■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
フルモデルチェンジしたメルセデス・ベンツの「Cクラス」は5世代目。その前の「190」シリーズから続く、最もベーシックなメルセデス・ベンツの4ドアセダンだ。時代を経ると必ずしも「Cクラス」がベーシックということではなくなったが、FR(フロントエンジン・リアドライブ)レイアウトを採る最も小さなセダンであることには変わりはない。
前輪駆動を採用する「Aクラス」や「Bクラス」よりも、さらに上質な運転感覚が「Cクラス」の真骨頂で、新型もその例に違わなかった。街中はもちろんのこと、箱根の山道を走るとそれがより一層と際立っていた。
機械として優れているか? ★★★★★ 5.0(★5つが満点)
試乗車には、オプションの「AMGライン」が装着され、そこにはスポーツサスペンションも含まれている。スポーツサスペンションにありがちな硬めの乗り心地を想像したが、まったくそんなことはなく、フラットな姿勢を維持しながら少ないと想像できるホイールストロークでも、不快な突き上げや振動などが一切ないのは、見事なボディーコントロールだといえる。その長所は速度域に左右されることもなく、街中での低速走行や高速道路でも変わらなかった。
また、上質な走行に一役も二役も勝っているのが「ISG」だろう。エンジンとトランスミッションとの間に組み込まれたディスク型のモータージェネレーターがISGで、電気のパワーによって加速をアシストする。アイドリングストップからエンジンが再始動する際や走行中のギアチェンジなども電気のアシストによって振動を感じず、燃費の向上にも貢献している。
さらに、高速道路で驚かされるのは、ACC(アダプティブクルーズコントロール)やLCAS(レーンチェンジアシスト)など運転支援機能の作動のスムーズさだ。特に、LCASの一連の働きが滑らかだ。LCASは側方や後方の安全を「C200」の複数のカメラとセンサーによって確認後にレーンチェンジを行うものだ。一般的なLKAS(レーンキーピングアシスト)が車線内の走行を維持するのに対して、半歩先を行っている。
半歩先といえば、カーナビも先進的だ。目的地を設定したカーナビは曲がり角に近付いていくと、それまで地図と矢印で示していたオーソドックスな画面がカメラが映しているリアルタイムの像を画面に映し出し、行き先を示す青い矢印が現れる。これは、とても見やすく使いやすい。好みが違っていたり、慣れていない場合は設定で解除できる。
そうした操作はタッチパネルの中に集約され、それに対して使用頻度の高いエアコンやオーディオ、カーナビなどの操作はパネル下の独立したボタンによって入力できる。特に、最近のメルセデス・ベンツのほとんどは、MBUXというドライバーインターフェイスを備え、音声認識機能も最新レベルにアップデートされている。実際に購入し、ユーザーになった人ならば、積極的に音声認識機能を使っていくことによって、より便利で安全にクルマを操作することができるはずだ。
商品として魅力的か? ★★★★★ 5.0(★5つが満点)
オプション総額72万4000円を含んだ総額751万7000円(税込)という、この「C200 AVANTGARDE」の価格を高いと考えるか、妥当だと考えるか? 筆者は妥当だと思った。メルセデス・ベンツのFRセダンらしい上質な走行感はもちろんのこと、最新のデジタライゼーションとそれに司られている運転支援と電動化のメリットを最大限に享受できるからだ。
ただし、そうではないユーザーにとっては“高い”と感じられても仕方がないだろう。なぜならば「C200」の持つ能力のすべてを運転体験に反映することにならないからだ。“宝の持ち腐れ”になってしまっては、“高い”と感じてしまっても止むを得ないだろう。
具体的には、自分のスマートフォンを「C200」に登録することもなく、運転支援機能や「MBUX」という優れたドライバーインターフェイスなどを使わず、ただただ走らせるだけで終わらせてしまうことだ。「C200」だけに限らず、最新のクルマで最も心境著しいのは、「走る、曲がる、止まる」といった走行だけではなく、むしろそれ以外の部分にあるからだ。走行にしても、積極的に運転支援機能を使えば、安全性が高まり、同時に肉体的な負担を減じられて、省エネにもなる。
電動化も穏やかなもので、いわゆるマイルドハイブリッドの範疇に収まるものだが、日常的な使い方で効能をつねに感じることができる。新型「Cクラス」は上質な走行性とともに、先進装備の実効性においてもトップクラスを行っている。繰り返すけれども、それを享受するためには装備しているすべての機能を使ってみなければならない。
使わない人には高いと感じられるだろう。間違いなく、それだけの価値がある。新型「Cクラス」は新時代の高級4ドアセダンのあり方を明確に体現している。
文/金子浩久(モータージャーナリスト)