人気音楽ユニット「YOASOBI」のキービジュアルなどを手掛けるイラストレーターが、他人の著作物である写真をトレースしてイラストを制作したのではないかと、インターネット上で話題となっています。
他人の著作物についてのいわゆる「パクリ」行為は、著作権侵害に該当する可能性があります。
今回は、著作権侵害の要件や、既存の著作物に「似ている」かどうかを判断する基準などについてまとめました。
※本記事は、公表済みの裁判例に係るものを除き、特定の事件に関する意見・論評等を含むものではありません。
1. 「パクリ」=著作権侵害の要件とは?
他人の著作物を無断でコピーしたり、複製物を無断で頒布したり、インターネット配信したりする行為は、著作権侵害に該当します。
著作権侵害に該当するのは、以下の3つの要件を満たす場合です。
・著作権の存在
・著作物への依拠性
・著作物との類似性(直接感得性)
ただし、著作権者の許諾がある場合と、著作権の制限規定に該当する場合には、例外的に著作権侵害に当たりません。
1-1. 著作権の存在
日本の著作権法では、表現物が「著作物※」に該当すれば、登録等を要することなく、著作権が当然に発生します。
※著作物=思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの(著作権法2条1項1号)
ポイントとなるのは「創作性」で、厳密な意味での独創性までは必要ないものの、表現者の何らかの個性が表現されていることが要求されます。
特に短文など、表現の幅が狭く限定されている表現物については、創作性がなく著作物とは認められないケースがあるので注意が必要です。
参考:キャッチフレーズ、俳句、スローガンに著作権は存在する?|@DIME
なお、著作権の存続期間は、原則として、「創作時から著作者の死後70年を経過するまで」とされています(著作権法51条1項、2項)。
存続期間の経過後は、著作権の有効性が失われるため、著作権侵害は成立しません。
1-2. 著作物への依拠性
著作権侵害の成立には、問題となる表現物が、他人の著作物に依拠して制作されたことが必要です(最高裁昭和53年9月7日判決)。
換言すれば、「他人の著作物の存在を知っていて、それに似せようとして作った」と言えるかどうかがポイントになります。
反対に、「意図せずたまたま似てしまった」に過ぎない場合には、著作権侵害は成立しません。
1-3. 著作物との類似性(直接感得性)
他人の著作物の写真コピーをそのまま頒布した場合などが、著作権侵害に当たるのはわかりやすいところでしょう。
これに対して、パロディや二次創作など、他人の著作物にアレンジを加えた表現物が著作権侵害に当たるかどうかは、「表現上の本質的な特徴を直接感得すること」ができるかどうかによって判断されます(最高裁平成13年6月28日判決)。
つまり、普通の人の感覚で「オリジナルのパロディ(二次創作)である」と一目でわかる程度に似ていれば、著作権侵害に該当するということです。
実際の著作権侵害訴訟では、「似ている部分」と「似ていない部分」を細かく切り分けたうえで、「直接感得性」の有無が精緻に認定されます。
特に、「似ている部分」が一般的なありふれた表現に過ぎないのか、それともオリジナルの創作性が表れていると評価すべき表現なのかが、著作権侵害の有無を判断するうえでの重要なポイントです。
もしオリジナルの創作性が表れている部分が「似ている」と評価される場合には、著作権侵害に該当する可能性が高いと言えます。
1-4. 例外的に著作権侵害に該当しない場合
上記3つの要件をすべて満たす場合でも、著作権者の許諾を得ていれば、複製・頒布・二次創作(翻案)などの行為は著作権侵害に当たりません。
また、著作物の公正な利用を促進する観点から、一部の行為については、著作権による独占の効力が及ばないとされています(著作権の制限)。
著作権の制限が認められている場合の例は、以下のとおりです。
・私的使用のための複製(著作権法30条)
・付随対象著作物の利用(同法30条の2。「写り込み」等)
・図書館等における複製、記録、提供(同法31条)
・引用(同法32条)
・教科用図書等への掲載(同法33条)
・学校教育番組の放送、教材掲載(同法34条)
・学校その他の教育機関における複製、公衆送信(同法35条)
・試験問題としての複製、公衆送信(同法36条)
・時事問題に関する論説の転載等(同法39条)
・政治上の演説等の利用(同法40条)
・時事の事件の報道のための利用(同法41条)
など
2. 世間に出回っている二次創作は合法なのか?
アニメ・ゲームの同人誌などを中心として、二次創作物(二次的著作物)は世間に広く出回っているのが実情です。
「二次創作である」と一目でわかる程度にオリジナルと似ていれば、原則として、著作権者から許諾を受ける必要があります。
しかし実際には、多くの二次創作物が、著作権者に無許可で制作・頒布されているものと考えられます。
著作権法違反の行為は犯罪に当たり得るものの、そのほとんどが「親告罪」とされており、訴追・処罰には著作権者による告訴が必要です(著作権法123条1項)。
現状では、二次創作物が大々的な刑事告訴等の対象になるケースは少ないようです。
しかし客観的には、無許可の違法二次創作物が多数流通しており、それらは常に刑事告訴および訴追・処罰のリスクを負っていることに留意しなければなりません。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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