とある日曜日、筆者が観ていたTVの情報番組にて、こんな話題が上っていた。それは「新型コロナの感染者が、なぜ激減したのか?」だ。
番組では、その理由を考察し、「ワクチンが効いてきた」という見解以外に、「TikTokのコロナ抜け毛体験の影響が大きいのでは?」と。
つまり、コロナ後遺症による抜け毛体験談により、10~20代が恐怖を感じ、人流を抑制できたのではないか? というわけ。
コロナ抜け毛は以前から指摘されていたが、その実情を知らない人がほとんどだろう。コロナ感染して、いつぐらいから抜け始めるのか? どれくらい抜けるのか? そもそも治るのか? 等々、わからないことだらけである。
そこで、コロナ抜け毛の治療も行っている薄毛治療の専門家、Dクリニック新宿の小山太郎先生にお話を伺ったので、詳しい内容を共有していきたい。
コロナ抜け毛とは急性の『休止期脱毛症』である
小山先生「私は普段、男性型脱毛症(AGA)という年齢に伴う男性の症状を診ています。
ただ、コロナが拡大してから“自分はコロナ抜け毛かもしれないから診てほしい”という患者さんが増えてきています。
まず、みなさんがコロナ抜け毛と呼んでいるのは、医学的には急性の『休止期脱毛症』だということを知っておいてください。
髪の毛のサイクルには『成長期』があり、次に『退行期』となって、その後『休止期』に入ります。
休止期は髪の成長がお休みしているわけではなく、死んでしまっている状態で抜け落ちることで、次の髪が生えてきます。
このように頭髪は『成長期』『退行期』『休止期』というサイクルをグルグルと繰り返し、今日はこっちで抜けて、明日はあっちで抜ける、という感じなのです。
髪の毛の10%くらいは休止期の毛ですね」
新型コロナでどうして髪が抜けるのか?
小山先生「ただ、新型コロナも含めてなのですが、大きな病気に罹ったり、ものすごい熱が出たとか、無理なダイエットにより短期間で急激に痩せたりすると、成長期だった髪の毛が、全部ではありませんが、一気に休止期に突入してしまうことがあるのです。
休止期に入った毛は2~3か月してから抜け始めます。新型コロナも、高熱が出てから2~3か月後に髪が抜けるという症状は同じです。
例えば、手ぐしで髪をかき上げるだけで、正常な抜け毛と明らかに違う量が抜けてしまうので、おかしいな? と気づかれるようです。
急性の休止期脱毛は、数か月程度続く場合もありますが、いずれは元の毛の量に回復することが多いです。
コロナによる休止期脱毛については、現時点ではわかっていないことが多いです。抜け毛が治まって、ある程度毛量が回復しても、以前の毛量からは見劣りする、という患者さんもいらっしゃいます」
「男性型脱毛症」と「休止期脱毛症」を見分けるコツ
先生が診た、コロナ抜け毛だと診断した患者さんは、どのような症状だったのかが知りたいところだ。
小山先生「私が“コロナ抜け毛”だと診断した患者さんで、印象深かった50歳の男性がいらっしゃいます。
新型コロナの感染から2か月で抜け毛が増加し、後頭部や側頭部含めて頭全体の毛がかなり抜けて“病気で髪の毛が抜けているのでは?”と周囲から心配されたそうです。
私が普段、話している男性型脱毛症は、生え際や頭頂部で薄毛が進行します。それ以外の部位は抜けにくい。例えていうなら、サザエさんのお父さんである波平さんの髪ですね。
一方、休止期脱毛症は、後頭部、側頭部も含め、全体的に抜けるのが特徴です。
また、抜けた毛の太さにも違いがあります。
男性型脱毛症では、長い年月をかけて毛が細くなっていきますが、コロナ抜け毛も含めた休止期脱毛症の抜け毛は、通常の太さのまま。今、生えている毛が急に抜け始めるので、太い毛も多く含まれます」
コロナ抜け毛に対して、どのような治療をしたのか?
男性型脱毛症の治療薬であるミノキシジルは、コロナ抜け毛(急性の休止期脱毛症)にもプラスに働くという。
小山先生「ミキシジルの効果は2つあって、1つは髪の毛の成長期を長くすること。成長している期間が長くなるから、抜けにくくなります。さらに、待っていれば本数も増えます。
そして、もう1つの効果は、休止期から成長期の移行。休止期で死んでいる毛でも、待っていれば新しい毛が生えてくるのですが、それを早める働きがあります。
早く毛が生えてくるので、コロナ抜け毛にとってもミノキシジルはメリットがあるといえますね」
抜け毛でクリニックを受診するメリットとは?
ここでひとつの疑問が。ミノキシジルはドラッグストアでも購入できるのだが、クリニックで受診するメリットは何なのだろう?
小山先生「抜け毛の原因は、男性型脱毛症やコロナ抜け毛以外にもあり、他の病気が存在する場合もあります。
ですが、抜け毛の原因が男性型脱毛症でもなくコロナ脱毛でもなく、他の病気が原因であることも考えられます。
皮膚科や薄毛治療専門のクリニックにて診察を受けることで、それを確認することができます」
コロナ抜け毛は放っておいても元の毛量に戻る可能性が高いと聞き、ホッとひと安心。だが、医師に診てもらうことで、そもそも本当にコロナ抜け毛なのかという判断や、治療の提案を受けられるのは心強いといえるだろう。
小山太郎(こやま・たろう)先生
医学博士。2001年3月 慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学の大学院で骨格筋の再生医療の研究、Brigham and Women’s Hospital(Harvard Medical School)で創傷治癒の遺伝子治療の研究に従事。2009年にDクリニック東京(旧 城西クリニック)に入職してからは、10年以上にわたり多くの診察を行い、AGA(薄毛)診療実績を積み上げてきた。2021年 Dクリニック新宿 院長就任。現在は診療の傍ら毛髪の研究に取り組んでおり、常に最新の知見に基づいた診療を心がけている。
Dクリニック新宿
https://www.dclinic-shinjuku.or.jp/
コロナ抜け毛相談窓口(男性用)
https://www.menshealth-tokyo.com/aga/covid-19/
取材・文/ウェルネス・ジャーナリスト 藤田麻弥
雑誌やWebにて美容や健康に関する記事を執筆。美容&医療セミナーの企画・コーディネート、化粧品のマーケティングや開発のアドバイス、広告のコピーも手がける。エビデンス(科学的根拠)のある情報を伝えるべく、医学や美容の学会を頻繁に聴講。著書に『すぐわかる! 今日からできる! 美肌スキンケア』(学研プラス)がある。