メニューの写真がおいしそうだから注文したものの、実際に出てきた食べ物はメニューと全然違った……
そんな経験がある方も、かなりたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、飲食店で提供される料理の実物が、メニューと全然違った場合について、法律上の問題点や対処法を検討してみたいと思います。
1. メニューと全然違う料理を出すのは詐欺?
メニューと全然違う料理が出てきたら、「詐欺だ!」という第一感を持つ方もいらっしゃるかと思います。
しかし、法律上の「詐欺」「詐欺罪」に該当するかと言われると、結論としてその可能性は低いと言わざるを得ません。
法的には、「詐欺」には「民法上の詐欺」と「刑法上の詐欺罪」の2つがありますので、それぞれについて該当性を検討してみましょう。
1-1. 民法上の「詐欺」に当たるか?
民法上の詐欺は、他人を騙して契約を締結させた際に成立します。
騙された側は、契約を取り消すことが可能です(民法96条1項)。
実物とは全然違うメニューを示すことで客を騙して、その料理を注文させた場合、客観的には民法上の「詐欺」に当たります。
しかし、店側に「騙す意思」があったことが民法上の「詐欺」の成立要件であるところ、客側が店側の「騙す意思」を証明することは難しいケースが多いでしょう。
1-2. 刑法上の「詐欺罪」に当たるか?
刑法上の「詐欺罪」は、他人を騙して財物(お金など)を交付させた場合に成立します(刑法246条1項)。
民法上の「詐欺」とは異なり、「財物の交付」のみに焦点が当てられている点が、刑法上の「詐欺罪」の特徴です。
刑法上の「詐欺罪」については、代金が後払い式か先払い式かによって、問題状況が異なります。
①代金が後払い式の場合
退店時に代金を支払う後払い式の場合、料理が提供された時点では、まだ客は代金を支払っていません。
客が代金を支払うとしても、それはメニューと料理が全然違うことを確認した後ですので、「店がメニューで客を騙してお金を払わせた」とはいえません。
したがって、詐欺罪が成立する余地はないと考えられます。
②代金が先払い式の場合
券売機で料金を支払うなどの先払い式の場合、メニューだけを見て代金を支払うことになりますので、「店がメニューで客を騙してお金を払わせた」という状況は成立する余地があります。
しかし、民法上の詐欺と同様に、店側が「騙す意思」を持っていたことを証明するのは困難なケースが多いでしょう。
2. メニューと全然違う料理が出てきたら、代金を支払わなくてよい?
メニューと全然違う料理ができた場合、「債務不履行」に基づき、店側に返金を請求できる可能性があります。
2-1. 店が再提供を拒否した場合、代金を支払わなくてよい
「債務不履行」とは、契約で定められた債務につき、「本旨に従った」履行をしないことを意味します(民法415条1項)。
飲食店でメニューを見て料理を注文する場合、メニューと「同じ」料理を提供することが、「本旨に従った」債務の履行であると考えられます。
したがって、メニューとは別物の料理が提供された場合には、債務不履行に該当します。
この場合、客は店側に対して、メニューと「同じ」料理を提供し直すように請求することが可能です。
それを店側が拒否した場合には、客は料理提供の契約を解除することで、代金の支払義務を免れます(民法542条1項2号)。
また、先払いで代金を支払っていた場合には、返金を請求できます。
2-2. 多少の脚色はやむを得ない
ただし、飲食店のメニューは広告宣伝の意味合いを有するため、実物に比べて若干脚色された程度であれば、メニューと料理の実物は「同じ」と評価すべきでしょう。
どの程度の差があれば「別物」になるかは、ケースバイケースで判断するしかありませんが、一般常識に照らして「誰が見ても別物」と判断できるかどうかが、一つの基準となります。
2-3. 食べてしまったら代金を支払うべき?
メニューと料理の実物が全く別物でも、その料理を食べてしまったら、原則として客が店側による債務の履行を承認したことになるため、代金を支払わなければなりません。
ただし、ある程度食べ進めなければ、「別物」であることがわからないようなケースもあるかもしれません。
(例)「あんまん」を注文して、何口か食べたところ、実は「肉まん」であることがわかった
この場合は、料理を食べてからでも代金の支払いを免れ、または返金を請求できる可能性があります。
3. 過度に脚色することは景品表示法違反の疑いがある
詐欺や返金などの問題とは別に、料理の実物とは全く異なる画像をメニューに掲載することは、景品表示法5条1号で禁止されている「優良誤認表示」に該当する可能性があります。
「優良誤認表示」とは、商品やサービスにつき、実物よりも著しく優良であることなどを示して、一般消費者を誤導する表示を言います。
客の食欲をそそる魅力的なメニュー画像を示しておきながら、実際の料理はそれに遠く及ばないという場合には、優良誤認表示として違法となる可能性があるのです。
もしメニューと料理の実物が全く違うという店に遭遇したら、消費者庁に通報することも検討しましょう。
参考:
申出・問合せ窓口|消費者庁
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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