気遣いのしすぎは「よけいなお節介」
人との円滑なコミュニケーションに欠かせない「気遣い」。
適切な気遣いは、相手との関係を良くするものだが、リモートワークやパワハラへの過剰対応で、気遣いも過剰になっていないだろうか?
もし、そうであれば、気遣いは「よけいなお節介」に。
「『自分が〇〇しているのに、相手が思うような反応をしてくれない!』と腹が立ったり、『私はこんなに気を遣っている!』と語りたくなったりしたら、一度立ち止まって考えてみてください」
こう指摘するのは、コミュニケーションの研修講師として活躍する三上ナナエさん。仕事柄、受講生から気遣いについて質問を受けることが多い三上さんだが、自身もかつては気遣いがうまくできず、疲弊しがちであったという。
そう聞くと「気遣いって、難しい」と考えてしまうが、ポイントを押さえておけば大丈夫。例えば「相手ができることは勝手にしない」。相手を慮って、先回りして手伝ってしまうのは、はたしてどうか。その人が普通にできることなら、そっとしておくのも大事。
そうした気遣いのコツを、三上さんは著書『その気遣い、むしろ無礼になってます!』(すばる舎)で網羅している。その一部をこれから紹介しよう。
謝罪や感謝の連発はNG
家族や同僚に親切にしてもらった際の「すみません」。感謝の意味で言っているのだろうと相手には伝わるが、これも程度問題。ことあるごとに「すみません」と返ってきたら、いい気はしない。
もし自分にそのクセがあるなら、解決策は簡単で、「ありがとう」に言い換えることだ。「誰しも、謝られるよりお礼を言われる方が嬉しいものです」と、三上さんは説く。
では、クレーム対応などで本当に謝罪しなければいけない時は? その場合でも、謝罪の連発はNGだという。理由について、三上さんはこう説明する。
「『ただ謝ればその場をしのげると思っているんでしょ』『そんなに謝られると、私がクレーマーみたいでいたたまれなくなる』という心理にさせやすいです。嵐が過ぎるのを待つように、口先だけで反射的に言っているように聞こえるからです」
そこで効果的なのが、「何に対してのお詫びなのかを具体的に言葉」で表すことだという。例えば「納品が遅れご迷惑をおかけし、申し訳ございません」。この言い方は、取引先だけでなく身近な人間関係でも同様だ。
逆の「ありがとう」の連発も、軽い気持ちに受け取られてしまうリスクがあると、三上さんは説く。そうならないコツは、自分の感情を言葉にする。例えば、次のように。
「〇〇をやってくれたんだね」
「手伝ってくれて助かった!」
「あーいてくれてよかった」
また、お詫びの時と同じように、何に対して感謝しているのか明確にするのもよい。
「〇〇さんのおかげで●●がうまくいったよ」
というふうに。
返礼の品を贈る前に感謝の言葉を
では、誰かから気遣いされたときの対応は?
特に物品をもらったときは、「すぐにお返ししなきゃ」という心理が働きやすい。でも、心のおもむくままに、返礼の品を渡すのはあまりよくないそうだ。
「たとえば、お世話になった人に何か物を贈ったとき。贈ってすぐに、先方がお返しの品をわざわざ買って渡してきたら、どんな気持ちになるでしょうか。気にならない人もいるかもしれませんが、『あれは負担だったのかな? 迷惑だった? 重かったのかな?』と心配になる人も多いでしょう」
三上さんがこう指摘するように、よかれと思っての速やかな返礼が、逆効果になる可能性もはらんでいるのだ。
では、どうするのがベストかというと、「まずは嬉しい気持ちを言葉で表現する」。それは、メールや電話でも問題ないが、会えるならその場で感謝の意を述べる。例えば―
「めったに口にできないものをいただき、みな喜んでおります」
「こんなに立派な美しい〇〇を見たことがありませんでした」
その後の具体的なお返しは、「〇〇へ旅行に行ったので」といった言葉を添えてさりげなく。
「基本的に、贈ってくれた相手はお返しを期待しているわけではありません。『喜んでほしい、自分の気持ちを受け取ってほしい』。そんな思いで贈り物をしているはずです。その気持ちに応えるためには、気持ちを言葉にすることが重要なのです」
何かと贈られることが多い今の時期。このアドバイスは心しておこう。
部下への指導でも気遣いは必要
職場での気遣いは、私生活とはまた違った難しさがある。なかでも上司から部下への指導においては、気をつけないとパワハラ扱いされることもあり、神経を使う。
三上さんは、まず原則として「時間をとって丁寧に伝える」点を挙げる。たとえ、自身が忙しくても、そこはおろそかにしない。
「忙しいからといって、いいかげんに伝えているとどうなるでしょうか? 相手が聞き逃して、結局何度も伝えることになったり、相手の行動が変わらなかったり、口うるさいと思われて関係が悪化したり……。最悪の場合、そのことが原因で相手が仕事を辞めてしまうことにもなるかもしれません」
また、言葉遣いについても、避けたいものがある。
「前にも何回か言ったと思うけど」
「やる気あるの」
「普通そうしないよね」
同じミスを繰り返した部下相手に、つい口から出てきそうなフレーズだが、それまでの信頼関係を台無しにしかねない一言だ。ここは、以下のように伝え、むしろ前向きになってくれるよう期待。
「これをミスするとこういう影響があるんだよ」(理由を説明する)
「~はできているから、〇〇してしまうともったいないよ」
(言い分を聞いてから)「こうする方が間違いが起こりにくいかな」
さらに、言葉遣いだけでなく口調にも注意したい。とりわけ、怒った口調で指導するのは考え物だ。
「逆の立場になれば見えてくることですが、『怒鳴られたから、身にしみて反省できた』ということはあまりないものです。それどころか、逆に反発する気持ちが芽生えたり、『感情的になる人なんだな』『ヒステリーを起こす面倒なタイプの人だな』と、冷めた目で見てしまったりすることもあります」
怒りや不愉快な気分をぶつけたところで、一時的にすっきりするかもしれないが、結局いいことはない。だから、その気持ちを抑えることが、なにはともあれ必要になる。「深呼吸をしたり、ゆっくり数を10数えてみたり」など、シンプルなやり方でも効果があるので、そうやって気持ちを落ち着けよう。
「他にも、『伝える目的は何だったかな?』と自分に問いかけることも有効です。指導する目的は、相手を怖がらせることでも、自分のストレスを発散することでもなく、相手の成長やチームの成果のためだったと思い出してください。それができると、『穏やかに』『前向き』にと切り替えるスイッチも入りやすくなります」と、三上さんはアドバイスする。
時と場面に応じて、気遣いにもさまざまなかたちがあるが、共通して考えるべきは「相手にとって有益かどうか」だと、三上さんは語る。そこから応用をきかせていけば、それほど難しいものではない。今まで気遣いで悩むことが多かった方は、参考にしてみては。
三上ナナエさん プロフィール
新卒でOA機器販売会社での勤務を経て、ANAの客室乗務員へ。チーフパーサー、グループリーダー、OJTインストラクター、客室部門方針策定メンバーを経験。ANA退社後は、研修講師として活動。接客・接遇・コミュニケーション力向上研修など、官公庁や民間企業、大学など多数で採用され、受講者総数は2万人以上。年間100回以上の研修を担当。コミュニケーションに関わる著書を数点上梓しており、『その気遣い、むしろ無礼になってます!』(すばる舎)が最新の著作。
文/鈴木拓也(フリーライター)