■連載/石野純也のガチレビュー
電気通信事業法改正による端末購入補助の制限や、3Gの停波が間近に迫っていることを受け、2万円台のエントリーモデルがにわかに注目を集めている。番号ポータビリティや3Gケータイからの移行だと価格が実質0円に近づくこともあり、ヒットするモデルも増えている。そんなエントリーモデル市場に、新たに参入するのがAQUOS RシリーズやAQUOS senseシリーズでおなじみのシャープだ。
同社が1月にauやUQ mobile、ワイモバイル、楽天モバイルを通じて発売した「AQUOS wish」は、2万円台前半のスペックを抑えたエントリーモデル。SDGsへの対応をうたっており、ボディに再生プラスチックを試用しているのも特徴だ。これまでのAQUOSシリーズに比べると機能は控え目ながら、シンプルにまとめあげた端末と言えるだろう。2万円台の端末の中には4Gモデルもある中、AQUOS wishはきちんと5Gにも対応している。
一方で、スマートフォンが2万円台前半と聞くと、その性能に不安を覚える向きもあるだろう。ハイエンドモデルが軒並み10万円を超える中、その2割程度の価格で購入できるエントリーモデルは一体どこまで使えるのか。そんな疑問に答えるべく、AQUOS wishのau版を実際に使用したうえで、同モデルの機能や仕様をチェックした。
シャープの新シリーズとして開発されたAQUOS wish。いわゆるエントリーモデルで、価格は2万円台
上品にまとめあげられたデザインで再生プラスチックの手触りもいい
ボディに再生プラスチックを使い、SDGsを全面に打ち出したAQUOS wishだが、その質感は独特だ。プラスチック特有の柔らかさがあり、わずかだがザラっとした加工が施されているため、手ざわりがよく、優しい印象を受ける。最近のスマホは、ミドルレンジモデル以上だと金属やガラスといった素材を使うのが一般的。プラスチックのボディはともすると安っぽく見えてしまうリスクがあるが、素材や加工の工夫により、ネガティブなイメージを払しょくしている。
本体には再生プラスチックを使い、環境に配慮。ソフトな手触りで、安っぽさは感じられない
アースカラーとも言える淡い色合いのボディも、アパレルなどのトレンドとマッチしている。ハイエンドモデルのような“ギラギラ感”は一切ないが、逆にそのようなガジェット的な端末が苦手な人には、おすすめできるデザインと言えるかもしれない。クセを抑えたため、老若男女問わずに受け入れられそうなテイストと言えるだろう。ボディの角が丸みを帯びているため、手への当たりも柔らかく、長く持っていても疲れないのも評価できるポイントだ。
ボタンは、すべて右側面にまとめられている。上から、音量キー、アシスタントキー、電源キー、指紋センサーの順になる。複数のキーを備えているのはAndroidスマホだと一般的だが、AQUOS wishは少々その数が多い。電源キーと指紋センサーが一体化していないうえに、端末によっては搭載されていないアシスタントキーがあるからだ。物理キーが多いこともあり、見栄えに少々難があるのは残念だ。
見た目だけならいいが、電源キーとアシスタントキーを押し間違えるなど、操作に支障が出ることもあった。もっと慣れれば、回数は減るかもしれないが、筆者の場合、右手で持った時にアシスタントキーが親指に当たりやすいのも原因の1つだ。指紋センサーを使えば、タッチするだけでロックを解除したうえで画面を点灯させることができるが、画面の点灯と消灯で異なるボタンを押すというのはUI(ユーザーインターフェイス)が煩雑になっていると言えそうだ。
電源キーと音量キーの間にアシスタントキーがあり、押し間違えてしまうことがあった
コストの都合上、電源キーに指紋センサーを統合するのは難しかったかもしれないが、アシスタントキーの存在でキーの数がさらに増えてしまった。Googleアシスタントは便利な機能だが、音声や画面のスワイプでも呼び出せるため、物理キーの存在意義には疑問符がつく。アシスタントキーは、特に日本メーカーのスマホに搭載されることが多いが、操作が複雑になってしまうだけに搭載は見送ってほしいと感じている。
レスポンスはイマイチだが5G対応で通信性能は高い
チップセットはエントリーモデル向けのSnapdragon 480 5G、メモリ(RAM)は4GBと、スペックは最低限に抑えられている。そのため、ミドルレンジモデル以上の端末のように、サクサク動くわけではない点には注意が必要だ。遅すぎて使い物にならないレベルではないが、スクロールに引っ掛かりがあったり、キーボードが表示されるのが遅かったり、アプリの立ち上がりに時間がかかったりと、ミドルレンジモデル以上の端末を使っていたユーザーだとストレスを感じる可能性はある。
Geekbench 5で計測したスコア。CPU、GPUともに数値は低め
ブラウジングやSNS程度なら比較的スムーズだが、画像が多い場合などには要注意。ゲームなどをするには、適していない端末と言えるだろう。スマホに慣れた人が常用するには、少々厳しいというのが本音だ。ただし、電話をかけたり、メールを書いたりするぶんには十分な反応速度で、ヘビーに使わなければある程度快適に利用できる。スマホではあるが、フィーチャーフォン的に利用するユーザーには十分と言えるかもしれない。
エントリーモデルでディスプレイの解像度もHD+(720×1520ドット)と低いが、この点はあまり気にならなかった。スマホを操作する際に、ある程度画面から顔を離すためで、文字などのドットが粗く見えてしまうようなことはない。液晶を採用しているが、色合いは鮮やかで、見栄えのする表示だ。これは、シャープの独自技術である「リッチカラーテクノロジーモバイル」が効いているためだろう。
ここまで寄るとドットは目視できるが、スマホは顔からある程度離して使うことも多いため、解像度はあまり気にならない
パフォーマンスの観点では、通信方式が5Gに対応している点も評価できる。ブラウジングの際にはレンダリングに時間がかかるためか、速度の高さを体感できる場面は少ないかもしれないが、アプリのダウンロードや動画の読み込みは5Gエリアなら速い。特にAQUOS wishを発売するKDDIやソフトバンクは、4Gから転用した周波数で5Gのエリアを急速に拡大している。都市部であれば、5Gのアイコンを目にする機会は多いだろう。
ちなみに、以下のスピードテストは、auの4Gから転用した5Gのエリアで測ったもの。1Gbpsを超えることがある5G専用周波数帯と比べると結果は見劣りするが、これだけのスピードが出ていれば普段使いには十分だ。5Gを目的にAQUOS wishを購入する人は少ないかもしれないが、数年単位で使い続けることを考えると、4Gのみの対応は心もとない。その点、AQUOS wishなら通信周りのスペックは最新に近いため、安心して使い続けられそうだ。
auの転用エリアで計測した速度。一般的な用途には十分な数値が出ている
カメラに過度な期待は禁物、価格なりのエントリーモデル
スマホにはカメラ性能を期待するユーザーも多いが、エントリーモデルゆえに、過度な期待は禁物だ。AQUOS wishも、カメラのスペックは低く、シングルカメラで画素数は1300万画素。ミドルレンジ以上のスマホでは一般的な超広角カメラや、ハイエンドモデルでおなじみの望遠カメラは非対応で、撮影を工夫する余地は少ない。
ほかのAQUOSとは異なり、カメラアプリにはグーグルの「カメラGo」が採用されているため、使い勝手も少々異なる。画素数は十分あるため、解像感は悪くないが、風景写真で明るい場所が飛び気味になっていたり、青空にノイズが載っていたりと、ミドルレンジモデル以上の端末と比較すると画質は見劣りする。屋内など、光量が少ない場所だとその差はさらに出てくる。スナップ写真には十分だが、カメラ機能に優れた端末とは別物と考えておいた方がいいだろう。
屋外で撮るとそれなりの写真に仕上がるが、屋内での写真はやや暗め。暗所にはあまり強くない
気になったのは、UIだ。最近のスマホは夜景撮影時に自動でナイトモードを呼び出せるのが一般的。料理モードのように、シーンに合わせたモードを備えている端末も多い。一方で、AQUOS wishはこうした機能が限定的。「夜間モード」や「HDR」は備えているものの、AIで自動的にモードを切り替えるといったことはできない。露出やシャッター速度などを手動で調整するマニュアルモードもなく、撮影機能は簡易的だ。
仕様面では、ストレージ(ROM)の少なさが少々気になる。64GBとエントリーモデルでは一般的だが、ユーザーが利用できるのは初期状態で40GB強。写真や動画を撮る量が多いと、いっぱいになってしまいがちだ。AQUOS wishはmicroSDカードに対応しているため、ストレージの利用量が多いユーザーは、別途用意しておいた方がいいだろう。
内蔵ストレージは64GB。エントリーモデルゆえに、やや容量は少ない
一方で、この価格帯の端末ながら、おサイフケータイや防水・防塵には対応している。電話やメールなどのコミュニケーションと並び、キャッシュレス決済も必須機能の1つと考えられていることがうかがえる。ここまで見てきたように、性能は価格なりだが、端末のパフォーマンスを必要としない使い方なら、十分実用に耐える。スマホデビューをしようとしているユーザーが、懐事情を気にせず手にできる1台として評価することができそうだ。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★★
持ちやすさ ★★★★
ディスプレイ性能 ★★★
UI ★★★★
撮影性能 ★★★
音楽性能 ★★★★
連携&ネットワーク ★★★★
生体認証 ★★★
決済機能 ★★★★★
バッテリーもち ★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。