「産業のコメ」としてあらゆる業界・業種で、経済活動の基盤を担う半導体は今、とりわけ自動車業界で深刻な不足状態に陥っている。スマートフォンなどのハイテク企業も苦しめられている〝産業界の飢饉〟だが、解消の兆しはいつ見えるのか。
半導体不足の真の原因は「コロナ禍」より「米中摩擦」
半導体不足のニュースを耳にすることが多かった21年だが、実は19年に半導体不況ともいうべき事態が起きていた。
半導体市場規模の統計データを提供するWSTSによれば、19年の市場規模は前年比12%減となる約4124億ドル。その主な原因は、米中間の貿易摩擦によりスマホやノートパソコンの売れ行きが落ち込んだためである。そんな最中の新型コロナ感染拡大だったため、コロナ禍直後の主要半導体メーカーは「需要の回復は見込めないだろう」として、増産体制に踏み切れていなかったようだ。
しかし、20年下期に事態は急変する。巣ごもり消費に必要な大型テレビやスマートフォン、テレワークに必要なノートパソコンなどの需要が急上昇したのだ。その需要の中には自動車も含まれていた。
今まで公共交通機関で移動していた人が他人との接触を避けるべく自家用車を使うようになり、新車購入に向かったとみられる。中でも燃費が良く、かつ小回りが利く車種が人気を集めている。
つまり、今起きている半導体不足は「新型コロナによって引き起こされた」というよりは、「2019年に起きた米中貿易摩擦が原因」といえる。これに加え、前段で述べた「供給不足」が、半導体不足を長期化させている。
ではなぜ自動車業界での半導体不足が深刻なのだろうか。その答えは半導体メーカーの製造優先度にある。自動車で使われる半導体は、スマートフォンやノートパソコンなどに比べて、比較的性能が低く安価なものでよいのだが、半導体メーカーからすれば売り上げはたてにくい。そのため各半導体メーカーは、自動車用よりも性能が高く高価なものを優先して製造・販売していた。その影響により、各自動車メーカーは需要増にもかかわらず減産体制を強いられるようになった。
ところが、21年10月12日には米アップルが『iPhone13』を1000万台減産すると発表、優先されていたはずのスマートフォンにも影響が出始めた。
ハイテク企業の巨人までもが影響を受けている中、半導体不足はいつ解消するのだろうか。
半導体不足が起きた2つの理由
(1)米中対立による制裁
米国政府の中国に対する経済制裁により、TSMC社をはじめとした台湾企業には注文が集中するも、さばききれていない。そこで米国は、政府補助金によって同国内に製造拠点を増やす考えだ。
(2)コロナ禍や気候変動による供給不足
パンデミック発生で東南アジアの半導体工場が閉鎖されたり、半導体製造に必要な水が干ばつにより不足するなど、製造したくでもできない状況が長引いている。
半導体市場規模は2030年に100兆円を超える?
デジタル・トランスフォーメーションが進むほど半導体市場が拡大していく。その他にはカメラのイメージセンサーなどが含まれる。
製造優先度が低くなってしまう自動車向け半導体不足が特に深刻
例えばトヨタでは2020年に約791万台を生産したので、その3.8%相当が減産対象になる。製造業にとってこの数字は決して小さくない。
※各数値は、2021年11月15日までの決算説明情報をもとに編集部にて集計。
【 プロはこう見る!】供給ルートの混乱がなくなれば夏頃から解消される可能性あり
闇に包まれているといっても過言ではない半導体の供給ルートの全容に対し、岡三証券の坂下さんの客観的な分析では、2022年夏頃には不足解消の可能性がありそうだが、それはなぜか。インタビューを通じてわかった理由をまとめる。
半導体不足の解消に伴い、ハイテク関連に牽引される日経平均株価は上昇するでしょう
2022年末の日経平均予想は3万2000円
NVIDIAもAMDも「2022年末に解消する」
半導体製造・供給のプロセスは多岐にわたっているため、どこがボトルネックになっているのかつかむのは難しい。米バイデン政権が各国の半導体メーカーにサプライチェーン(供給網)の情報提供を呼びかけて調査を進めているが、解明にはまだ時間がかかりそうだ。
そこで企業の決算情報などから半導体供給や不足解消のタイミングを見通す坂下さんに、最新の動向を聞いた。
「まず大手半導体メーカーでは遅くとも2022年中には不足が解消またはやわらぐことがわかりました。例えば半導体設計大手のARM社やNVIDIA社では2022年の年末頃には、AMD社も22年下期には不足が解消される見通しを発表しています。
半導体業界全体で生産体制の強化をし始めているのに加え、自動車産業などの半導体を組み込んだ製品を提供する企業は、代替の調達ルートを見つけつつあります」
米国と中国が対立するのは政治要因ではなく経済要因
生産体制の強化を行なうとはいえ、例えば台湾TSMC社が発表した日本での製造拠点設立は、稼働開始が24年であり不足解消見込みより2年も遅い。この点はどうか。
「自動車でいえば、半導体不足ではあるもののあくまで〝納期が遅れている〟だけの状態。半導体メーカーも各製品の在庫調整を行なっており全体的に製造の最適化が行なわれているので、現行の生産力でもそこまで大きな心配はないと見ています」
ほかにもAI技術でビッグデータを分析した在庫や販売予測などが行なわれており、供給を増やすだけでなく、業界が総力を挙げて供給の最適化を行なっているという。
米中対立を中心に国際情勢は半導体供給に悪影響を与えないのだろうか。政治対立が悪影響を及ぼす可能性について坂下さんは否定的だ。
「半導体の生産工程に分けて考えると、設計や設計に必要なアプリケーションは米国が覇権を握っていますが、実際の製造は韓国や中国などが覇権を握っています。実際、米国企業もその製造の多くを韓国・中国に委託しているため、政治的な理由で対立が起きるというのは考えにくい。ただ、今は設計などの〝上流工程〟にいる米国ですが、中国が半導体の完全内製化を目論んでいるなど、経済的な主導権は東アジアに移りつつあります」
中国といえば、恒大集団問題で経済ショックの懸念があった。これにより経済環境が悪化して、半導体の供給バランスが崩れてしまわないだろうか。
「2021年10月現在では中国人民銀行の不動産投資会社に対する融資が増えてきており、中国当局も手を打ってきています。自然災害などの未曾有の事態が起きない限り、経済ショックや半導体供給過剰が起きる可能性はほとんどないと見ています」
中国の大手不動産会社「恒大集団」のデフォルト危機はなぜ起こったか?
恒大集団の資金効率を極限まで高める経営方針がアダになり、不動産融資規制によって資金繰りが立ち行かなくなった。
不動産を安売りしても売れない恒大集団の「財務リスク」
総資産に対して6割が販売用の不動産商品で、自転車操業状態になってしまった。これが原因で今回の問題に発展した。
取材・文/久我吉史
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