子どもは親を選んで生まれてくることができない。しかし、子どもの人生は親の影響を大きく受けるため、どのような親の元に生まれるかで人生の苦楽が決まる。そのような状況をうまく言い表す言葉として、若い世代を中心に流行しているのが「親ガチャ」という言葉だ。
本記事では、親ガチャの意味や言葉の由来、流行の背景、子どもに「親ガチャ ハズレ」と言われた場合の対処法などについて解説する。
親ガチャとは?
親ガチャの読みは「おやがちゃ」。自分では選ぶことのできない親や家庭環境を「ガチャ(クジ引き)」に例えて言う。
カプセルトイやソーシャルゲームが語源のインターネットスラング
「親ガチャ」の語源は、カプセルトイ(ガチャガチャ、ガシャポン)や、ソーシャルゲームのガチャ(クジ引き)だ。インターネット上で使われるスラング(隠語)では、日常生活で運の要素が大きいものを「○○ガチャ」と呼ぶ習慣があり、親ガチャ以外にも「上司ガチャ」「顔面ガチャ」など多くのバリエーションが見られる。
親ガチャランクとは
親ガチャには、親の年収・職業・学歴・家族との関係性などにより10段階程度のランクがあるとされる。上位からSSR(スペシャルスーパーレア)、SR(スーパーレア)、HR(ハイパーレア)、R(レア)、HN(ハイノーマル)、N(ノーマル)、B、C、D、Zとする説が有力だが、細かなランク分けには諸説あり、明確には定まっていない。
また、ランクよりも大まかな判断基準として「当たり(成功)」「ハズレ(失敗)」の二択や、同じくインターネットスラングで大失敗の意味に当たる「爆死」という言い方もある。
親ガチャとリセマラ
親ガチャとセットで聞くことの多い言葉の一つが「リセマラ」。ソーシャルゲームでは、ガチャの結果が悪いとリセットして何度もクジを引き直すことができる。自分の思い通りの結果が出るまで「ガチャ」と「リセット」を繰り返すことを「リセットマラソン(リセマラ)」と言い、ハズレが出てもリセマラすれば良いという安心材料の一つになっている。
ガチャとリセマラは、どちらもソーシャルゲーム由来の言葉であるため、親ガチャもリセマラと合わせて使われるが、もちろん現実はゲームのようにリセットすることはできない。あくまで仮定の表現として「親ガチャ失敗。リセマラできたらいいのに」等の使われ方をするケースが多い。
「親ガチャ」という言葉が流行るのはなぜ?
親ガチャは、2021年の「大辞泉が選ぶ新語大賞」で大賞を受賞、「ユーキャン新語・流行語大賞」ではトップテンの一つに選ばれた。支持される背景にはどのような理由があるのだろうか。
失われた30年による将来への「行き詰まり感」
日本の景気は「失われた30年」と呼ばれる長い低迷期にあり、給料の伸び悩みや非正規雇用の増加、終身雇用の崩壊などが現在も続いている。内閣府が2014年度に実施した世論調査によると、50年後の日本の未来を「明るいと思う」「どちらかといえば明るいと思う」とする回答が33.2%だったのに対し、「暗いと思う」「どちらかといえば暗いと思う」とする回答は60.0%に上った。未来に前向きなイメージを抱きにくく、学歴や年収などで一度差がつくと挽回は難しいとする考え方が根強いことが「親ガチャ」の流行を後押ししていると言える。
遺伝学や社会学が発達。年収や学歴も「生まれつき」
21世紀に入って遺伝学の研究が進み、知能や性格の多くは遺伝によって影響を受けるとする研究成果が発表された。身長・体重・容姿などの外見、スポーツや音楽の才能に加えて、近年では年収・離婚率・依存症などにも一定の影響があることがわかっている。
また、社会学の分野でも、裕福な家庭の子どもほど大学進学率が高いといった統計データや、虐待の連鎖(虐待を受けた子どもが成人し、自分の子どもを虐待するケース)などが報告されている。こうした事実を知った若い世代が、自分の人生は「生まれつき(=親)」で決まると考えても仕方がない一面もあるだろう。
SNSにより他者との比較が容易になった
親ガチャの「ランク」や、「当たり」「ハズレ」という概念は、自分と周囲を比較することによって生み出される。SNSが広まったために他人の生活や家庭環境が容易に可視化され、自分よりも恵まれた家庭に育った相手や、悲惨な環境で育った相手を知る機会が増えたことも「親ガチャ」という言葉の流行に一役買っているとみられる。
「親ガチャ」との付き合い方
親はもちろん子どもにとっても「親ガチャ」は不穏な感情を呼び起こす言葉だ。自分の周囲で耳にしたり、子どもから実際に言われたりした場合はどうすれば良いのだろうか。
子どもから「親ガチャにハズレた」と言われたら
思春期を迎えた子どもは、周囲との関係によって徐々に自分の世界を拡げ、アイデンティティを確立していく。親は万能でないと気づくのもこの頃だ。もしも自分の子どもが「親ガチャにハズレた」と考えているなら、これを機会に親子で対話をしてみよう。遺伝学や社会学が示すデータは科学的根拠と言えるが、人生は親や環境によって100パーセント決まるわけではないことも事実だ。まずは子どもの考えに耳を傾け、親自身の考えも伝えるなどして意見交換ができればベストだろう。
「親ガチャ」という言葉とどう向き合うか
親ガチャには「何事も生まれつき(=努力しても無意味)」という考え方を助長する危うさがある一方で、親と確執のある人や虐待サバイバーにとっては「家族はガチャ(=運)で、自分が悪いわけではない」という救いの要素も持っている。親子関係は家庭の数だけ存在しており、親ガチャという言葉に託す思いも人それぞれだ。さまざまな文脈で使われる「親ガチャ」に対して想像力を働かせるとともに、自分が親ガチャという言葉に出会ったときは、それを使う相手がどのような事情や意図を持っているのかについても考えを巡らせるようにしたい。
文/oki