「驚き、桃の木、山椒の木」という言葉をご存知だろうか。もしかしたら、若い世代にとっては耳馴染のないフレーズかもしれない。この言い回しは言葉遊びを用いた洒落の一つ。1970~1980年代の人気映画やアニメ作品から流行したものの、現在では見聞きする機会が少なくなってしまった、いわゆる死語でもある。
本記事では「驚き、桃の木、山椒の木」の意味と由来、江戸時代から続く言葉遊び「地口」について解説していく。語呂合わせから生まれた他の日本語の言い回しや、英語のフレーズも併せてチェックしてほしい。
驚き、桃の木、山椒の木とは?意味や由来
はじめに、「驚き、桃の木、山椒の木」の意味や由来を解説する。この言葉の流行のきっかけとなったのは、現在でも多くの人に愛されているあの映画作品だ。
大きな驚きを表す時に使う慣用句
「驚き、桃の木、山椒の木」は大きな驚きを表す時に使われる慣用句。「驚き」に続く「桃の木、山椒の木」には特に意味はなく、「驚き」の「き」の音に「木」をかけて、語呂が良くなるようにしたものだ。
由来ははっきりとしていない
「驚き、桃の木、山椒の木」という表現がいつから使われ始めたのかは、実ははっきりとは分かっていない。しかし、この言い回しが多くの人に広まるきっかけとなったのは、人気映画『男はつらいよ』シリーズとされている。主人公の”寅さん”こと車寅次郎が、作品中のセリフの中でこの表現を使ったことから、「驚き、桃の木、山椒の木」が世間に広まっていった。
また、1981年にテレビ放送が開始されたタツノコプロ制作のアニメーション作品『タイムボカンシリーズ ヤットデタマン』でも、「驚き、桃の木、山椒の木」の表現が頻繁に登場した。ヤットデタマンの登場シーンでは「驚き桃の木山椒の木、一気に時を渡りきり、ついに出た出た、やっと出た!地球のアイドル、ヤットデタマン」の口上がお決まりとなっていたほか、「驚き桃の木山椒の木、ブリキにタヌキに洗濯機、やって来い来い大巨神」のように、後に付け足す言葉を変えながら作品中で多用された。
言葉遊びを使った慣用句は他にもある
「驚き、桃の木、山椒の木」以外にも、言葉遊びから生まれた慣用句は多く存在する。ここからは言葉遊びから生まれたフレーズの例と、江戸時代から続く「地口」と呼ばれる言葉遊びの文化について紹介する。
江戸時代のダジャレ?「地口」文化
語尾の韻を踏んだり言葉のリズムを揃えたりする言葉の洒落は、古くから人々の間で親しまれている。「驚き、桃の木、山椒の木」のように、すでに存在する成句をもじる遊びは、江戸時代には「地口(じぐち)」と呼ばれ、当時の庶民の間で流行した。また、落語のオチとしても用いられることが多かったようだ。
地口という用語自体は今ではあまり聞かれなくなったが、現在でも「付け足し言葉」という名前で、子供から大人まで楽しめる言葉遊びの一つとして形を残している。
「驚き、桃の木、山椒の木」以外の言葉遊び
では、地口・付け足し言葉を用いたフレーズには、他にどのようなものがあるのだろうか。いくつか例を紹介しよう。
【地口、付け足し言葉を用いたフレーズの例】
・「あたり前田のクラッカー」(※「当たり前」と「前田のクラッカー」を組み合わせたもの)
・「会いに北野の天満宮」
・「ごめん、そうめん、ひやそうめん」
・「その手は桑名の焼き蛤」(※「その手は食わん」に三重県桑名の名産品、焼き蛤をかけたもの)
・「何か用か、九日十日」
韻を踏む言葉遊びは万国共通?
地口・付け足し言葉のような言葉遊びは、日本以外でも楽しまれている。最後に、英語圏における言葉遊びの文化や、フレーズの例を見ていこう。
英語圏にも韻を踏む文化がある
英語圏でも、日本語の地口や付け足し言葉によく似た言葉遊びは存在する。「驚き、桃の木、山椒の木」のように、単純に韻を踏んだりリズムを良くしたりする目的で、成句の後に特に意味のない言葉を付け足すような表現も数多い。このような言葉遊びは、幼児教育の一環として子供に楽しく言葉を覚えてもらうために使われることもあれば、大人が場を和ませるために洒落として用いることもある。
韻を踏んだ英語表現の例
実際に英語の付け足し言葉のフレーズにはどのようなものがあるのか、例をいくつか見ていこう。
・「Okie-dokie.」
「OK.」の意味で使われる言い回し。「dokie」の部分には特に意味はない。
・「easy-peasy」
「お茶の子さいさい」といったニュアンスで使われる。
・「See you later, alligator.」、「After a while, crocodile.」
別れの挨拶の韻を踏んだもの。「alligator」、「crocodile」はどちらもワニの呼称。
・「Good night, sleep tight」
親が子を寝かしつける時に使う、「おやすみ」を意味するフレーズ。
ここで紹介したフレーズはほんの一部に過ぎず、英語の日常会話では、言葉遊びを用いたイディオムがよく使われている。ちなみに、英語では付け足し言葉のことを「reduplicated phrase」、韻を踏むことを「rhyming」と言う点も覚えておこう。
文/oki