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知られざるスイスの伝統的なプライベートバンクの実態

2022.02.06

【短期集中連載】世界の超富裕層を知る投資マイスターが解き明かすお金の話

【第7回】知られざる「スイスの伝統的プライベートバンク」の実態

 スイスの伝統的プライベートバンクの運用哲学や世界の超富裕層の投資哲学にも詳しい、独立系アドバイザリー・ファーム「アリスタゴラ・アドバイザーズ」代表・篠田丈が、経済ニュースの読み解きから具体的な投資アドバイスまで縦横無尽に語っていく短期新連載。今回は、日本人が普段あまり知ることができない「スイスの伝統的プライベートバンク」について取り上げる。

スイスの伝統的プライベートバンクのルーツ

 ヨーロッパの富裕層の典型といえるのが、スイスやその周辺国(オーストリア、リヒテンシュタインなど)にある伝統的なプライベートバンクのオーナー一族です。私がフランスのBNPパリバ証券など外資系の投資銀行に勤務していた頃もヨーロッパの富裕層、資産家を間近に見てきましたが、プライベートバンクのオーナー家はまた別格です。

 伝統的なプライベートバンクは、創業200年を超えているような老舗が当たり前で、その経営者でもある創業家のメンバーに会うと、必ずといっていいほど歴史の話が出てきます。例えば、スイスの伝統的プライベートバンクには「ジュネーブ系」と「チューリッヒ系」があります。ジュネーブ系のプライベートバンクのルーツは16世紀頃にさかのぼります。当時、フランスではプロテスタント系への宗教弾圧が吹き荒れており、その難を逃れてスイスへやって来た貴族たちが、自分たちの資産を保全するために銀行をつくったのがジュネーブ系のプライベートバンクの始まりといわれています。

 もうひとつのチューリッヒ系は、戦争で活躍した傭兵たちにルーツがあります。スイスは現在、永世中立国として有名ですが、かつて15世紀から18世紀にかけて、数多くの傭兵をヨーロッパ各地へ送り出していました。現在も、キリスト教の聖地であるバチカン市国の警備兵はスイスの傭兵です。傭兵は命をお金に換える仕事ですから、その対価として多額の報酬を得ます。スイスに残された家族にとっては、そうして得たお金を確実に守る必要があり、プライベートバンクが生まれたわけです。

 このほか、オーストリアやリヒテンシュタインなど地域によってプライベートバンクの成り立ちはそれぞれ違いますし、プライベートバンクごとに固有の歴史や伝統がありますが、いずれにしろ何百年という歳月を経て、資産を守り、増やしてきた重みには格別なものがあるのです。

私のプライベートバンク体験

 ここで、私がスイスのプライベートバンク関係者と初めて知り合った際の体験をご紹介しておきましょう。

 私は日本の大手証券会社を経て、外資系の証券会社や投資銀行数社でエクイティビジネスの責任者を務めた後、独立し、日本でブティック型の金融サービス会社を立ち上げました。外資系投資銀行を退職した際、自分自身の資産運用については信頼できるプロに任せたいと思い、国内はもちろんシンガポールや香港にも出かけて、様々な金融機関に接触しました。

 しかし、なかなか「これ」というプロを見つけられないでいたとき、知り合いの弁護士のホームパーティーでスイス系の運用会社に勤めていたバンカーと出会いました。彼とは「最近、こういう面白い運用商品があるんだ」といった話で盛り上がり、別れ際、「今度はスイスでフォローアップミーティングをしよう」ということになりました。翌月、私は彼をスイスに訪ね、そこで出会ったのが彼の元上司であったロルフ・シュナイダー氏だったのです。

 彼に自分の資産運用で困っていることを話すと、スイスのあるプライベートバンクを紹介してくれました。さっそく訪問すると、ボードメンバー(取締役)が出てきて、応接室で、まずは自行の歴史や経営哲学などを詳しく説明してくれました。そして、こちらの意向や目的などについても1時間以上かけて詳しくヒアリングしてくれました。その間、具体的な金融商品の話などはいっさい出ません。正直、その確固とした信念やマン・ツー・マンの丁寧な顧客対応に驚かされるとともに、「ここに任せれば安心だ」と思ったことを今でも鮮明に覚えています。

プライベートバンクの内部はどうなっている?

 スイスにバンク・ヘリテージ (Banque Heritage)というプライベートバンクがあります。コーヒー豆やコットンなどを扱う世界的な商社のオーナー一族がサイドビジネスとして保有しており、現在、一族の中で次男と三男が役員として関わっています。このバンク・ヘリテージの本店を訪ねたことがあるのですが、強烈な印象を受けました。

 外観は、街並みに溶け込んだ低層の建物で、小規模な高級ホテルのような感じで、日本の銀行とは雰囲気がまったく違います。重いドアを開け、正面の階段を上がると受付のデスクがあり、廊下沿いに応接室が並んでいます。それぞれ一流の絵画、彫刻、工芸品などがさりげなく飾られていて、画廊にでも来たような雰囲気。そうしたスペースで、役員や担当者が対応してくれるのです。

 特別なゲストは、さらにその奥へ案内されます。扉の向こうにあるエレベーターで上階に上がると、明るい陽射しが差し込むボードルーム(会議室)があり、併設されたダイニングルームでは専属シェフの手による食事を楽しむこともできます。私は一族の次男の自宅にも招待してもらいましたが、まさに映画に出てくるような大豪邸でした。広い庭にはプールがあり、プールに面したテラスにテーブルを置いて、やはり専属のシェフの料理をご馳走になりました。

 彼らは世界中の富裕層を顧客としており、ヨーロッパなどひとつの国のようなものです。食事中には、「明日は商談でイタリアへいかないといけない」「今度の休みはモナコでゆっくりしよう」といった会話が飛び交います。世界中の銀行と決済するため南米にも商業銀行をひとつ持っているそうで、お金についての感覚はまさに別次元といえるレベルでした。

プライベートバンクとプライベートバンキングの違い

 ヨーロッパの富裕層の多くは、資産運用においてこうした伝統的なプライベートバンクをよく利用していますが、日本ではそれ以前に、「プライベートバンク」と「プライベートバンキング」が混同されているようなので、少し説明しておきましょう。

「プライベートバンク」とは、創業者一族が経営に携わる比較的小規模で、富裕層を顧客とするブティック型の銀行のことです。商業銀行のような貸付や自己売買は一切行わず、プライベートバンク事業しか行いません。組織形態も、かつてはパートナーシップ制を基本とし、パートナーのひとり以上が無限責任を負うことで、まさに所有と経営が一体化していました。近年、経済のグローバル化などにともない、こうした伝統的な組織形態のプライベートバンクは減りましたが、それでも揺るぎない価値観と哲学を守り続けているプライベートバンクはいくつもあります。

 そうした伝統的なプライベートバンクは、金融商品を販売するのではなく、長期的な視点で顧客のニーズを理解し、顧客が抱えている問題を解決していくことを重視しています。そもそも、短期での取引を繰り返していくようなビジネスではないのです。

 一方、「プライベートバンキング」とは、金融機関が一定の資産を持つ顧客に提供するサービスの総称です。プライベートバンクが提供するサービスもプライベートバンキングに違いありませんが、伝統的なプライベートバンクはわざわざそんなことはいいません。むしろ、大手の商業銀行や証券会社が社内の一部門で資産家向けに行っているサービスを、「プライベートバンキング」と呼んでいるのです。しかも、プライベートバンキングという名称は同じでも、そのサービスの内容や顧客対応は金融機関によってばらばらであり、むしろ混乱の原因になっているように思います。

プライベートバンクのような金融機関を選ぼう

 本来、伝統的なプライベートバンクの価値は、大きく分けて2つあると思います。

 第一に、徹底的な顧客目線です。顧客の顕在的および潜在的なニーズをくみ取り、本気で顧客資産を何十年、何百年と守り継ごうという歴史と伝統に裏打ちされた様々なサービスは、たとえAI(人工知能)などが進化したとしても決して真似できないものです。

 第二に、収益基盤が安定しており、さらに売上を追求しなくても生き残るビジネスモデルだということです。富裕層の巨大な資産が少数精鋭の経験豊富なプロフェッショナルの差配によって運用されているため、すでに収益基盤が安定しているプライベートバンクは無理に新規の顧客から手数料等を獲得する必要がありません。だから顧客との関係において、長期的な取引を考えた活動ができます。

 一方で日本の金融機関のスタンスでは、特に顧客目線という点について、首をかしげざるを得ないケースにしばしば遭遇します。お金についてのパートナーを選ぶとき、本当に顧客のことを考えてくれない相手に任せてしまっては、致命的な被害につながりかねません。

 昨今、個人の投資意欲がかなり高まっているなか、国内の金融機関は勢いこんで収益追求に走っているようです。お金のパートナー選びを間違えないよう、日本の皆さんも、どの金融機関と付き合うか選択する際、その会社の経営スタンスがどうなっているのかをよく考えてみるべきだと思います。

取材・構成/フォーウェイ(https://forway.co.jp/)仲山洋平、古井一匡

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文/篠田 丈(シノダ・タケシ)

アリスタゴラ・アドバイザーズ代表取締役会長。日興証券ニューヨーク現地法人の財務担当役員、ドレスナー・クラインオート・ベンソン証券及びINGベアリング証券でエクイティ・ファイナンスの日本及びアジア・オセアニア地区最高責任者などを歴任。その後、BNPパリバ証券で株式・派生商品本部長として日本のエクイティ関連ビジネスの責任者を務めるなど、資本市場での経験は30年以上。現在、アリスタゴラ・グループCEOとして、日本、シンガポール、イスラエルの拠点から、伝統的プライベートバンクと共に富裕層向け運用サービスを展開、また様々なファンドを設定・運用、さらにコーポレートファイナンス業務等を展開している。https://aristagora.com/

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