“勝ちたがり”だった少年時代
10~20代の若年層を中心に人気を博しているデジタルカードゲーム『シャドウバース』。その世界大会「Shadowverse World Grand Prix 2021」が2022年1月に開催された。優勝して日本開催のゲーム大会史上最高額となる1億5000万円を獲得したのは、19歳の大学生、kakipだ。過去10回以上「RAGE Shadowverse」に参加していた彼だが、一次予選を突破して二次予選に通過したのは、そのうち二回だけ。わずかなチャンスをものにして見事優勝をつかんだkakipのルーツは、幼少期にさかのぼる。
「子供のころからカードゲームが好きでした。『ポケモンカードゲーム』でカードゲームの面白さに目覚めて、中学生からは『遊戯王』にもハマりました」
主に友人と遊んでいたが、やるからには強くなりたいという思いが強く、特に『遊戯王』は当時からカードショップの店頭大会によく参加していた。
「まだ子供だったこともあって、結果はよくて二回戦敗退。悔しくて練習したんですが、結局勝てませんでした。ただ、その経験のおかげでカードゲームの基礎や負けず嫌いな性格が身についたのかなと思います」
また、kakipが同じくらい熱量を注いでいたのが、小学校6年生から高校3年生の7年間続けた野球だった。
「本当はもっと早く始めたくて、ずっと親に交渉していたけど、なかなか許可が降りませんでした。だけど諦めきれなくて、粘り強く交渉を続けた結果OKをもらえました」
中学校では地方大会で上位になるほどの強豪校に在籍していた。
「先輩たちも実力者揃いだったのもあって、先輩がいる期間はなかなかレギュラーを奪えなかったのですが、せめて同期には負けたくないという一心で練習を頑張っていました」
人生で一番悔しかった”6連勝からの2連敗”
『シャドウバース』を本格的にやり込みだしたのは、高校2年生のときだったという。目の前に対戦相手がいなくても、いつでもオンラインで対人戦がプレイできる手軽さで一気にのめりこんでいった。
「部活動の合間を縫って大会に参加していましたが、9大会連続で一次予選落ち。子供のころのように、勝てないまま終わるのかなと弱気になることもありました。それでも勝ちたくて、練習をしていくうちに少しずつ勝てるようになっていきました」
その努力は実を結び、通算10回目の大会出場となる2021年5月の大会で初めて一次予選を突破。二次予選では6連勝し、決勝トーナメント進出は目前という状況だった。しかしそこから2連敗し、あと一歩のところで敗退となった。
「人生で一番悔しい瞬間でした。でも今になって振り返ると、6連勝でどこか油断していたかもしれないと思います。当時、かなり練習している方だと思っていましたが、自分より上のトッププレイヤーたちは遥かに多い練習量だということを知りました。彼らに比べたら自分はまだ足りない。もっと質も量も高めて、揺るがない自信をつけようと思いました」
猛練習の末、2021年11月の大会で初優勝する。そして各大会の上位入賞者が出場する世界大会で見事優勝。1億5000万円という賞金を手にした。
「『遊戯王』を遊んでいたときはなかなか努力が報われませんでした。しかし『シャドウバース』では最初こそ勝てなかったものの、努力を重ねるうちに結果がついてきました。そういう意味では、自分に向いていたカードゲームなのかもしれません」
筆者がプロゲーマーとして活動している経験で言わせていただくと、向き不向きによってどれだけ努力しても成果が出にくいタイトルというものは存在すると思う。実際、筆者がプレイする『大乱闘スマッシュブラザーズSpecial』では80体以上の操作可能なファイターがいる。しかし、大会で使えるほどに使いこなせるファイターは、プロゲーマーである自分を含め、ほとんどの選手がほんの1,2体ほどだ。それと同じように、「カードゲーム」というカテゴリの中でも『シャドウバース』は他のカードゲームと決定的な差異があったのだろう。
「『遊戯王』は今でも楽しいから続けています。なかなか勝てませんが(笑)」
今後はプロゲーマーを目指し、より精力的に活動していくと語る。
「まだ、自分の中ではプロゲーマーという存在がどういうものか、はっきりと見えていないというのが正直なところです。だけど、自分は『シャドウバース』が心から大好きで、これからも続けていきたい。そのためにも、自分が大会に参加したり、普段の活動を続けたりすることを通じて、一人でも多くの人がこのゲームに興味を持ってもらえるようにしたいと思っています。優勝賞金で新しいデスクトップPCを購入したのも、配信活動を通じて『シャドウバース』の楽しさを広めたいと思ったのが理由です。こうした一つ一つの活動を続けた先に、自他ともに胸を張ってプロゲーマーだと言える自分がいたらいいなと思っています」
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取材・文/桑元康平(すいのこ)