国土交通省利根川上流河川事務所のホームページによると、利根川は関東屈指の河川であり、日本の川の長男として(坂東)太郎の名が付いたといいます。そんな利根川に、とても気持ちのいい渡船が運航しています。
飛び地が生まれた背景
その名は「小堀の渡し」。と書くと「こぼり」と呼んでしまいそうですが、実は「おおほり」と読むのが正解。茨城県取手市が運航する市営の渡し船で、小堀~取手緑地運動公園駐車場前~取手ふれあい桟橋の3か所を周回しています。
ルートを確認すると、小堀は川の対岸にあるので、県境を越えて千葉県我孫子市かと思ってしまいますが、よく地図を確認すると飛び地であることがわかります。
これはかつて利根川が大きく蛇行し、水害が絶えなかったため明治から大正時代にかけて大がかりな改修工事を行ない、現在の直線的な流れに変えたことが原因です。
結果、小堀地区と取手の中心部は利根川で分断されたため、大正3年から渡し船を運航。これが今に受け継がれているわけです。
一般客への開放は1996(平成8)年から
小堀の渡しの運航当初は、地元住民の大切な足として使われていました。1952(昭和27)年に木船の「さくら丸」が就航すると、1967(昭和42)年に町営化され、1972(昭和47)年には鉄船の「初代とりで」。以後、1989(平成元)年に「2代目とりで」、2021(令和2)年に現在の「3代目とりで」が就航しています。
ちなみに現在の3代目のとりで号のデザインは、東京藝術大学美術学部長の日比野克彦氏がデザインしたものだそうです。
あまり船が行きかうことのない利根川では、小さいながらもなかなか目立つ存在です。
大河のど真ん中を悠々と
筆者が乗船したのは、常磐線の鉄橋にほど近いふれあい桟橋前から。
まずは新型コロナ対策で消毒。そして乗船名簿への記帳。そしてライフジャケットの装備。出発時間になると、船頭さんの「船が出るぞー」の合図が出て、滑るように進むと鉄橋を見ながらUターン。川下へと進む。
快晴無風だったので川面は鏡のようで、河川敷の木々がきれいに映りこんでいる。もちろん揺れなど一切なし。気持ちよいことこの上なし!
船の後部にあるベンチ、操舵室後ろの客室、客室上部のフライングデッキ。3か所をウロウロしながら周囲の景色を楽しんでいると、13分ほどで対岸の小堀に到着。
桟橋のすぐ近くの丘にはテーブルとベンチが備えられ、「ここからの景色は最高ですよ」と船頭さん。次の出航まで15分ほどあるので、なかなかニクイ演出だ。
自転車も原付バイクもOK
この日は見なかったが、実はこの船には自転車や車椅子、原付までのバイクを乗せることができる。しかも追加料金なし。かつて通勤通学で持ち込む人がいたというが、最近はロードツーリングを楽しむサイクリストがいるとか。
また、ふれあい桟橋近くには市営の利根川サイクルステーション(土日祝日のみ営業)があるので、ここで借りた自転車(無料)を船に乗せ、自転車と船の旅を楽しむなんてこともできます。
船頭さんオススメの景色
小堀の渡しの乗船運賃は1運航航路あたり200円ですが、1周(3区間)してもわずか400円。各区間の運行時間は6~13分と短いものの、途中でゆったり休憩があるので1周すると約50分。
江戸川の矢切の渡しのような知名度はないけれど、のーんびり乗ることができて、景色も最高。大きな川を独り占めしているような贅沢感も特筆ものでしょう。
ちなみに、船頭さんはどのような景色が好きなのか尋ねたところ、こんな話をしてくれました。
(良く晴れていて雲が点在している時)
川面に青空と雲が映りこみ、それはもう、大自然独り占め!
(少し暗めの雨の日)
水墨画のような景色が広がります。
ちょっとお出かけして乗ってみませんか?
参考までに小堀以外の桟橋近くには、無料の駐車場があります。船の運航条件や時刻表などについては、以下を参考にしてください。
取材協力:取手市
取材・文/西内義雄
医療・保健ジャーナリスト。専門は病気の予防などの保健分野。東京大学医療政策人材養成講座/東京大学公共政策大学院医療政策・教育ユニット、医療政策実践コミュニティ修了生。高知県観光特使。飛行機マニアでもある。JGC&SFC会員