■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回はキャリアメール持ち運びについて話し合っていきます。
「キャリアメール持ち運び」がオンラインブランド移行の促進に?
房野氏:携帯電話のメールアドレス、キャリアメールの持ち運びが可能になっていますね。いつからでしたっけ。
石野氏:去年、2021年の12月中旬からですね。総務省が年内に始めることを求めたので。ソフトバンクは月額課金プランがスタートまでに間に合わず、ギリギリで始めたという感じです。
房野氏:3キャリアは始めているんですね。
石野氏:もちろん。
房野氏:メールアドレスの持ち運びは簡単にできるんですか?
石野氏:基本的にプロバイダメールと同じです。インターネット接続サービスを提供しているプロバイダを解約する時に、メールアドレスを残しておくことができますよね。ほかのプロバイダと契約した時に、POPサーバやSMTPサーバ名を設定すれば、それまでのメールを送受信できるのと同じです。今回のキャリアメール持ち運びも、キャリアを解約する時にメールアドレスのサーバ情報と設定情報を残せるサービスで、運用にはお金がかかるので、その分だけお金を頂きましょうということになっています(月額330円。ソフトバンクは年額3300円で、2022年夏以降、月額330円も提供予定)。いろんな方式が総務省で議論されて、MNPみたいに、1回送ったメールを転送するとかも検討されていたんですけど、技術負荷が大きくなるので、一番シンプルに、メアドの契約とサーバ情報だけ残しましょうという形になりました。
石川氏:キャリアメールに縛られている人が、そこまでやるのかなぁ。
房野氏:そうですね。メールの設定って、結構難しいですよね。
石川氏:キャリアメールは、何も考えずに使えたからみんな使っていた。例えば、「ドコモを解約してIIJmioにします。キャリアメールのアドレスを残したいからメールの設定をします」ということが誰でもできるかというと、微妙なんじゃないかなと思う。それと、キャリアメール持ち運びサービスを利用するには、dアカウントやau IDが必要で、キャリアとそこでつながっている状態というのは、どうなのか。総務省はそこの詰めが甘いんじゃないかと感じます。「ドコモをやめました、IIJmioに来ました、ん? ちょっと昼間の通信速度が遅いな、やっぱりドコモに戻ろうか」となった時に、dアカウントを持っているので簡単に戻れてしまう。そう考えると、ちょっとどうなのかなぁって思っています。
石野氏:キャリアメールの持ち運びは、元々はMVNOの一部が要望していたことなんです。キャリアメールが使えなくなることが移行の障壁になっているなら、メールアドレスのポータビリティをさせましょうという話になったんですけど、いざ始まって蓋を開けてみると、ドコモは「ahamoに乗り換える際にメールアドレスをそのまま使えます」と言っていますし、KDDIも、「UQ mobileやpovoに移る時にメールアドレスを残すならauメール持ち運びです」と言っていて、UQ mobileやpovoに変えやすいねという感じになっている。キャリアにとって、ブランド移行を促進するための存在になっている。上手いことメール持ち運び制度を利用しているなと思いました。
石川氏:以前は、大手キャリア以外のところが活性化するように、いろいろやっていたじゃないですか。今回のメール持ち運びもそうだし、中古端末業者が盛り上がるように、中古端末の品質を確保するいろんな施策をやっていた。でも、auに続きソフトバンクもiPhoneの認定中古品を扱い始めた。新品が高いと思ったら、キャリアで中古端末を買えばいいということになって、キャリアに縛られたままになるんじゃないかなと。だんだんキャリアが有利になってきているなぁと。
房野氏:確かに。
石野氏:MNOの人たちが知恵を絞っているというか。
石川氏:菅前首相の前は、キャリアも「多少はMVNOにユーザーを奪われるのはしょうがない」とか、「政府がうるさいから、競争もあるから仕方がない」と思っていた節があるけれど、菅さんが総理大臣になって以降、いよいよ切羽詰まって「取れるユーザーは絶対に逃がさない」という感じになってしまっている。それで大手3キャリア以外が厳しくなっている気がしています。
法林氏:大手キャリアが料金値下げをすることに関して、政府があれこれ言い過ぎたというか。「料金は下げなくていいから、MVNOに対する卸の料金は下げなさい」という仕組みにしておけば良かった。それを変にいじくっちゃったから。MNOがいろんな知恵を絞って、別ブランドを用意しちゃった。ここはもう、何ともしようがないかなと。
石川氏:本来であれば、ユーザーがキャリアをやめやすい施策だけにすれば良かった。今回のキャリアメール持ち運びとか2年縛り、解除料の見直しをやっていれば良かったんだけど、大手キャリアに料金を下げさせたことによって、「ほかの会社に移らなくてもいいじゃん」という状況、もしくはキャリア内でメインとサブブランドをぐるぐる回ればいいという状態になった。
石野氏:まさかオンラインブランドにメールアドレス提供がないことを、ああいう風にカバーするとは(笑)
法林氏:LINEMOのミニプランが月額990円、ほかのキャリアのメールを使おうと思ったら月額で330円取られるということは、1300円程度で済む。それと同じことはUQ mobileの一番安いプランにも言えわけで、IIJmioなど何社かがやっている500円プランじゃないと太刀打ちできない。常々話している通り、だんだん料金の差分が少なくなるので、手間を考えるとMNOからMVNOに移行するメリットはないのがちょっとやっかい。
迷惑メール対策は大丈夫か
法林氏:今までキャリアメールは、一部例外もあったけど基本的にキャリアのネットワークから出ているという前提条件だった。今回、それが崩れることになるので、迷惑メールが非常に気になる。ちゃんと対策できるようにしておかないといけない。キャリアメールのみ受け付けるという迷惑メールフィルタを各社が用意して、それが実効性を伴うのかはちょっと気になるよね。
石野氏:迷惑メールに強いGmailが出てこれだけ時間が経っているんだから、キャリアメールももうちょっと迷惑メールフィルタをなんとかしてほしい。
法林氏:対策がまったく足りない。
石野氏:そりゃ、廃れるわって思いますよね。
房野氏:最近、「+メッセージ」かな、SMSかな、迷惑SMSも気になり始めましたね。
法林氏:詐欺メッセージが増えているということは聞きますね。
房野氏:「荷物が届きましたが持ち帰りました」というSMSに、ときどき釣られそうになる時があるんです。荷物が届く予定がある時は危ないですね。
法林氏:寝ぼけていると、ついタップしそうになるよね。
石野氏:ドコモに至っては、ドコモメールの「迷惑メールおまかせブロック」が有料サービスなんですよね。「あんしんセキュリティ」の中のサービスになっているので、ドコモメール単体だと迷惑メールフィルタがついていないんです。有料でこのクオリティ? という感じもちょっとあって。迷惑メールおまかせブロックも、突破されてしまうことが多い。今は機械学習もこれだけ発達しているんだから、どんどん学習させてチェックしてよと思うんです。
法林氏:Gmailは間違いも多いけど、それでもやっぱり優秀なのでね。プロバイダのメールもいくつか使っているけど、無料で提供しているところでも迷惑メールはちゃんと弾いている。
石野氏:Gmailはどちらかというと弾きすぎな感じ。
法林氏:そうそう。Gmailは基本的に全部受けて、迷惑メールフォルダに振り分けるというシステムです。プロバイダがやっているものの中には、「Subject:」に[MEIWAKU]って付けるものもあるけど、サーバー上で受信を拒否する(迷惑メールを仕分ける)サービスもある。「これは信頼できないところから来たメールだから受けません」という感じでネットワーク側で処理している。やり方はいろいろあるんだろうけど、キャリアがちゃんとできているかなというのは、ちょっと疑問なところがある。ソフトバンクは、一時期、iPhone用の「Eメール(i)」がひどかったんだけど、Eメール(i)を全拒否したら止まって、最近、許可に戻してもだいぶ来なくなってきているので、そこそこフィルタが生きているかなと思う。あと、ソフトバンクはMMSで来るメールで、宛先がマルチの状態だと迷惑メールの報告ができない。これはメールの仕組みのせいで、単一だとできる。それから、いかにも詐欺で使われそうなメールアドレスが作れてしまうキャリアもある。
一同:(笑)
法林氏:そんなメールアドレスが作れる時点でアウトだと僕は思うんですよ。キャリアの迷惑メール対策として、ドメイン名やメールアドレスの管理の仕方に結構、差があることがわかります。最近、詐欺SMSが非常に増えているけど、ドコモとソフトバンクが迷惑SMSをネットワーク側で止めることを表明したし、auもやる意向を表明している。
石野氏:まぁ、キャリアメールはどこまで使うかっていう感じですよね。自分も送信することは、ほぼなくなってしまいました。
房野氏:キャリアメールはどういう人が何で使っているんでしょうかね。
石川氏:使っている人の話を聞くと、友達とのやりとり云々よりも、スーパーの特売情報を受信するとか……
石野氏:僕もメルマガを受信するのに使っていたりはします。
石川氏:ということでやめたくないという人は多い、という話は聞きます。
石野氏:やめると、困るっちゃ困る。送信先を変えればいいんですけど、面倒くさいっていうだけで。
法林氏:おそらくキャリアのメールアドレスをいろんなサービスの登録に使ったんですよ。変えられないという人がいるのは事実でしょうね。これはコツコツ変えていくしかない。1つずつやめていくとか変えていくしかない。
迷惑SMSについては結構ヤバいと思っています。高齢者の人が間違ってクリックしちゃいましたという話はちょいちょい聞く。それがアダルトサイトに飛ばされて「会員登録ありがとうございます、5万円です」ぐらいだったらいいけど、SMSってことは電話番号がわかっているってこと。もうちょっと真面目に対策しないとマズイんじゃないかと思っています。
石野氏:そうですねぇ。芸能人を装って届くメールとか、あんなメールに騙される人がいるのかなと思っていたんですけど、大量にメールを送信すると、中には本当に芸能人から連絡が来たと思って返信しちゃう人がいるというので、そういったところを狙っている感じはあるみたいですね。
房野氏:ひどいですね。
法林氏:いわゆる特殊詐欺は、テレビなんかで紹介されているのを見ると「そうなっちゃうかー」というものがすごく多い。それこそ携帯電話業界は真剣に取り組まないといけないんだけど、全然真剣さが足りない。
業界人でも騙されそうになる迷惑SMS、対策できる?
石野氏:迷惑SMSは業界の某ライターさんが騙されそうになっていましたからね。あの人が騙されるのか! って衝撃を受けました。やっぱり、迷惑SMSは多いですよね。
法林氏:うん、めっちゃ多い。
石野氏:海外でプリペイドSIMを契約するとバカバカ届くことがある。海外はSMSが主流で、それがMMSになった。SMSを広告にも使う動きがあって、例えばマカオでSIMカードを契約するとカジノの広告がどんどん来たりする。だから、海外ではスパムSMSが一般的だったんですけど、日本はどちらかというと迷惑メールでした。それが、キャリアメールが廃れて、LINEになり、+メッセージになって、最近、やたら迷惑SMSが目立つようになってきたなという感じがありますね。
法林氏:最近はさすがにどうかと思いますよ。
石野氏:ちょっと多いですね。
法林氏:やっぱりキャリアの努力が足りないというか、対策が確立していないのかもしれない。これだけ注意喚起されている状況の中でいうと、もうちょっと真剣にやった方がいいと思う。
石野氏:SMSの場合、メールじゃないので、誤ブロックしてしまった時の被害が大きい。コミュニケーションサービスとして誤ブロックしていいのかという部分があるので。
法林氏:この電話番号から迷惑SMSが来たから報告してブロックしたとして、何年も経った後に、その電話番号が市場に再び出された時に、使えないという事態が起こりえるかもしれない。だから、迷惑SMSを送った人を徹底的に捕まえるとか、キャリアは真剣に対処する必要がある。1通でも迷惑SMSを送ったら1億円請求するくらいの勢いでやらないと。本当にそれくらいのことをしてもいい。去年の10月、〝NTT DOCOMOセキュリティセンター〟という名前を勝手に作って送ったSMSで、約1200人、1億円の被害が報告されているんですよ。
石川氏:そうそう。
房野氏:IIJmioで、SMS対応SIMカードでも本人確認が必須になるというリリースが去年の12月にありましたね。
石野氏:MVNOのSMS機能付きSIM契約でも、本人確認が義務化されます。あれは、本人確認が曖昧なSMS機能付きSIMをお試し用として安くバラまいて、かなり悪用されたことが過去にあったんです。そのため「なぜ本人確認していないんだ、けしからん」みたいな感じになった。それで規制が強化されたんです。
SMS機能付きSIM、通話ができないSIMというのは、日本通信の福田さん(代表取締役社長 福田尚久氏)曰く、音声通話料が高かったから、音声付きSIMの代替として、通話機能だけ外してSMSは送れるようにしたもので、ユーザーニーズに沿ってできたものではないそうです。だから、「別になくてもいい」と。実際、音声卸の基本料が下がっているので、SMS機能付きSIMを提供する意義も、ほとんどなくなってきている。音声通話を付けてもたいして料金は変わらないので、SMS機能付きSIMはなくなっていくんじゃないかなと思いますね。
石川氏:セキュリティを厳しくすればするほど使いにくくなるのでユーザーは離れていくし、かといってユーザーが使いやすくしようと思ったらセキュリティに穴が空くので、悩ましいだろうなぁって思います。
法林氏:課題は多いと思いますよ。今、安全のために2段階認証が多くなっていますが、その確認コードを何で送っているかというと、ほとんどSMSなんですよね。そんな状況下で、これだけ詐欺SMSが飛び交っているんだけど、大丈夫でしょうかってこと。キャリアがユーザーに対して送るSMSの仕様を統一する、みたいなことは考えているようですが、本当にそれがちゃんと運用できるのか。各社の動向を見ていて、かなり不安に思うところですね。
石川氏:あと、ドコモがオンラインでのeSIM再発行を停止しているじゃないですか。
法林氏:ドコモオンラインショップでは、今、パソコンから買い物ができないし。
石川氏:そうです、そうです。機種変更はドコモの回線につないでやらないとできなくっている。これらもセキュリティ上の問題があるんじゃないかなと。
総務省は乗り換えしやすくしろと散々要求してきて、eSIMやオンライン対応も急げと言ってきた。そういったことの副作用というか、それによって本人確認をおろそかにすることになって、結果として詐欺集団に狙われやすくなっているような気もします。キャリアは「eSIMはセキュリティ面で不安があるのでやりたくない」とずっと言っていた。そこを総務省が押し切ったので、こういう状態になっている面もあるのかなと。
法林氏:ドコモはeSIMに仕方なく対応したけれど、今度はeSIM対応端末を採用しないという。元から絶つんだ、みたいな(笑)
石野氏:確かに、端末をeSIMに対応させろとは総務省から言われていないですからね。
……続く!
次回は、iPhoneの売上が過去最高を達成した話題について、会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/房野麻子