■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回はドコモの新サービス「ドコモでんき」について話し合っていきます。
最大10%還元の「ドコモでんき」! 見どころは?
房野氏:ドコモが2022年3月1日より「ドコモでんき」を提供開始します。みなさんどのような印象ですか?
石川氏:ようやくドコモも始めたか、というか遅すぎる印象ですね。仕組みとしては、ドコモ契約者は、ドコモでんきの中でも、再生エネルギー由来の「ドコモでんき Green」で、dカード GOLD会員なら10%還元される形です。
光回線の契約者なら入ってきやすいですし、ドコモに囲われる心地よさのようなものはあるかなと思います。ahamoでもポイント還元に対応しているので、囲い込み作戦としてはありでしょう。
石野氏:一方で、「ドコモでんき Green」以外が見劣りしてしまうというか、還元率の低さが目立ってしまう。それだけグリーンを売りたいという気持ちはわかるけど、そこまでうまくいくのかは若干疑問です。結局、月額料金がプラス500円でスタートなので、そこまでしてSDGsを体現したい人が、どのくらいいるのかわかりません。とはいえ、10%還元はauでんきなどよりも高くなっていますね。
石川氏:auでんきは最大5%だもんね。
石野氏:そうですね。しかもauでんきは使用した電気量に応じて還元率が変わる仕組みになっていて、支払いが8000円以上じゃないと5%は適用されないことを考えると、ドコモでんきは、通信キャリアのでんきサービスの中ではかなり還元率が高くなっています。やはりネックは毎月プラス500円を支払う仕組みですかね。
石川氏:5000円以上使わないと、ポイント還元でお得にならない計算になるからね。
法林氏:だから、一人暮らしというよりは家族を狙ったサービスになっている。これはドコモらしいなと思います。あと、ドコモというよりはNTTグループとして、自然に優しいサービスに取り組んでいくというのが、澤田社長体制のNTTグループが掲げるミッションでもあるので、その方向性を明確にするためのサービスになっています。
ユーザー側が、どこまで電気においてグリーンを意識しているかというと難しいし、グリーンでんきと言いつつ、発電するまでの過程は本当に環境に優しいのかという議論もあると思います。
石野氏:あと、グリーンといってもちょっとわかりづらいというか、電気の色が緑になるわけではないので(笑)
石川氏:通信キャリアのでんきサービスで、一番、魅力的なのはソフトバンクで、基本料無料になっている。お得度でいえばソフトバンクになるし、逆に一番お得感が薄いのがau。電気料金の2%を環境保全活動に寄付するというだけで、ユーザーからするとメリットがない。この関係でいうと、ドコモは中間に入った形ですね。
ドコモが掲げる「IWON構想」とは
房野氏:ドコモでんきは、具体的にどこの会社が電気を小売するのでしょうか。
石野氏:NTTアノードエナジーという会社ですね。ドコモは取次事業者として販売する形です。
法林氏:NTTグループとしては、澤田社長になってからグリーン系とか、SDGsに積極的に取り組み姿勢を打ち出しているので、NTTアノードエナジーは、鍵を握るというか、重要な会社になります。
通信会社は、結構電気を使うし、電波を事故などで止めてはいけないという性質上、電気との親和性が意外と高いです。
房野氏:通信会社の基地局に自家発電機能はありますか?
法林氏:バックアップの電源は積んでいるし、大ゾーン基地局みたいな大きいところは発電機もある。いわゆるデータセンター、ネットワークセンターはガスタービンなどの発電機を備えていますね。基地局については。音声通話がある場合はバックアップ電源をつけるのがルールです。
房野氏:離島などはどうなっているんですか?
法林氏:離島の基地局にもついているはずですよ。昔沖縄に行った時に見たのは、ソーラーパネルでの充電と、深夜の安い時間帯で蓄電しておいて、それぞれの電気を供給するという仕組み。自然由来の力を使うのはありだと思っていて、例えば山の上に基地局を建てるなら、周りにソーラーパネルを張るとか、いろいろやり方はあります。
房野氏:基地局で自家発電は行われるんですか?
法林氏:自家発電などのしくみを備えているのはデータセンターやネットワークセンターで、一般的な基地局は蓄電池のみですね。
石野氏:予備用といったイメージですね。
法林氏:そう、停電用って感じだね。電力会社から電気は持ってくるけど、その配線とは別で、蓄電機を置くのがルールになっています。
石川氏:なので、通信キャリアと電力会社ではこういった取引がされているし、地震などの災害時には、石油会社とは優先的に油を調達できるといった契約もしています。あとは、移動基地局車だけじゃなくて、移動電源車もあって、これを基地局にくっつけて電波を飛ばすといったことも行われています。災害時の対策として、免許を取得する際にやっているはずです。
やっかいなのは、仮想化していくと電力をかなり食う。カーボンニュートラルで省電力化といった流れとは逆方向に通信キャリアは進んでいるので、どう帳尻を合わせるのか注目です。
石野氏:5Gになってくるとどんどん電力を使うようになっていきますし、それを汎用のソフトウエア上で動かそうとすると、さらに電力を使ってしまいます。
房野氏:通信キャリアは、SDGsに積極的に取り組むという宣言をしていますよね。
法林氏:日本の企業としては当然やらないといけないけど、NTTとしては、グループとしての取り組みがあります。
石川氏:あと、NTTとしては「IOWN構想」を掲げていて、光の技術でこれからやっていくし、省電力にも繋がるとしているので、こういった方向性をアピールしています。
房野氏:IWONについて少し補足していただけますか?
法林氏:ざっくりと説明すると、電気信号はある程度の力がないと減衰してしまうけど、光信号は途中で電気で増幅しなくても届くので、多少なりともエコだという話。とはいえ、光を発するためには電気が必要なので、本当にどれくらいの効果があるのか、どの範囲まで拡がっていくのかは未知数ですね。
全体像としては、IWON構想で、電気は光に置き換わっていくから、節電できるというのがうたい文句です。でも、例えばLANケーブルでネットワークにつないでいるけど、なぜ家の中の配線がファイバーにならないのかって思いますよね。結局、既存のものとの互換性といった問題が出てくるので、まだまだ課題はありますね。
ドコモでんきはスマートライフ事業の売り上げを大幅に上げる?
石野氏:ドコモでんきに話を戻すと、グリーンをやりつつ、稼ぎに来た印象もある。先行するKDDIやソフトバンクがそれなりにユーザーを集めていて、単価も月々ケータイ1台から1.5台分ほど稼げる。数百万の契約が見込めるとなると、通信収入が落ち込みつつある中で、スマートライフ事業の売り上げを増やすために、目玉が欲しかったところに電気を投入してきた、というのはよくわかります。
石川氏:もっと早くやってほしかったとは思うけどね。
石野氏:そうですね。2022年3月からのサービスなので、どれくらい契約者が出るかはわかりませんが、KDDIが300万人、ソフトバンクは200万人の契約があって、一人当たり数千円の売り上げになると考えると、そこそこ大きな収益に繋がりそうです。
房野氏:電気のサービスは世帯ごとに取るので、300万契約だとしても、実際に利用しているのは1000万人とかになっていてもおかしくないですよね。
石川氏:はい。ショップに行ったら勧められたりもしますし、一度契約したらやめにくい、解約抑止にも繋がるので、各社力を入れています。ドコモでいえば、回線契約者が多い分、KDDI以上の契約者数が見込める規模になりますね。目標契約数は初年度が100万で、KDDIが300万だからもう少しいけるのではないかと話しています。
法林氏:ファミリー層のユーザーが多いドコモらしいやり方とは思うけど、本当に狙うべきユーザー層は一人世帯ではないかと思います。そこに電気代節約できる、ポイント還元できるという仕組みにしたほうが、現実的なビジネスだし、ユーザーにとってもいいものになる気がします。数を取りに行くなら一人世帯、単価を取りに行くならファミリー層狙いになりますが、2022年の3月からサービスを開始するなら、新生活のタイミングに合わせて、一人世帯を狙ったほうがいいんじゃないかな。せっかくahamoで若い世代にアプローチしたのに、ここに関連性を持たせないのが残念です。
あと、個人的には電気のサービスは解約抑止にはなりにくいとなっています。石川君は何回も契約先を変えているもんね(笑)
石野氏:こういう人はレアケースだと思います(笑)
法林氏:まぁね(笑) とはいえ、電気は、新しい契約先に伝えるだけで、簡単に切り替えられるからね。
石野氏:ユーザーとしては、地域の電力会社と金額の単価は変わらないので、気軽に変えられますね。
法林氏:キャリアのビジネス的にいうと、組んでいる電力会社とか、自社の電気の使い方によって変わるので、一概にはいえない。ただ、基本的には、携帯電話会社が電力会社とまとめて取引をして、電気は電力会社から提供するけど、ポイントはなんとか捻出するという構図です。今までは、電力を供給する会社として、ユーザーと直接関わるのは各地域の電力会社だった。今も送電しているのは変わらないけど、決済の部分をほかの会社が面倒みるという形ですね。
電力の難しいところは、蓄電ができるといいつつ、発電したものは使わないといけない。昼間に電気が良く使われるから、たくさん発電して、夜は控えめにといった調整は、そこまで大幅にできない。ここは通信に近いものがあって、夜だけ料金を安くするといったアレンジがそれぞれできるようになっています。
石野氏:電力小売りの考え方としては、MVNOに近いですね。通信キャリアの電気サービスは、基本的にユーザーが損をしない形になっているので、電気代が高騰すると、逆に通信キャリアが損をしてしまう可能性があります。
石川氏:通信キャリアの立ち位置はあくまで決済手段でしかない。電気代を通信キャリアが提供しているクレジットカードで払ってねという話で、貯まったポイントで新しいスマートフォンを買ってもいいし、街中で買い物に使ってもいいよというビジネスモデルです。
房野氏:地域の電力会社と支払額が変わらないとなると、ポイントビジネスのようなイメージになるのでしょうか。
石野氏:そこは設定次第というか、会社次第ですね。通信キャリアの電気サービスは安定していますが、ほかの会社だとギャンブル性が高いところもあって、電力価格が高騰すると、電気代がそのまま高くなることがある。
法林氏:2021年は原油の価格が上がったのに伴って、電気代が上がった。連動してギブアップする会社もあって、少なからずリスクを抱えている会社もまだある感じですね。
房野氏:居住地によって、限られた電力会社としか契約できないなどはありますか?
石川氏:もちろん、この電力会社はどこの地域に提供していますというのはありますけど、東京にいたら、かなりの電力会社の中から選べます。
法林氏:簡単にいうと、ユーザーからしたら、決済する会社が変わるだけです。我が家は水槽があって、結構、電気を使うので、東京ガスでまとめたら、特に何もしなくても支払額が1割くらい下がりました。
石野氏:僕はauでんきなので、Pontaポイント分お得になって、年間1万円くらいお得になっているくらいですかね。
……続く!
次回は、5GSAについて、会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦