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【深層心理の謎】馬が合う人との会話は何が違うのか?

2022.02.15

“馬が合う”友人との久しぶりの再会であるとすれば積る話も尽きないのだろう。その会話の受け答えもまたスピーディーで小気味良い。今からどこかに移動するであろうこの2人は、いったいどれほどの時間をおしゃべりに費やすのだろうか――。

よく晴れた冬の午後に新宿駅東口界隈を歩く

 競馬もやらないし、乗馬の知識も特に持ち合わせていないが、“人馬一体”や“馬が合う”といったフレーズはなかなか魅力的に感じられる。“馬”が使われた熟語やことわざなどは心なしか好感が持てるものが多い気がしなくもない。とはいえ“馬の骨”や“馬耳東風”などのあまり良くない印象のものもあるにはあるが……。

 午前中から府中市某所に用事があり、現地ですぐさま用件を済ませてトンボ帰りで京王線に乗り新宿駅で降りた。極力急いで用件を終らせたつもりだが、もう午後3時を過ぎている。

 地下通路を通って東口から地上に出る。いわゆる“アルタ前”が目の前に広がっている。大きな電光スクリーンの商業施設をはじめとする一帯の駅前ビル群を快晴の冬の空が覆っていた。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 東口を出てすぐの「駅前交番前」と「アルタ前」は待ち合わせスポットとしても有名で、実際に待ち合わせをしている人も多い。寒空の下で待ち合わせるのも大変だとは思うが、とりあえず誰にもわかりやすい場所であるし、よく晴れた昼過ぎであれば特に問題もないのだろう。

 さきほど待ち合わせをしている若い女性の近くを通りかかったのだが、手にしていたスマホから着信音が鳴るや電光石火の早業で応答し、その1、2秒後に同い年くらいの若い女性がやって来て再会を果たしていた。そして久しぶりの再会を喜び合い、おしゃべりに花を咲かせている一幕を目撃した。ほんの一瞬の間に繰り広げられた“人間ドラマ”が興味深い。

 まさに“馬が合う”友人同士の会話はリズミカルではたから聞いていても軽快で心地よいものだ。この2人はこの後、どこかの店に入ってしばらくはおしゃべりを存分に繰り広げるのだろう。

 新宿通りの横断歩道を渡る。某ブランドショップとメガバンクの支店に挟まれた比較的狭い路地を進む。緩やかな坂を下ったあたりからは飲食店がひしめく通りに通じている。「沖縄そば」のオレンジ色の看板の店も見えてくる。この店はゆうに20年以上前からあるだろう。一帯にはこの店のように老舗の大衆飲食店も少なくない。

 取るものも取りあえずにトンボ帰りをしてきた直後なので、もちろん昼食など食べていない。この付近で遅い昼食にしてみてもよいのだろう。

 十字路に出ると、三方どの方向にも飲食店が連なっている。もちろん目の前は沖縄そばの店だ。油そばの店や老舗のうなぎ店もある。十字路を左に進んでみることにした。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 昼飯時はもうとっくに過ぎているが、昼休憩などせずに開けている店は多いようだ。ビジネス街ならいざ知らず、新宿、特にこの歌舞伎町に近い辺りは人々が食事をする時間はばらけていそうな感はある。そして実際に今の自分と同じようにどの店に入ろうかと辺りを物色している人もちらほらと見受けられた。

 このへんのどこかで食べようと考えている人々の中には20代半ばほどの女性の2人組もいて、居酒屋のランチメニューを検討しているようだった。この2人も仲が良い“馬の合う”関係のようで、交互に休むことなくしゃべり続けている。まるで漫才の掛け合いのようにリズミカルに続く会話には思わず聞き耳を立ててしまいそうだ。

“馬が合う”2人はよどみなく会話を続けられる間柄

 延々とおしゃべりが続けられる“馬が合う”関係にある女性2人組を立て続けに目撃しているのだが、そのように相性がぴったりで“馬が合う”関係のことを英語では「クリック(click)」と表現している。電子機器の電池を交換した後にプラスチックのフタがカチッとはまった時のように、文句のつけようのないパーフェクトな瞬間を味わう感覚から派生した表現でもあるようだ。

 最新の研究では、こうした“馬が合う”関係は会話中の質問に対する「応答時間」、あるいは一方が話を止めてからもう一方が話を開始するまでの時間によって予測できることが示唆されていて興味深い。つまりお互いに黙っている時間が少なく、間髪入れずに話が続いているほどにその関係は“馬が合って”いるのである。


 ダートマス大学の研究によると、クリックは単なる比喩ではなく、会話の「応答時間」、または一方の人が話をやめてからもう一方の人が話し始めるまでの時間によって予測されます。

「私たちの研究結果は、人々がお互いに素早く反応するほど彼らはより“繋がり”を感じることを示しています」

「会話中のターンの間に平均して約4分の1秒(250ミリ秒)のギャップが存在することがじゅうぶんに裏付けられています。私たちの研究は“繋がり”の観点から、そのギャップがどれほど意味があるかを調べる最初の研究です」

「人々が相手の発言がほぼ終わると感じる時、彼らはその250ミリ秒のギャップを埋めます。そしてそれは2人がクリックしている時です」

※「Dartmouth College」より引用


 米・ダートマス大学の研究チームが2022年1月に「PNAS」で発表した研究では、実験を通じて話し相手とよりよく繋がっているという感覚は、会話時の反応速度と沈黙の少なさで予測できることが示されている。よどみなく会話を続けられる間柄がすなわち“馬が合う”関係なのだ。

 66人が参加した実験では、それぞれが同じ性別の初対面の人物10人と会話をした。自分が選んだ話題で話し合い、その会話の様子はビデオに録画された。会話が終わった後、参加者はビデオの再生映像を見て、会話を通して彼らがどのように話し相手と“繋がり”を感じたかを評価したのだ。回答データとビデオ映像を分析したところ、質問に対する応答時間が短い会話は、より強い社会的“繋がり”の感情と相関していることが浮き彫りになった。つまり質問に対する返答が早い会話ほど、話し相手と“馬が合う”と感じられていたのだ。

 初対面の人物のほかにも参加者の友人知人との間での会話でも実験が行われたのだが、もちろん初対面の人物よりは総じて“繋がり”がより強く感じられていたものの、やはり応答時間が短い会話のほうがより強く“馬が合う”と実感できていることが確認された。

 また1つの会話のビデオクリップを編集し、応答時間を短くしたものと延ばしたビデオをオリジナル映像に加えて第三者に見せ、会話をしている2人の人物がどの程度親密な関係にあるのかを評価してもらったのだが、やはり応答時間が短くなっているビデオの2人のほうがより“繋がり”が強いと評価されたのである。

 これらのビデオクリップは応答時間を除いてほかの要素はまったく同一であったため、応答時間が社会的“繋がり”を占う強力なシグナルであることが示されることになったのだ。よどみなく会話を続ける2人組の女性がいかに親密な関係にあるのか、そのおしゃべりの様子から容易に理解できることになる。

老舗のレストランで絶品のロールキャベツを堪能

 女性2人組が立ち止まって検討していた居酒屋のあるビルと、その隣のカラオケ店が入ったビルとの間に細い路地がある。こんな通りがあるとは今まで知らなかった。飲食店もいくつかあるようなので通りに足を踏み入れてみる。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 一帯のいずれの建物も鉄筋コンクリートのビルであるとは思うが築年数は相当古そうである。進行方向左側にあるDVDショップの先にはいかにも昭和を感じさせる渋い外観の洋食レストランがあった。ロールキャベツのシチューが看板メニューであることがまさに店の看板からわかる。ロールキャベツは久しく食べていない。ここは迷わず入ってみることにしたい。

 店内に入ってすぐのところに置いてあるプッシュ式のボトルの消毒液で手指の消毒をしてから席へ案内される。ウッド調の店内インテリアもお洒落で年季が入っている。昭和の頃の新宿が“保存”されているといった感じだ。

 コップに入ったお冷と紙おしぼりがテーブルの上に置かれる。馴染みの店ならこのタイミングで注文するところだが、初めてのお店なのでメニューを見て少し考えざるを得ない。ロールキャベツは当然食べるのだが、メニューを見るとロールキャベツにほかのものを組み合わせたセットメニューがいくつかあることがわかる。コロッケやカキフライなどの揚げ物やカレーもある。

 一通りメニューを眺め、「帆立のクリームコロッケとロールキャベツシチュー」を注文する。カレーにも魅かれたのだが、シチューとカレーは別々に食べたい気もして、コロッケのほうを選ぶことしたのだ。カレーについてはまた今度の機会ということになるだろう。

 やれやれ、やっとひと息つける。午前中から慌ただしかったし、朝から何も食べていなかった。コップの水をひと口飲んでから読みかけの文庫本をバッグから取り出そうとした矢先にロールキャベツシチューとライスがやって来た。思ってもみなかった提供の早さだ。注文してからまだ2分くらいしか経っていないのではないだろうか。

 先にロールキャベツを食べようかどうか少し迷っていたのだが、そんな心配をするまでもなくほどなくして帆立のクリームコロッケもやってきた。添えられた千切りキャベツに合うというリンゴドレッシングのボトルも提供される。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 さっそくいただくとしよう。ロールキャベツはスプーンで楽々と分けられる柔らかさだ。ひと口食べてみると確かに柔らかい。見た目以上にボリュームがあって1個でもじゅうぶんである。シチューもコクがあってクリーミーだ。文句なしで美味しい。

 ともあれこれほど提供スピードが早いとは思わなかったので、嬉しい誤算といえるだろう。提供が早くて嬉しいことはあっても困ることは何もない。帆立のクリームコロッケも賞味する。こちらも何もいうことはない。ライスと一緒に食べるとさらに美味しい。

“馬の合う”人物とのフレンドリーな会話と同じく、飲食店の「応答時間」も満足度に大きく影響してくるといえるのだろう。ファストフードに分類されるような牛丼店やラーメン店、そばうどん店は提供スピードの早さでお客と“馬が合う”関係を築いているといえるのかもしれない。

 もちろんお客の入り具合によっても提供スピードは変わってきそうだが、ランチタイムで満席であったとしてもこのお店ならそう待たされることはないのだろう。定期的に通うことができれば“馬が合う”お店になりそうである。なるべく早いうちにカレーを食べに再訪したいものだ。

文/仲田しんじ

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