連載/石野純也のガチレビュー
2012年まで発売され、いまだ根強い人気を誇る「G’zOne」に、新モデルが登場した。しかもスマホではなく、4Gに対応したフィーチャーフォンとしてだ。その端末が、「G’zOne TYPE-XX」。G’zOneシリーズの完成形とも言われていた「G’zOne TYPE-X」の直接的な後継機で、タフネス仕様をパワーアップしたうえで、その他の仕様も最新モデルへとアップデートさせている。デザインは、往年のG’zOneそのものだ。
一方で、G’zOneが発売されなくなったのは、人気がなかったからではない。カシオ計算機(NECカシオ)が携帯電話端末事業から撤退したためだ。この端末も、実際に生産しているのはカシオではなく、京セラになる。ただし、京セラが展開するタフネスモデルの「TORQUE」とは別物。KDDI主導でカシオのデザイナーに依頼し、外装からユーザーインターフェイスまでをG’zOne仕様に染め上げた1台になる。
KDDIは2022年3月に他社に先駆け、3Gを停波する予定だが、いまだに残るG’zOneユーザーはそれまでの間に機種変更をしなければならない。こうした根強いG’zOneファンを、G’zOne Type-XXで4Gに移行させていくのがKDDIの狙いの1つだ。では、このモデルはどこまで歴代モデルを再現できているのか。実機に触れ、その使い勝手をチェックした。
G’zOneの20周年企画として復活したフィーチャーフォンタイプのG’zOne TYPE-XX
G’zOne全盛期を彷彿とさせるギア感あふれるデザイン
まずはデザインから見ていこう。SF映画に出てきそうな車や宇宙船をほうふつとさせる曲線を組み合わせた外観からは、頑丈さが伝わってくる。直線的にスッキリまとめた昨今のスマホとは対極的なデザインと言えそうだ。閉じた時の本体中央部には、円形のサブディスプレイが搭載されており、時刻や着信、天気予報、温度といった情報を表示できる。閉じたままでもある程度の情報を確認できるのは、折りたたみケータイの強みだ。
頑丈さを強調する独特なデザイン。SFに出てくるメカのような趣もある
ディスプレイは円形。先代のG’zOne TYPE-Xで実現できていなかった仕様の1つだ
デザイン自体は、2010年に発売されたG’zOne TYPE-Xに近く、同モデルの象徴だったバンパーも搭載されている。ただし、G’zOne TYPE-Xはバンパーが本体下部に配置されていたのに対し、G’zOne TYPE-XXはヒンジ部に移されている。本体下部だと開閉の際に手に当たることがあるため、使い勝手を考えるとG’zOne TYPE-XXの方が合理的な配置と言えそうだ。
本体にはダクトのようなパーツが取りつけられているが、これが飾りではないのがおもしろい。KDDIによると、この穴から外気を取り込むことで、内部の温度センサーが温度を測定できる仕組みになっているという。もちろん、タフネスケータイということでデザインの演出的にこうしたパーツを取りつけている側面はあるとは思うが、ダミーではなく、実際に機能させている点はマニア心をくすぐる。
本体のダクトはダクト風ではなく、本当に外気を内部に取り込んでいるという
サイズは横幅が55mmで厚さは23mmと、タフネスケータイゆえにゴツさはあるものの、横幅がスリムなため、手に持った時にしっかりフィットする。この持ちやすさは、昨今のスマホにないケータイならではの感覚だ。開いた時のボタンは円形で、ここにもG’zOneのモチーフが生かされている。ボタン1つ1つが独立しているため、押し間違えが少なく、クリック感もしっかりしているため押しやすい。
厚みは少々あるが、G’zOneだと考えれば許容範囲。手にしっかりフィットする
底面にはカバーがあり、ネジのようなパーツでロックがかかっている。カバー自体が本体と密着するような仕組みになっているため、簡単には外れないが、これなら落下時に外れてしまう心配もなさそうだ。カバーの中にはバッテリーが内蔵されており、取り外すことができる。フィーチャーフォン時代には一般的な仕様だったが、バッテリー内蔵型のスマホに慣れてしまうと新鮮に見える。
充電用の端子もカバーでおおわれているが、むき出しになっていない方がG’zOneらしさがある。もちろん、端子はUSB Type-Cで、最新のスマホ用の充電器やケーブルをある程度使い回すことができる。こうした仕様が最新技術にアップデートされているのは、G’zOneを使い続けてきたユーザーにとってもうれしいポイントになりそうだ。
充電端子はUSB Type-C。カバーでしっかりおおわれている
ユーザーインターフェイスからもあふれ出るG’zOneらしさ
ユーザーインターフェイスも、カシオのデザイナーが手がけているという。開くとG’zOneの円形をモチーフにした待受画面が表示され、メニューには4×3のアイコンが並ぶおなじみのスタイルだ。OSはLinuxをカスタマイズしたもので、設定など、メニューの階層が深くなるとAndroidっぽさがにじみ出てくるが、方向キーやメニューキーで操作するお作法はフィーチャーフォンそのものと言えるだろう。
あくまでケータイのため、タッチパネルにも非対応。メニューのアイコンサイズが比較的大きいため、スマホに慣れているとついついタッチしてしまいたくなるが、画面に触れても一切反応はしない。キー操作が便利なのは、メールやカメラ、ブラウザといったアプリをワンタッチで起動できるところ。これはほかのケータイも同じだが、ロックを解除してアプリのアイコンをタップしなければならないスマホよりもスムーズに操作できる。
G’zOne TYPE-XXには「F1」と「F2」という2つのショートカットキーもあり、自分で好きな機能を割り当てることができる。初期状態では、F1が簡易ライトになっているところはG’zOneらしいポイントだが、必ずしもアウトドアユースがメインではない場合は、別のものに変更してもいいだろう。
G’zOneらしさは、着信音にも及んでいる。同モデルには約10年前のG’zOne TYPE-Xと同じ「Adventure」という着信音が内蔵されているほか、メモリ容量の関係で“ボツ”になったメロディも収録されたという。開閉時のサウンドなども、至るところでG’zOne仕様。視覚や触覚だけでなく、聴覚でもG’zOneらしさを体感でき、世界観をトータルで味わえる1台に仕上がっている印象を受ける。
アプリなどは限定されるが、スマホ的にも使える1台
Androidのスマホとは違いGoogle Playには非対応だが、auスマートパス経由でアプリのダウンロードは可能。「au助手席ナビ」や「auナビウォーク」「OfficeSuite」といったアプリはプリインストールされているため、ある程度ならスマホ的な使い方もできる。フィーチャーフォンだからと言って、電話やメールだけに使い方を限定する必要はない。
また、G’zOneならではのアプリも内蔵されている。「OUTDOOR APPS」がそれだ。OUTDOOR APPSはメニューの「アプリサービス」とは別に項目が立てられているG’zOne専用のツール。天気や気温、気圧や高度など、アウトドアのアクティビティに必要になりそうな情報はここに集約されている。変わったところでは、月の満ち欠けと潮位から魚量を予想するアプリも内蔵されている。
アウトドアユースに特化したOUTDOOR APPも内蔵。こうした独自機能はG’zOneらしい
ただし、ベースとなるOSやチップセットはスマホから流用されているため、4Gに対応しているのはもちろんのこと、Wi-Fiに接続して使ったり、テザリングでほかの端末をネットにつないだりといったことができる。ディスプレイサイズが小さいため、ブラウジングするには向かないが、Wi-Fiタブレットなどを持ち、G’zOne TYPE-XXで通信するといった使い方は可能だ。
テザリングもできる。これは以前のG’zOneになかった機能だ
一方で、G’zOne TYPE-Xに搭載されていたおサイフケータイは、非対応になる。代わりにコード決済のau PAYを利用することは可能だが、やはりFeliCaによる非接触決済の完全な代替にはならない。au PAYでは電車に乗れないし、店舗によっては買い物ができないケースも。フィーチャーフォン向けのFeliCa対応サービスが一部終了しているため、致し方ないところだが、おサイフケータイを使いたければ別の端末を併用する必要がある。
もっとも、これからもフィーチャーフォン、しかもG’zOneを使い続けたいユーザーにとって、FeliCaの有無は些細な問題かもしれない。むしろ、このデザイン、この形でG’zOneが20周年で復活したことにこそ意味がある。その完成度は非常に高く、すでにフィーチャーフォンの使用をやめ、スマホに移ってしまったユーザーも併用したくなる1台だと言えそうだ。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★★★
持ちやすさ ★★★★★
ディスプレイ性能 ★★★
UI ★★★★
撮影性能 ★★★
音楽性能 ★★★
連携&ネットワーク ★★★★
生体認証 ★★★
決済機能 ★★
バッテリーもち ★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。