検察幹部が賭け麻雀を行い、罰金20万円の略式命令を受けた事件は、記憶に新しい方も多いでしょう。
賭けゴルフや賭け麻雀は「賭博罪」に当たり得るため、軽い気持ちで行うのは危険です。
今回は、賭けゴルフや賭け麻雀と賭博罪の関係性や、発覚した場合のリスクなどをまとめました。
1. 刑法上の「賭博罪」等について
「賭博」とは、偶然の勝敗によって、財物や財産上の利益の獲得・喪失を、2人以上の者が争う行為を意味します。
1-1. 賭博が処罰される理由
賭博行為等を処罰することには、賭博の横行により、国民経済の機能が損なわれることを防止する社会的な目的が存在します。
賭博が横行すると怠惰・浪費の風潮が広がり、結果として社会全体の生産性が低下するおそれがあります。
また、賭博によって国民全体が貧しくなると、社会の治安が悪化し、暴力事件や窃盗・強盗事件などの副次的な犯罪を誘発しかねません。
そのため刑法では、賭博に関する行為を犯罪として処罰し、社会における賭博の横行を抑止しています。
1-2. 賭博に関する犯罪と法定刑
刑法上、「賭博」に関しては「賭博罪」「常習賭博罪」「賭博場開張等図利罪」の3つが犯罪として規定されています。
各罪の内容と法定刑は、以下のとおりです。
1-3. 公営競技の投票権・totoの購入は賭博罪不成立
公営競技(競馬・競輪・競艇・オートレース)の投票権やtoto(サッカーくじ)の購入は、偶然性によって金銭の獲得・喪失を争う点で、賭博罪の構成要件に該当します。
しかし、公営競技の投票権やtotoの購入は、法律によって公的に認められた行為であるため、違法性阻却により賭博罪は成立しません。
2. 賭けゴルフや賭け麻雀は「賭博罪」?
ゴルフのスコアや麻雀の勝敗に何かを賭ける「賭けゴルフ」や「賭け麻雀」も、賭ける物の種類によっては、刑法上の「賭博罪」に該当する可能性があります。
2-1. 実力に差があっても賭博罪は成立し得る
前述のとおり、賭博は「偶然の勝敗によって」財物等の獲得・喪失を争う行為を意味します。
この点ゴルフや麻雀は、プレイヤーによって実力の違いがあるのが特徴です。
しかしその一方で、実力以外に偶然の要素が結果に影響する側面もあります。
偶然の要素が介在する以上は、「賭けゴルフ」や「賭け麻雀」も、刑法で禁止されている「賭博」に当たる可能性があります。
2-2. 「一時の娯楽に供する物」を賭けた場合は、賭博罪不成立
ただし賭博罪は、「一時の娯楽に供する物」を賭けたにとどまる場合は不成立となります(刑法185条但し書き)。
「一時の娯楽に供する物」が何を意味するかについては、法律上解釈の余地があるところです。
戦前の大審院の判例上は、「関係者が即時に娯楽のため費消する物」を言うと解されています(大審院昭和4年2月18日判決)。
たとえば、それほど高額ではない飲食物の「おごり」を賭ける場合には、賭博罪は成立しないと考えられます。
これに対して、金銭を賭けた場合には、どんなに少額であったとしても、賭博罪の成立は否定されないと解するのが判例の立場です(最高裁昭和23年10月7日判決等)。
したがって、金銭を賭けてゴルフや麻雀をした場合、それが数百円程度の少額であっても、刑法上の賭博罪に該当すると考えられます。
3. 違法な賭けゴルフや賭け麻雀が発覚したらどうなる?
賭博罪に当たるような賭けゴルフや賭け麻雀をした場合、刑事訴追や会社による懲戒処分を受けるおそれがあるので要注意です。
3-1. 捜査の対象になる可能性あり|悪質な場合は刑事罰も
前述のとおり、賭けゴルフや賭け麻雀で金銭を賭けた場合には、賭博罪に該当します。
捜査機関側の人的リソースの問題があるため、少額の賭博は取り締まりの対象にならないケースが多いのが実情です。
しかし、知名度の高い方や社会的責任が大きい方の場合、少額の賭けゴルフや賭け麻雀であっても、賭博罪として捜査の対象になる可能性があります。
たとえば、冒頭で述べた検察幹部による賭け麻雀の事例では、検察官が一度被疑者を不起訴としました。
ところが、その後無作為に選ばれた国民で構成される検察審査会によって「起訴相当」の事案と判断され、最終的に罰金の略式命令が行われた経緯があります。
また、賭けた金額が数千円~数万円と高額に及ぶ場合や、常習性が認められる場合には、さらに重い刑事罰を受ける可能性もあるので注意が必要です。
3-2. 会社から懲戒処分を受ける可能性あり
刑法上の犯罪行為は、勤務先の会社が定める就業規則との関係で、懲戒事由に該当するケースがほとんどです。
刑法上の賭博罪に当たる賭けゴルフや賭け麻雀が発覚した場合、刑事訴追の有無にかかわらず、就業規則違反として懲戒処分を受ける可能性があります。
少額でも犯罪行為である以上、戒告やけん責などにとどまらず、減給以上の重い懲戒処分も十分想定し得るので要注意です。
最近では企業コンプライアンスが厳しくなる傾向にあり、賭博などについて厳しく対処する会社も増えています。
そのため、軽い気持ちで賭けゴルフや賭け麻雀の誘いに乗ることは、厳に慎むべきでしょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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