■連載/大森弘恵のアウトドアへGO!
北海道「沼田町まるごと自然体験プロジェクト」でネイチャークラフト作家の長野修平さんを迎え、「グリーンウッドワークと焚き火料理」のワークショップが開催された。
「沼田町まるごと自然体験プロジェクト」は、同町の「ほろしんの森」を利用していろいろな資源を結びつけ、新しい産業を創出すること目的としており、これまで雨でも潰れないダンボールテント作り、木育イベント、サウナ体験などを行ってきた。
「グリーンウッドワークと焚き火料理」もその一環だ。
手仕事の楽しさに触れるグリーンウッドワーク
グリーンウッドワークとは間伐など伐採したばかりの木をナイフやオノなど伝統的な手工具で削り、身近な道具に作り変える木工のこと。
伐ったばかりの木はみずみずしく、手工具に不慣れで力のいれ方がわからない初心者でも削りやすい。もちろん木工の熟練者たちであればそのやわらかさ、削りやすさに感激する。ファンが増加している木工スタイルだ。
今回のワークショップでは、ほろしんの森で伐ったシラカバを用意し、参加者が自ら必要な長さに切り出し、毎日の生活で使うためのスプーンやおたま、バターナイフなどを作るというもの。手慣れた人は午前中のワークショップで完成するし、大作に挑む人や不慣れな人は家に持ち帰り、満足行くまで削り、仕上げる。
親子で協力してスプーン作り。はじめてとは思えない完成度の高い道具になっている
片側のハンドルを丸太に固定し、テコの原理で楽に削れるモーラナイフ「ウッドスプリッティング クラシック」など珍しい道具を手にできるのもこのワークショップの魅力
“何時までに仕上げなくてはいけない”“設計図どおり作らなくてはいけない”という決まり事はなく、講師の長野さんは道具の使い方やデザインの相談にのる程度。
木の繊維を考えながら思い通りに削るという自由度の高いワークショップだ。
合間にいただくのは「焚き火コーヒー」と呼ばれるレンメルコーヒー。パーコレーターやドリップとは一味違う深い味わいが楽しい。
完成したキッチンツールは薄く油を塗ってから使用すれば色素がつきにくいとのこと。使っているうちに気になるところがうまれたら、また少し削って調整すればよく、できあいのツールよりも愛着をもてるのがうれしい。
沼田町の自然が詰まった「沼田羊」
午後の焚き火料理では、特産品であるトマトの絞りカスと米ぬかで育てた「沼田羊」がテーマ。
ほろしんの森生まれのシラカバ丸太を組んだキッチンテーブルで沼田羊を部位ごとに切り分け、サウナストーンとしても優秀な沼田町産玄武岩の炉で調理するという、沼田町の自然をとことん利用する1日だ。
ラムモモ・骨付きバラの直火ロースト、ラムすね肉のアイスバイン、ラムロース・モモ・バラの串炙りジンギスカン、ラムラックシャンデリアロースト、羊骨ラーメン、スエットチャーハンという全6品。骨や筋まで無駄にせずまるごと一匹をいただくフルコースとなっている。
これだけの部位を一気に食べ比べる機会はそうそうない。
ラムラックで輪を作り、焚き火で炙る「ラムラックシャンデリアロースト」は、最後にクマザサの茎を差し込み炎で内側を炙る。豪快かつエンターテイメント性の高い料理だ。奥は鉄鍋でじっくり炙る「ラムモモ・骨付きバラの直火ロースト」。
部位による味の違いを実感する「ラムロース・モモ・バラの串炙りジンギスカン」。同じモモでも内モモはサッと炙ってやわらかめに、外モモは厚めのものを焼くと旨味の濃さを感じる。バラは縁がカリッと焦げ目がつくまで炙ると脂のうまみが口いっぱいに広がる。
自分で串にさして焚き火にかざすので、焚き火の熱の使い方を知るにもちょうどいい。
この日は積丹町で昆布をおやつとする「積丹羊」の生産者が来場。トマトと米ぬかで育てた「沼田羊」と「積丹羊」の食べ比べが行われた。
トマトで育った「沼田羊」と昆布で育った「積丹羊」。
もともとは同じ種類なのだが、草だけだと臭みが強く、トマトや昆布を使うことで臭みがなく、肉質もやわらかくなるのだという。
食べ比べてみると旨味の質が明らかに違っており、沼田羊はさっぱりした大人の味で、積丹羊は焼くことでふんわり海の香が広まるのがおもしろい。
同じ地域で同じ品種を育てても、飼料を変えて2か月もたてば肉の味がガラリと変わるそうで、牧場ごとに味わいの違う羊肉を作ることができるのだ。
沼田の自然がぎっしり詰まった沼田羊は、まだ実験段階で新しい特産品になるべく第一歩を踏み出したばかり。今後、沼田町のイベントを通して広めていくという。
沼田町では特産品のトマトを使ってジュースを作っており、毎日大量の絞りカスが生まれる。これを利用した新しい特産、沼田羊が軌道に乗れば言うことはない。さらに近隣の町でもそれぞれが新しい味の羊肉を作るようになると食べ比べのために羊肉ファンがこのエリアを訪れるし、それぞれの自然への興味も湧く。日本では羊肉はまだまだマイナーな食材だが、だからこそ伸びしろは十分ある。
取材・文/大森弘恵