小学館IDをお持ちの方はこちらから
ログイン
初めてご利用の方
小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼントにお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
新規登録
人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

SNS時代で過剰に増長する「承認欲求」との付き合い方

2021.12.19

承認欲求は本来悪いものではない

「承認欲求」という心理学用語を、あちこちで聞くようになって久しい。

言うまでもなくこれは、SNSの普及に伴う現象。社会問題となった「バイトテロ」も、当事者の承認欲求の発露が根っこにあるのは、周知のとおり。

最近では「承認欲求モンスター」という言葉まで登場。とかくネガティブな文脈で語られがちだが、この欲求自体は実は「悪いものではない」。そう説くのは、先般『承認欲求に振り回される人たち』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓された、MP人間科学研究所代表の榎本博明さんだ。

榎本さんによれば、承認欲求はだれの心の中にも存在していて、しかも赤ん坊の頃から備わっている性質だという。例えば、よちよち歩きができて親から褒められたときに、もっとうまく歩けるようになりたいと思うのも、親に承認されたいという気持ちから。長じて、学校で良い成績を取りたい、社内で業績を上げたいと頑張るのも、周囲の人たちに承認されたいという心理が働いているのが普通。むしろ、精神的な成長に承認欲求は欠かせない。心理学者マズローの有名な「欲求の階層説」でも、「承認と自尊の欲求」は高い階層にあり、むしろ好ましい欲求といえる。

それが、悪い印象をもつ言葉になってしまったのは、やはりSNSの影響が大きい。榎本さんは、次のように語る。

「多くの人に注目してもらえる道具を手にしたことで、私たちの“注目されたい”という思いはより強くなりました。いわば“自己愛”が過剰に刺激されるようになったわけです。ここで大切なのは、注目されたい思い自体が決して悪いわけではないということです。プロ野球選手も、Jリーグのサッカー選手も、オリンピックで活躍する各種スポーツ選手も、“注目されたい”という思いを抱えて頑張っていることが多いはずです。問題なのは、SNSによって承認欲求を安易に満たせるようになったことです」

確かに、プロスポーツの世界で承認欲求を満たすには、相当な努力が必須。対して、SNSの世界では、思いつきで投稿した写真が、フォロワーたちの好評価を得ることがある。それに味をしめ、過剰に演出した自撮り写真を見せたり、恋人がいるかのように「匂わす」投稿をしたり、果ては公序良俗に反する内容を投下する人が出てくる。

この種の自己愛過剰なSNSの使い方だと、「気分が不安定になり、うつ的な気分になりやすいといった傾向がある」と、榎本さんは釘を刺す。

かといって、ネット世界と断絶できないわれわれは、承認欲求とどう付き合っていくべきだろうか?

自己愛に満ちた投稿には危険な落とし穴が

承認欲求は現実世界で満たす

SNSとの付き合い方について、榎本さんのアドバイスはシンプルなものだ―「SNSから離れる時間をもつ」という、この1点に尽きる。

「ここで大事なのは、承認欲求をSNSで満たそうとするのではなく、身近な人間関係や勉強・仕事・趣味などで生活を充実させ、現実世界で承認欲求を満たす方向にシフトすることです」

マズローの「欲求の階層説」では、下位の欲求がある程度以上満たされると、その欲求は収まり、より高位の欲求に目が向くとされる。SNSで承認欲求を満たそうとする気持ちがずっと収まらないなら、SNSでは本当の承認欲求は充足できていない可能性がある。

榎本さんは、SNSに投稿を続け、「いいね」の数やフォロワーの反応が気になってしょうがない人の例を挙げる。もちろん当人にしてみれば、あくなき承認欲求を満たそうとする心理がある。しかしその人は、そんな毎日が面倒になって、ある日を境にSNSと縁を切ったという。すると不思議にも、「気持ちがすっきりして、自分を取り戻すことができた」そうだ。おそらく、リアル世界で実りあるやり方で、承認欲求を満たす方法を見つけたのだろう。

現実世界で承認欲求を満たす方向へシフトしよう

日常の人間関係の深まりが大事

承認欲求をこじらせるのは、何もSNSに限らない。ふだんの生活の中でも承認欲求が健全なかたちで満たされず、自己愛ばかりを増長させている人は少なくない。

榎本さんによれば、そもそも日常的な承認欲求は、「お互い率直に自分を出し合って付き合える関係の中」で満たされるものだという。逆に言えば、本音で付き合えない人ばかりでは、承認欲求は満たしにくいことになる。もし、あなたの人間関係がそうであるなら、「率直に自分を出す」ことが解決策につながる。

「自分を出す、つまり自己開示をするには、だれしも一歩踏み出す勇気が必要です。見た目で気に入って、表面的な話を楽しんでいるうちは何も違和感がなかったけど、勇気を出して深い話をするようになると、お互いのプライベートな顔が見え、どうも自分とは違う世界の住人だと感じる。そのようなこともあります。でも、それは仕方のないことだと割り切るしかありません。それがわかったら再び距離を置けばいい。そう思えばいいでしょう」

他人以上友人未満な関係から一歩踏み出そうとして、相手からの反応がつれないものであれば、心が傷つくかもしれない。しかし、自己開示が相手の好意を引き出すことは、多くの心理実験によって証明されていると、榎本さんは指摘。また、「みんなから好かれようなどと思わない」というアドバイスも。どこかの時点で開き直りが必要となるかもしれないが、やってみる価値はある。

率直に自分を出し合う関係の中でも承認欲求は満たせる

SNSの登場で、承認欲求をコントロールすることの難しさは、多くの人が実感しているに違いない。しかし、欲求が生まれる仕組みと対策さえ把握すれば、満たされぬ思いに身を焦がすこともなくなる。榎本さんのアドバイスをもとに、自分の承認欲求にうまく対処してみてはいかがだろうか。

榎本博明さん プロフィール
心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学助教授等を経て、現在、MP人間科学研究所代表。産業能率大学兼任講師。『「上から目線」の構造』(日経プレミアシリーズ)など心理学関連の著書多数。

文/鈴木拓也(フリーライター)

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2024年12月16日(月) 発売

DIME最新号は、「大谷翔平研究!」。今年を象徴するDIMEトレンド大賞の発表や、Aぇ!group、こっちのけんと他豪華インタビューも満載!

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。