■連載/大森弘恵のアウトドアへGO!
雪の気配を感じる11月上旬、北海道・美深で“アウトドアシーズン最後の日”として集まる会がある。道北着地型観光プロモーション推進協議会、BASISによる「終り火」だ。
2015年よりはじまった「終り火」では、イマドキのアウトドアイベントのような音楽も物販もない。小説『羊をめぐる冒険』のロケーションモデルとも言われる道北の農場民宿「ファーム・イン・トント」前に集まり、焚き火を囲んでクラフトに明け暮れるのみ。ひたすら木のスプーンを作るイギリス発「スプーンフェス」に近いスタイルだ。
集まったのは北海道在住の人ばかりではない。噂を聞きつけ、3日間でのべ40名が全国からやってきた。なかには「終り火」の予習として、地元・神奈川のアウトドアショップでナイフの扱い方を習ってきたという人も。
クラフトの講師はネイチャークラフト作家の長野修平さん(中央)。人気ネイチャーガイドの辻亮太さんほかBASISスタッフがサポートし、ラム肉の伝道師“ラムバサダー”たちがスタッフ&参加者の胃袋を癒やしてくれる。
北海道・名寄「東洋肉店」代表の東澤壮晃さん、「インドアメリカン貿易商会」代表でスパイスハンターのシャンカール野口さん、東京・北参道「TERRA AUSTRALIS」の福田浩二さんらそうそうたる経歴を持つラムバサダーが手掛ける料理の数々は、ラム肉のロースト、カレー、羊骨スープのフォーなどラム尽くし。
夕食も朝食もラムが主役の料理が続くが、すべて風味が異なっているので決して飽きることがないのはさすがだ。
それにキャンプ泊ではあるが、食事のことを考えずにすむのはありがたい。
また、このあたりは北海道のなかでも寒さが厳しいエリアだ。冬も一足先に訪れる。
寒さに備え、フェールラーベンのジャケットとソレルの防寒ブーツを自由にレンタルできるのも「終り火」の魅力だろう。希望者にはテントや寝袋のレンタルも用意されており、参加者は1泊2日をクラフトに没頭できるというわけ。
丸太や薪からスプーンが生まれる快感
作るものは、スプーンでもバターナイフでも豆皿でもなんでもいい。
難易度の高いククサ作りは、あらかじめカップ部分が削られていて周辺を削って好みの形に整えるキットが用意されているが、それ以外はシラカバの板や太めの薪を選び、思い思いの形に削っていく。
アウトラインを描いて上下・左右から眺めてバランスよく、ナタで大まかな形を作る。
ナタを振り下ろしていくつもの薄いササクレ状のチップを作り、そのチップを切り取るようにナタを振り下ろすと、木の繊維と直角にも斜めにも削れる。ノコギリよりも楽に形を作れるのがおもしろい。
大まかな形ができたらナイフで形を整える。
スプーンや豆皿のくぼみは刃が丸まった「フックナイフ」を使い、少しずつ凹みを作っていく。
長野さんによると「焦らず少しずつ削っていけばいい」とアドバイスするが、ついつい力をいれすぎてしまう。力が入ると指が痛くなり、途中で挫けそうになるがときには長野さんの自家製ベーコンや焚き火コーヒー、おやつでリフレッシュ。心のままに削り続ける。
ナイフで削るばかりではない。小さな熾を木にのせて焦げた部分をスプーンなどで削り取る“焚き火彫り”は焚き火好きの心をつかむ彫り方だ。
狙い通りの形、深さにするのは難しいが、スプーンを作った後に挑戦してハマる人が続出した。
みんなが作った作品がこちら。
昼過ぎに集合し、翌日、適当な時間に帰宅する。一泊で完成できなければ持ち帰ってコツコツ作ればいい。
風もなく、最低気温は−3℃程度とあたたかかったが、それでも翌朝はテントも外に出していた道具もパリパリに凍っていた。
手がかじかんでしょうがない状況では厳しいが、焚き火を前に自分の道具を作っているとだんだん木のことがわかってくる。1泊では慌ただしく、完成できないこともあるだろう。かといって自宅では木くずの処理が大変なので、続きを作りたくてキャンプに行く日が待ち遠しく感じる。
そうやって自分だけの道具ができたときの感激はひとしお。多少不格好でもフィールドで使うのが楽しく、新しいギアを購入したとき以上にワクワクする。
次回の「終り火」は1年後の予定だが、BASISでは美深駅横のクラフト館でククサやカトラリー、雪板作りなどクラフト体験を常時開催している。道北旅の目的地に選べば、 “自分が使う道具を自分の手で作る”そのおもしろさに触れるいい機会だ。
【問】BASIS
PHOTO/森口鉄郎、一部大森弘恵
取材・文/大森弘恵