激変するアフターコロナのビジネス界。生き残るための方法は?
コロナの感染拡大は収束を見せ始めているが、コロナによって始まったビジネスモデルのパラダイムシフトは加速するばかり。
「どうしたら、これからの激変する社会で生き残れるのか」
「そもそも自分はいったい、どのように生きたいのか」
これまで依って立っていた常識が覆り、進むべき道を見失っているビジネスマンに、ヒントを与えてくれるかもしれないツールがある。大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が高校時代につけていたという目標達成のための「マンダラチャート」だ。
「マンダラチャート」を使って夢をかなえた大谷選手
「マンダラチャート」とは、大谷選手が目標達成のために高校1年から書いていたもの。有名なので、ご覧になったことがある方も多いだろう。
強い目標(夢)を中心に置き、周囲に分野ごとの目標を置き、その周囲に実現化するために必要な具体的な行動を書き込んでいくシートだ。
高校時代の大谷選手の「強い目標(夢)」はもちろん、「8球団からドラフト1位指名を得る」ということ。その目標をかなえるため必要な要素と、それぞれに必要な具体的な行動を記入し、すべてを実践することで、夢をかなえた。
大谷選手が使用した「マンダラチャート」は1979年に、経営コンサルティングを行う株式会社クローバ経営研究所の代表・松村寧雄氏により考案されたフレームワーク。「目標達成」、「問題解決」、「思考整理」、「情報整理」等、様々な分野で利用できることが大きな特長で、現在ではこのマンダラチャートを元にして、様々な企業が独自のアレンジ等を施したフレームワークや手法も広がりつつある。原点となっているのは、すべての「点」が相互に影響し合っているという仏教の考え方や教えを表現した「密教曼荼羅図」で、そのため「マンダラチャート」とも呼ばれている。
「密教曼荼羅図」と同じように、中心核を持つ3×3のフレームで構成され、解決したい問題・目標・プロジェクトなどと、それをかなえるために必要な要件、やるべきことの関係性が一目で明確に把握できる。
理論的に自己発見・自己開発を叶える「SELFing(セルフィング)シート」
このマンダラチャートをもとにクローバ経営研究所と共同で、「なりたい自分」を明確にし、実現するためのツール「SELFing(セルフィング)シート」を開発したのが、教育・人材・介護・美容・スポーツ・IT事業などを幅広く展開しているヒューマンホールディングス(東京・新宿区)だ。
同社が提唱する「SELFingシート」の最大の特色は、人生を通して「なりたい自分」になることを目的としているため、中心核を「人生目標」とし、その人生目標を達成させるための8項目を「健康」「仕事」「経済」「家庭」「社会」「人格」「学習」「遊び」に設定していること。それぞれが人生における重要度順に並べられているので、順番に沿って枠を埋めていくことで、自分の人生における要素の優先順位も再確認できる。つまり、人生の設計図のようなものが完成する。
▲SELFingシートのひとつ、「人生目標シート」。中央に人生の目標を書き、AからFまで順を追って8枠を埋めることで完成させる
なぜ同社は、こうしたツールを開発したのか。
「私たちは誰もが自分らしい生き方を実現することを目指して、『人を育てる』事業と、『人を社会に送り出す』事業を幅広く展開しています。『SELFing』とは自分をつくり上げていく『セルフマネジメント』と終わりがないという『ing』を組み合わせた造語であり、『SELFing』は、私たちからすべてのステークホルダーへ提供する価値です。『SELFingシート』は、“なりたい自分”を明確化し、そこにたどりつくための道筋をつけて理想の自分を確立していくためのツールなのです」(ヒューマンホールディングス)
ヒューマングループでは全社員がSELFingシート作成をし、シートを活用した上司との1 on 1セッションを実施しているという。確かに「人生の目標」と、そのための行動計画を整理して上司と共有しておけば、仕事への取り組み方もスムーズになるかもしれない。いわばPDCA( Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)」の可視化ツールといったところだろうか。また、今後はSELFingのコーチングを実施できる「SELFingコーチ」の社員向け認定試験を予定しているそうだ。
編集ライター歴20数年の筆者も、記入してみた
筆者は編集ライター歴20数年になるが、周りを見渡すと同年代のライターが目に見えて減っている。長年の出版不況で紙媒体がどんどん減っていたのに加え、コロナ禍で取材ものの仕事が激減。ライターを続けるための副業が、次第にメインになってしまっている同業者が少なくない。
自分の場合、今のところなんとか仕事はいただけているが、依頼が皆無になるリスクは常にあり、不安だけが日々膨らんでいた。そこでこのSELFingシートにチャレンジしてみた。
人生目標と、それに必要な8つの要素を埋めるだけ
では、実際にそのやり方を見てみよう。といっても、非常にシンプル。まず9マスの中央に、「人生の目標」を記入する。次に、AからHの順番で、マスを埋めていくだけだ。
各項目の書き方のコツは、「グ・タ・イ・テ・キ・ニ」とおぼえておくといいとのこと。
グ:具体的に
タ:達成可能な
イ:意欲が持てる
テ:定量的(数値)で
キ:記録し、期日を決める
ニ:日課にする
また「あり方」(タイトル)→「やり方」(本文)の順に考えることも、コツだという。
実際の「SELFingシート」を見せてもらった
まだイメージがわかないので、特別にお願いして、社員の方のSELFingシートを見せてもらった。
◎Aさん…人生目標は「周りに優しくする能力がある人間」
このSELFingシートに対するコーチのコメントは、「関心を高く持っている事項が多くあり、ワーク・ライフ・バランスを保つ意欲が高いと思われる」。「健康」「学習」「家庭」「遊び」のコマは具体的な目標数値が設定されていて、実行しやすそう。
◎Bさん…人生目標は「社会へ貢献し人にやさしくなる」
Aさんに比べると具体的な数値の目標がない分、どう行動すればいいのかにあまり結びつかない印象…。コーチからも「例えば、睡眠時間は1日8時間確保する」「野菜中心の食事を心がけ、炭水化物は1食あたり60%にする」など、定量目標も追加できるとより行動指針にしやすくなる」というアドバイスが。
◎Cさん…人生目標は「子どもが自立できるようサポートし、夫・親・兄・親戚・友人と手助け合う」
人とのコミュニケーションを大事にしていることが伝わってくる内容。ただこちらも「各項目に定量目標や期限を設定するとより進捗管理がしやすくなる」とコーチからのアドバイス。
3例を見て、最初に「こうありたい」と思い描く状態を置き、次に「そうなるためのやり方」を、具体的な数字をはっきりと書くことが大事なのだとわかった。
「人生目標」といわれても…
書き方のコツはわかったが、自分でもやってみようと思うと、最初に記入する「人生目標」で考え込んでしまった。一生、社会に必要とされる人材でありたいと思う気持ちはあるが、果たしてそれが自分にとって一番大事なことかというと、そうでもないような…。
ちなみに同社の「SELFingシート」には仕事における目標を管理するための「3年後の自分(目標)シート」というのもあるという。「人生目標シート」と紐づけた内容にすることで、本来の「なりたい自分」から乖離することなく、より具体的なプランが描けるとのこと。
「3年後の目標シート」の場合、周囲に置くキーワードは、目標達成のために重要だと思うことを、優先順位の高い順に自由に設定する。なんだかこちらのほうが書きやすいような気がするので、こちらから書くことにした。
「3年後の目標シート」で見えてきた、自分の不安の本質
「3年後の目標」もすぐに思いつかなかったので、まず、大切にしたいキーワードを考え、その優先順位を決めた。「健康」「仕事」「経済」「家庭」「学習」「住まい」「社会活動」「楽しむ」・・・人生で大切にしたいキーワードを選ぶだけでも、なんとなく自分が求めている方向が見えてきた気がする。
そして、「仕事の発注が無くなるかも…」という不安は、「生きがいがなくなる」「収入がなくなる」という2つの不安からできていて、それぞれ「発表の場を自分で作る」「消費を縮小する」という方法で、ある程度は乗り切れるということにも気づいた。さらに「前に進むために、学習し続けたい」という欲求が、自分にとって優先順位が意外に高いことにも気づき、
「もしかしたら自分の人生目標は、“一生、成長し続けること”なのかもしれない」
と気がついた。どんなに時代が変わっても、自分が成長し続けてさえいれば、その変化を楽しめる余裕を持てる。そしてライターとしても発信し続けられる。それこそが、自分が望んでいる人生のような気がする。
SELFingシートのメリットのひとつに、「人生目標(中心核)を設定できていなくても、人生8大要素の目標を設定していくことで人生目標を見つけることもでき、なりたい自分像が必然的に見えてくる」という項目があり、深く納得した。
ちなみにこのSELFingシートは、
●よく目に触れる場所に置き、常に意識する
●定期的に振り返る日を決める
ことも大事だそうだ。
なんとなく将来が不安、でも今何をしたらいいかわからないという人は、試しにこのシートを記入してみてはいかがだろうか。霧に包まれていたような未来が、くっきりと見えてくるかもしれない。
取材・文/桑原恵美子
取材協力/ヒューマンホールディングス(https://www.athuman.com/)
編集/inox.