「食事はよく噛んで食べなさい!」などと親や学校の先生などから言われたことのある方も多いだろう。「噛ミング30(カミングサンマル)」なる運動を提唱する厚生労働省や日本歯科医師会などによると、一口につき30回以上噛むことが推奨されており、噛むことによって歯はもちろんカラダの健康や美容、さらには脳やこころにもよい影響があるといわれている。
ただ、忙しい毎日の食事の中で「噛むこと」を心がけることは難しいのではないかと思うのだが、実際はどうなのだろうか?
そんな中、1948年創業以来、チューインガムの製造販売を行っている製菓メーカーとして有名なロッテが、とても興味深い調査結果を発表した。それが「全国“噛む力(かむりょく)”調査」だ。
この調査は、ロッテ内にある、噛むことの重要性について研究、発信を行なっている「噛むこと研究部」が、食生活の変化に伴う食事や噛むことに対する意識変化の実態を明らかにするため、全国47都道府県毎に20代〜60代の男女100名ずつを対象に実施したものだ。
この調査での「噛む力」とは、(1)日常における「よく噛むこと」に対する意識、(2)夕食時一口あたりの咀嚼回数・ガムを噛む頻度といった行動、(3)噛むことの健康効果や食べ物の種類別の必要咀嚼回数への理解度といった知識、主にこの3要素で構成された質問の回答結果を「噛むこと研究部」が健康面において好ましいとされる順序に点数を割り振り、偏差値で算出した結果のこと。
現代人は噛むことを全く意識していない!?
全国“噛む力”調査をチェック!
さて、今回の「全国“噛む力”調査」の結果を見て愕然としたのが、「夕食一口あたりの咀嚼回数が多い上位5県」(表1)だ。前述のように専門家などは、30回以上を推奨しているのにも関わらず1位の福岡県でさえ23回で、5位の東京都に至っては19回という少なさ。
これについては、全体では実に96%の方が「30回未満」(グラフ1)という実態が明らかになり、さらに、63%の方がよく噛むことを「意識していない」(グラフ2)という結果に。
なお、性年代別で見ると、20代男性が噛むことを意識する割合が最も高く、逆に40代男性は噛むことを意識していない割合が約70%で、最も意識が低いことが判明。また、「噛む力」が最も低かったのも40代男性ということで、働き盛りのビジネスマンは、仕事に追われるあまりに、食事をかき込むように短時間で済ませてしまっているということなのだろうか。
そして、よく噛むことの効果について知っていることを選ぶ質問では、「歯や顎の健全な発達(47.2%)」や「口内環境の改善(46.9%)」といった歯に関係する効果を抑え、「脳の活性化」の認知率が最も高い61%という結果に。
ガムを食べながら歩くとカロリー消費の増加が期待できる!?
噛むこと専門家・宮下先生に聞いてみた!
結果を見てきた中で、先ほどの「よく噛むことの効果」(グラフ3)について、特に目に留まる項目があった。それは、「噛むことでウォーキング速度が加速し、カロリー消費が高まる」というもの。仕事柄、数多くの情報に触れる機会が多い筆者だが、正直、この効果については知らなかった。
さて、「噛むこと」と「運動」ということで思い出すのが、プロ野球選手がガムを噛みながらプレーをする姿だったりするのだが、あれはリラックス効果や集中力を高めるためだと聞いたことがある。だが「カロリー消費が高まる」とは、どういうことなのだろうか?
噛むことが身体機能に与える影響について研究している早稲田大学スポーツ科学学術院教授の宮下政司先生に話をうかがった。
──なぜガムを噛むとカロリー消費が高まるのか?
安静時にガムを噛むことで交感神経が刺激され、ガムを噛まない時と比較し、心拍数が増加すると過去の研究より報告されています。また、我々は株式会社ロッテとの共同研究にて、ウォーキングに「噛む」行為を加えることで、エネルギー消費がさらに大きくなることを報告しています(文末の最新の関連情報を参照)。ガムをリズミカルに噛みながら歩くことで、心拍リズムと運動リズムの同期や、ガムを噛むテンポ自体が歩行テンポに影響し、ウォーキング速度が上昇し、エネルギー消費量の増加に繋がります。
──噛む力上位県は、ガムをよく噛む県と相関関係にある?
調査結果を拝見しましたが、噛む力1位の秋田県は→ガムをよく噛む県2位、2位の福島県は→ガムをよく噛む県4位、3位の福岡県は→ガムをよく噛む県1位という結果となっており、噛む力の高い県は、よくガムを噛んでいる傾向にあるようですね。
ウォーキングに限らず、ガムを噛むこと自体がエネルギー消費につながりますし、食後にガムを噛むと熱産生(食後に体温が上昇する現象)によるエネルギー消費をより高めることがわかっています。健康的な生活を送るために、日常のいろいろな場面でガムを取り入れて頂くのはとてもおススメです。
DIME記者が実際に検証!
噛んで歩くだけで本当にカロリー消費が上がるのか?
なるほど!宮下先生の話を聞いて、ガムを噛みながらウォーキングをすると速度が増加し、カロリー消費が高まるメカニズムが分かった。となると、本当にカロリー消費が高まるのか実際に試してみたくなるのがDIME編集部。
そこで、ロッテの「噛むこと研究部」に協力をお願いして、検証実験を行なうことに。
ちなみに被験者となる筆者ツチヤ(50代男性・ライター)は、学生時代の陸上部・短距離選手のときから行なっている筋トレを、現在も週1〜2回のペースで続けているもののウォーキングなどの有酸素運動は一切やっていない。
ただ最近、年齢のせいか内蔵脂肪が気になりだしていることもあり、腹筋などの筋トレよりも内蔵脂肪を減らすのによいとされる、有酸素運動のウォーキングをちょうど始めたいと思っていたところだった。
そして、検証実験の場として訪れたのが、関東某所にある公園の昼下がり。まずは、心拍計や歩行中のエネルギー消費を測定する「K5ウェアラブル呼吸代謝計測システム」などを装着する必要があるのだが、その見た目がなかなかのもの。
ジャーン、装着完了。なんか国際宇宙ステーションに行く訓練のようでかっこいいのだけれど、通報されないか心配。
実験の方法は、1周約1kmのコースをガムを噛まずに通常通りに歩行を行なった後、少し安静にして、今度はガムを噛みながら同じコースをウォーキングしながら測定するというものだ。
【ガムを噛まずにウォーキング】
【ガムを噛みながらウォーキング】
ということで、当日の検証実験は、これで終了。後日、取得したデータを「噛むこと研究部」で集計・分析した結果が以下のグラフのとおりだ。
さて、上のグラフを見ても分かるとおり、ガムを噛んでウォーキングしたほうが、歩行速度、カロリー消費、脂肪燃焼、心拍数のすべての項目でスコアアップしていた。特にカロリー消費に至っては、なんと!76%もアップしていたのだから本当にびっくり!
まさかガムを噛んでウォーキングするだけで、これほどまでとは想像もしていなかったが、こんなお手軽な方法で運動による効果がアップするならば、普段から頻繁にガムを取り入れたくなるというもの。〝普段の散歩にガム〟の習慣を是非取り入れてみるのはいかが?
最新の関連情報:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001596.000002360.html
関連情報:噛むこと研究室サイト https://kamukoto.jp/beauty/789
取材・文/土屋嘉久 撮影/末安善之