KDDIは3G携帯電話向けの通信サービスを22年3月末に終了する。ケータイがなくなるわけではないが、ひとつの時代が終わりを迎えるのは間違いない。3Gの時代に生まれたガラケーの進化とそこから生まれた文化を振り返る!
日本が世界をリードした3Gの歴史
情報端末となったケータイ。大画面化から折りたたみへ
3Gとはどのような時代だったのか、懐かしのガラケーとともに振り返りたい。
「2Gの終わりにiモードがスタートして、ケータイは電話から情報端末になった。大きなディスプレイをいかに搭載するかという工夫から生まれたのが折りたたみケータイ。3Gの時代になり、各社が取り入れ、スタンダードになった」と話すのは、ライターの法林岳之氏。長年通信業界を取材してきた業界のご意見番だ。
「当時はディスプレイの大きさを、何文字×何行表示できるかで表わしていた。どのくらい文字を表示できるかが重要だった」と法林氏。
読みやすい大画面、かつカラーディスプレイが当たり前になる一方で、カメラやGPS、ワンセグ、音楽プレーヤー、おサイフケータイなど、多彩な機能も搭載されるようになっていく。さらに画面が回転する、裏返る、倒れる、外れる、ジョグダイヤルにワンプッシュオープンと、様々な形状、ギミックを採用した製品が各社から相次いで登場した。
「0円で販売される端末もあるなど、ケータイが今よりずっと買いやすく、また飛ぶように売れた時代。買い替えのサイクルも速く、各メーカーがどう差別化するかしのぎを削っていた」(法林氏)
差別化のひとつとして、「au Design project」に代表される、コラボモデルも数多く登場した。『INFOBAR』や『talby』『MEDIA SKIN』など、名だたるデザイナーが手がけた製品は、現在もニューヨーク近代美術館に収蔵されている。最近20周年記念モデルが発売されて話題の『G’zOne』は、カシオの時計から「G-SHOCKケータイ」とも呼ばれていた。ボーダフォンから携帯電話事業を引き継いだソフトバンクは、シャープとともにPANTONE社とコラボレーションし、実に20色にも及ぶカラーバリエーションを展開。アニメからハイファッションブランドまで、様々なコラボケータイがキャリアショップの店頭を彩った。
差別化のためのギミック、コラボモデルも百花繚乱
「とはいえ差別化も、『過ぎたるは猶及ばざるが如し』。一度失敗するとその損失は大きく、体力のないメーカーは疲弊して他メーカーに吸収されたり、合併していった。今のスマートフォンのように同じ製品を横展開することもできず、また体力的にも複数のキャリアで製品を出すのは大変だったので、その分、キャリアと四つに組むことになった」(法林氏)
当時は3Gを活用するためのサービスの開発も、そのサービスを利用してもらうための端末の開発もキャリアが主導した。着うたフル用の「ウォークマンケータイ」や、ランニングサービス向けのコンパクトフォンなど、キャリアが提供するサービスに合わせて端末が開発されていた。ガラケーの進化は、常にサービスと一体だったと言っていい。メーカーが開発した新製品を各キャリアに卸す一方、SIMフリーモデルとして広く販売する今の商流とは真逆。こうしたキャリア主導のスタイルが、日本のケータイの「ガラパゴス化」を招いた要因のひとつともいわれている。
一方で、鎖国していた江戸時代に独自の文化が花開いたように、3Gの時代には次ページで紹介する様々なケータイ文化も生まれた。
「どの端末にも遊び心があり、とてもおもしろい時代だった。ケータイは見た目で違いがわかったが、スマホは説明が必要。生き残ったメーカーがお客さんとどう向き合って、次の時代をどう戦うか、引き続き注目していきたい」(法林氏)
■ 3Gサービスはいつ終わる?
KDDIは2022年3月末とかなり早いが、ソフトバンクは2024年1月下旬、ドコモは2026年3月末日と、3Gの停波次期はキャリアによっても大きく異なる。ガラケーがなくなるとの誤解もあるが、今店頭に並んでいるガラケーは4Gに対応しているため、3G停波後も使用可能だ。使えなくなるのは4G非対応の古いガラケー、スマホ、4Gの音声通話「VoLTE」に対応していない機種となる。
世界に先駆けたドコモ初の3G端末
NTTドコモ『FOMA N2001』(2001年10月)
世界初の3Gを開始したドコモから登場した記念すべき最初の3G対応ケータイ。「FOMA商用サービス開始日から使用。当時は珍しい有機ELディスプレイを搭載」(法林氏)
ヒンジ部にカメラを搭載したカラー端末
NTTドコモ『FOMA P900iV』(2004年6月)
「開いたディスプレイをひねって、ハンディームービーカメラのように使えるモデル」(法林氏)。195万画素のCCDカメラを搭載。テレビに出力することもできた。
【ワンセグブーム到来!】ワンセグが見やすいサイクロイド機構
Vodafone『Vodafone 905SH』(2006年5月)
「ディスプレイを90度、回転させるサイクロイド機構でワンセグやゲームなどを楽しめるようにしたモデル」(法林氏)。シャープは複数キャリアに端末を提供していた。
ソニー・エリクソン初のFOMA端末
NTTドコモ『SO902i』(2006年3月)
音楽や写真を記録できる、メモリースティック Duoのカードスロットを搭載。「他社に出遅れたが、premini時代のノウハウを生かし、小型化を実現した」(法林氏)
【タフネスモデルの原点】折りたたみで耐衝撃防水を実現
au『G’zOne TYPE-R』(2005年7月)
耐衝撃ケータイ、『G’zOne』シリーズ初の折りたたみ。「ストレート型でしか難しいと言われていた防水耐衝撃を実現させるため、約4年に渡る開発期間を要した」(法林氏)。
【ソフトバンクの躍進の象徴!?】全20色+αのカラバリを展開
ソフトバンク『812SH』(2007年12月)
PANTONE社とのコラボで全20色に加え、追加色も展開。「シンプルで美しいデザインとも相まって、携帯事業に参入したソフトバンク躍進を後押しした一台」(法林氏)
MOMAに収蔵されたデザインケータイ
au『INFOBAR』(2003年10月)
「au Design project第1弾。深澤直人氏によるデザインで、ケータイのデザインに新しい潮流を作った一台」(法林氏)。赤白市松模様の「NISHIKIGOI」カラーが印象的。
ウオーキング&ジョギングに特化
au『Sportio』(2008年6月)
特殊なテンキーを採用した東芝製のコンパクトモデル。「ジョギングやウオーキングをサポートするauのサービスRun&Walkがワンタッチで起動できた」(法林氏)
時代を彩った個性派モデルも!
NTTドコモ『PRADA Phone by LG』(2008年6月)
タッチパネル式ディスプレイを搭載し、キーパッド非搭載という、スマホ前夜を思わせるケータイ。世界45か国で発売されたグローバルモデルだが、iモードにも対応していた。
ソフトバンク『フォンブレイバー 815T PB』(2008年4月)
当時放送していた特撮ドラマ『ケータイ捜査官7(セブン)』のコラボモデル。ロボットに変形できるだけでなく、会話ができる待ち受けアプリなども用意されていた。
取材・文/太田百合子