旅行好きにとって、コロナ禍はかなり我慢を強いられていることだろう。波がある程度、おさまっていた期間は国内旅行には行けたものの、海外旅行は未だにむずかしい状況だ。
そもそも旅行は趣味の中でも、多くの人がハマり、大きな楽しみとしているものの一つだが、旅行には多様な良い影響をもたらしてくれるといわれる。そこで今回は、旅行がもたらす影響に関する調査結果や専門家のアドバイスを紹介する。
日本人は世界の中でも旅行好き?
新型コロナウイルス感染症拡大による感染予防のための自粛により、旅行という趣味を我慢する必要が出てきた。その分、旅行はいかに現代人にとって重要であるかが、浮彫になったように思われる。それは数々のアンケート調査結果からも知ることができる。
●85%が「外出イベントに行きたい」・「国内旅行」希望者は約70%
ダスキンが2021年10月~11月に、20代~60代の男女1,000人を対象にコロナ禍での衛生意識・衛生管理行動に関する実態調査を行ったところ、旅行や飲み会、コンサートなど自粛してきた外出を伴うイベントの2022年の参加意向についての問いに対して、全体の85.0%が外出イベントに「行きたい」と回答した。
具体的に行きたい場所を尋ねたところ、上位から「国内旅行」(70.1%)、「外食・飲み会」(64.4%)、「実家への帰省」(54.4%)、「コンサート・ライブ」(36.8%)、「スポーツ観戦」(30.6%)の順となった。
特に国内旅行を切望する思いが強いようだ。
●日本人は他国の人より「旅行に行けないことがストレス」
特に日本人は、旅行が好きな傾向が、世界的に見ても顕著であるようだ。
アメリカン・エキスプレス・インターナショナルが2021年9月に実施した世界7ヶ国の意識調査「Amex Trendex」では、日本ではコロナ禍における良いメンタルヘルスを維持するための最適の選択肢として「旅行」と答えた人が46%と最も多くなった。次いで「運動」が41%、「音楽鑑賞」が29%だった。
7ヶ国平均では「旅行」は30%で、「運動」が50%で最多だったことから、世界と比べると日本人は旅行に対してメンタル面で頼っている人が多いということになる。
一方で、「コロナ禍で旅行に行けない状況は不安でストレスになっている」は61%みられた。
旅行がもたらす良い影響
旅行は、人々のメンタルにいい影響を与えることは、行ったことのある人なら実感できるだろう。その旅行がもたらす良い影響は様々なところで検証されている。
●今後の生活への意欲向上・癒しの影響が示唆
2013年に観光庁が実施した「旅行による効用調査」では、モニターツアー参加者全員が、次回旅行への期待から「また旅行に行きたい」と回答。また、旅行経験(モニターツアー)に基づく心の変化として、半数以上が今後の生活に対する意欲が向上したと回答したという。特に、「健康や体調管理」や「リハビリテーション、運動」に対する意欲が向上したという回答が多かった。
唾液アミラーゼ活性の測定によるストレス診断の結果では、観光行動の一つの要素である「入浴」によって、被験者の多くがリラックス効果を実感したという。モニターの中には、基準値を下回る数値が計測されており、大きな癒し効果が得られたと考えられるとされている。
●「温泉+アクティビティ」「高頻度」がより心身に好影響を与える可能性
旅行といえば日本人にとっては温泉が定番だ。環境省が、全国の温泉地全体で得られる療養効果を2018年7月10日~2021年1月15日に渡って、平均年齢56.4歳の温泉地を訪れた成人を対象に検証した「新・湯治推進プラン」の結果では、温泉地滞在後は、心身に良い変化が得られたという結果が出ている。
また、湯に浸かるだけではなく、ゴルフや登山などの運動、温泉地での周辺観光や食べ歩き、マッサージやエステなどのアクティビティを行うこと等が、より良い心身への変化に関連していたという。
長期間の温泉地滞在ではなくても、日帰りや1泊2日、年間を通して高頻度で温泉を訪れることで、心身への良い影響が見受けられたそうだ。
ストレス低減にポジティブである可能性も
旅行には、日頃感じているストレスを低減する可能性もあるという。日本ヘルスツーリズム振興機構 業務執行担当理事の髙橋伸佳氏は、次のように述べる。
【取材協力】
髙橋伸佳氏
日本ヘルスツーリズム振興機構 業務執行担当理事
専門:応用健康科学。健康×観光・旅行の融合となる「ヘルスツーリズム」を研究。健康社会の実現に向けヘルスツーリズムを応用した健康なまちづくりにも挑戦している。現在、兵庫県公立大学法人芸術文化観光専門職大学・准教授も兼務。
「様々な研究結果をみていると、確かに旅行はストレス低減に関するポジティブな影響を及ぼすことを期待できるかもしれません。私が関わった過去の研究では、男性で、普段あまり旅行に行かない、内向的な方の旅行によるストレス低減効果が高かったという傾向がみられたこともありました。
ただし、国内外の他の研究結果でもわかっていることですが、この旅行の健康学的効果というのは属人や諸条件によって変わってくるため、効果が必ず得られるということは一概には言えないほか、一時的であり継続しないという点には注意する必要があると思います。この点から考えると、旅行だけでストレス低減を図るのではなく、日常の行動と組み合わせたストレス解消のライフスタイルを確立する必要があるといえます。
なお、旅行中に『身体的なアクティビティ』を組み込むことで健康観や幸福感が高まる可能性を示唆するデータもあります。旅先での過ごし方にもポイントがあると言えましょう」
旅行にばかり頼らず、日常的な行動もストレス解消のために充実させる必要があるのかもしれない。また次の旅行には、ぜひ身体的なアクティビティを付加して計画しよう。
今、旅行の代わりになるアクティビティ
ところで、現在は、まだ自粛中であり、思い切り旅行に行くことができない状況だ。代替策として、旅行と似たような良い影響が得られる可能性があるアクティビティにはどんなものがあるだろうか。髙橋氏は次のように話す。
「旅行という特別な行為でなくても、公園など近所にある環境でのんびりしたり、運動をしたりする方法が代替案として考えられます。さらには、森があれば森林療法、海があれば海洋療法、温泉があれば温泉療法といった自然療法的な観点で身近な環境を見直して、ライフスタイルに自然との接触を組み込んでいくことが有効かもしれません。
なお、ストレス解消ではないですが、旅行好きな方は『旅行に出かける』という行為を想起することで、ワクワク感が得られる可能性があるかもしれません」
近隣かつ広い公園であれば、感染対策が可能となる。もちろん、今の時期は、不要不急の外出はできるだけ控えたいが、波がおさまった頃には、ぜひ取り入れてみよう。今の時期は、旅行をイメージしてワクワクするのを楽しむのが良さそうだ。
【出典】
ダスキン「コロナ禍での衛生意識・衛生管理行動に関する実態調査」
アメリカンエクスプレス「意識調査『Amex Trendex』の結果」
観光庁「資料-4 旅行による効用の検証結果のとりまとめ」
環境省「新・湯治推進プラン」
取材・文/石原亜香利