新型コロナウイルス(COVID‑19)の流行により「パンデミック」「クラスター」「PCR検査」など、今まで馴染みのなかった多くの感染症疫学用語が身近なものとなった。これらのメジャーな用語と比較すると「エピデミック」はやや知名度がやや落ちるが、語感の似ている「パンデミック」と同様に感染症の流行レベルを表す言葉だ。
2020年3月11日、世界保健機構(WHO)は新型コロナウイルスのパンデミックを宣言した。それから1年8ヶ月が経過した2021年12月現在も、新型コロナウイルスは複数の変異株の発生もあり、収束の兆しを見せていない。未曾有の感染症を正しく理解し、適切に対処するためにも感染症に関わる用語をチェックしておこう。
エピデミックの意味は「流行(病)」
英語のエピデミック(epidemic)は「(病気などが)流行性の」「(世間で)流行している、はやりの」という意味の形容詞。また、名詞として使う場合は「流行(伝染)病の発生、蔓延」「(事件など良くないものの)多発、流行、はやり」の意味となる。語源は、epi(~の上に)+demos(一般大衆)で「大衆の上で流行るもの」。
エピデミックは感染症が流行段階にあることを示す言葉
感染症疫学において「エピデミック」は、ある病気が通常の範囲を越えて流行している状態を指す。例えば日本のインフルエンザは、ほぼ毎年、秋から冬にかけて感染者数が増え、春に向けて収束していく。冬の流行は日本国内でインフルエンザがエピデミックを起こしている状態と言える。
「エピデミック」と「パンデミック」「エンデミック」の違いは?
エピデミック=感染症の流行という定義を知ると、パンデミックとはどのように違うのか気になるはず。米国疾病予防管理センター(CDC)が発行する『Principles of Epidemiology in Public Health Practice(公衆衛生の実践における 疫学原則)』では、感染症の流行レベルを「エンデミック」「エピデミック」「パンデミック」の3段階に分類している。
エンデミックとは、特定の地域や集団の中で日常的に見られる感染症の流行を指す。別名を風土病とも言い、アフリカのマラリアが代表例だ。エピデミックは、局地的な流行を越えて予想されるレベル以上に感染症例数が増える状態を言う。パンデミックは、このエピデミックが世界各地で同時多発的に起きている状態を指す。
新型コロナウイルス以前も、WHOは2009年に新型インフルエンザ(H1N1)でパンデミックを宣言している。グローバル化により人と物の流れが活発化している現代は、局地的なエピデミックがまたたく間に世界規模のパンデミックへと移行しやすい。各国のロックダウンや渡航制限などの施策は、国内の感染拡大を防ぐと同時に、パンデミック段階にある感染症をエピデミック(さらにはその先のエンデミック)にまで収束させる狙いもある。
エピデミックがタイトルになっている作品やサービス
エピデミックには「流行病」のほかに「はやり・流行」などの意味もある。前者はもちろん後者の意味で「エピデミック」が入っている作品やサービスも少なくない。
川端裕人『エピデミック』
東京からほど近い海辺の町で突如発生した、謎の感染症に国立集団感染予防管理センターの疫学者が挑む医療ミステリー。タイトル通り感染症の拡大とそれに伴うパニックがテーマとなっており、読み進めるうちに感染源の特定や封じ込めといった感染症疫学の知識が自然と身に付く。作者は豊富な科学知識をベースにロケット製作や気象予報など様々な科学小説を書いており、専門知識をわかりやすく描写する手腕に定評がある。初刊行は2007年だが、新型コロナウイルスのパンデミックを予言するような描写も多く、再評価する声が高い。
ユーチューバー御用達の音楽素材サイト「エピデミック・サウンド」
感染症との関連性はないが、映像を製作している人であれば「エピデミック」と聞いて最初にこちらをイメージする人も少なくないだろう。
エピデミック・サウンドは、放送関係者やユーチューバーの間で知名度が高い音楽サブスクリプションサービス。完全ロイヤリティフリーの楽曲35,000以上、効果音90,000以上を扱う。企業はもちろん個人でも利用可能で、料金は月額12~15ドル(USD)からと手頃だ。
文/oki