DIME MAGAZINE
その失敗はあなた個人のせいじゃない！「人類はできそこないである 失敗の進化史」
仕事が山積みなのに、来週から新人教育まで任されてしまった。
月末には業界団体のイベントも入っていて、胃が痛くなってきた。どうして自分はこんなにデキないヤツなんだろうと悲しくなる。
こういう気分をこじらせるとヤバいので、とりあえず、何か仕事とは関係のない本でも読もうと手に取ったのが「人類はできそこないである 失敗の進化史」（SBクリエイティブ発刊、斎藤成也著、定価990円）だ。
自分ができそこないなのはわかっているけど、人類もできそこないだというタイトルはとても魅力的だった。今回は著者の斎藤先生に、文書でインタビューに応じていただいた。先生、よろしくお願いします！
人類の進化を失敗と言い切った本
――先生は人類の進化の歴史を研究され続けていましたが、今回はあえて失敗の進化史だけをあつめた一冊となっています。「できそこない」なのは自分だけだと思っていたところだったので、とても心慰められました。著者としてこの本はどんな人にどう読んでもらいたいと思いますか？
斎藤先生 そうですね。特に対象と考えた読者はありません。老若男女どなたでも読んでいただけると期待しています。「どう読んでもらいたいか」というのは、むずかしい質問ですね。やさしく書かれていると思うので、本書の主張をご自身で受け入れるかどうか、判断していただきたいです。
――進化というと、向上するとか、高機能化への道、という印象でしたが、人類の進化はそういう進化だけではなかったという新しい切り口で書かれています。今、あえて失敗に目を向ける意義は、どこにあると思いますか？
斎藤先生 進化学の研究者にとって、進化上に失敗があるのは当たり前です。そういう意味で、わたしにとっては「新しい切り口」ではありません。まあ、人類の進化まで失敗と言い切った本はすくないかもしれません。今失敗に目を向ける意義は、さてなんでしょう。特に今という時間に意味はありません。
進化は偶然に左右されることが多い
――この本は、文系の自分でもわかりやすく書かれていました。どんな点に注意して作成されたのでしょうか？また、著者として一番訴えたい点、読んでもらいたい部分はどこですか？
斎藤先生 よくわかりやすいと言われますが、その大きな要因は、ライターの渡辺稔大さんの筆力です。私自身が書いた本は、わかりにくいと言われることが多いですから。
著者として一番訴えたい点は、進化が偶然に左右されることが多いという点ですね。木村資生博士によって提唱された中立進化論（注を参照）は、まさにこの論理に沿って展開されています。
注）中立進化論とは、木村資生（きむらもとお）氏が1968年に提唱した概念で、米国の二人の研究者が分子データの解析結果を示して現在では広く支持されている進化論。自然淘汰説と同じように突然変異が進化に寄与するという考えで、突然変異はなんの脈絡もなく起きる。生物の進化に有利でも不利でもなく、中立なものである、という理論。
――最後に先生からアドバイスをお願いします。
斎藤先生 私はもう６５歳ですから@DIMEの主な読者層の３０歳代というと、私の半分ぐらいの年齢ですね。人生は長い。これからいろいろなことを学んで、しっかりこのさきの長い人生を進んでいってください！
――先生、ありがとうございました！
長い人類の歴史を振り返ると、今、自分がここにこうして存在していることが不思議な奇跡の様に思えてくる。命を粗末にできないな、と思える貴重な一冊。ぜひ、仕事に追われるビジネスマンのあなたにこそ、お薦めしたい。
著者紹介
斎藤成也（さいとう・なるや）
1957年福井県生まれ。東京大学理学部生物学科人類学課程卒業。同大学理学系研究科人類学専攻修士課程修了。米国テキサス大学ヒューストン校生物医学大学院修了(Ph.D.)。東京大学理学部生物学科助手、国立遺伝学研究所進化遺伝研究部門助教授を経て、2002年より同研究所集団遺伝研究部門教授(現職)。琉球大学医学部特命教授、総合研究大学院大学遺伝学専攻教授、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻教授を兼任。
https://www.amazon.co.jp/dp/4815603111
文／柿川鮎子
編集／inox.
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