所得税は、1年間に得た所得に対して課される税金だが、その課税方法には2つの制度が存在することをご存知だろうか。所得が会社からの給与のみの場合は、税額計算が比較的容易なケースがほとんどだが、特殊な所得が発生したときなど、課税方法を理解しておくと役立つシーンもあるはずだ。
そこで本記事では、所得税の計算における「総合課税」と「分離課税」の概要と、分離課税の対象となる所得についてわかりやすく解説する。なぜ2つの方法が採用されているのかに着目すると、制度についての理解が深まるはずだ。
所得税には2つの課税方法がある
所得税の課税方法には「総合課税」と「分離課税」の2つが存在し、所得の内容によって分類されている。まずは、各課税方法の概要と両者の違いを確認しておこう。
総合課税
総合課税は、さまざまな所得を合計して所得税額を計算する課税方法。総合課税の対象となる所得の合計(所得金額)から、各種控除を差し引いた金額に税率をかけて所得税額を算出する。
税率には、課税所得が多いほど高くなる「累進課税方式」が採用されており、7段階に区分されている。最低税率は1,000円から1,949,000円までの5%、最高税率は4000万円以上の45%で、所得金額に応じて控除額も高くなる設定だ。
総合課税の対象となる所得としては、配当所得・不動産所得・山林所得・給与所得・事業所得・一時所得・雑所得などが挙げられる。
申告分離課税
申告分離課税とは、特定の所得について独自の税率をかけて所得税を算出する課税方式。総合課税の計算に加えてしまうと、著しく税負担が重くなってしまうような所得について、独自の税率を用いることで負担を軽減させる仕組みだ。申告分離課税の場合、確定申告を行う必要がある。
源泉分離課税との違いは?
源泉分離課税とは、いわば分離課税の特例とも言える課税制度。税額計算において、他の所得と完全に分離し、その所得を支払う者が、あらかじめ源泉徴収により所得税を納めることで完結する。つまり、源泉分離課税の対象となる所得については、確定申告が不要となる。預貯金の利子所得などが源泉分離課税の対象。
申告分離課税の対象となる所得は?
では、どのような所得が申告分離課税とされているのだろうか。ここでは、申告分離課税の対象となる所得を紹介する。課税方法や申告の有無を、自ら選択できる所得もあるため、詳細については国税庁の公式サイトを確認してほしい。
退職所得
退職時に受け取る退職金や一時金などの所得は、申告分離課税の対象となる。退職金は報償的な意味合いが強く、老後の生活資金として重要であることから、分離課税により税負担の軽減が図られている。
退職所得の金額は、原則として「(収入金額(源泉徴収前の金額)-退職所得控除額)×1/2」によって計算される。退職所得控除額は、勤続年数が20年以下の場合は「40万円×勤続年数(80万円に満たないときは80万円)」、20年超の場合は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」となる。
配当所得
配当所得とは、株式の配当金や投資信託の収益分配金などによる所得のこと。一般的に、配当所得は総合課税の対象となるが、一定の場合には申告分離課税を選択することが可能。配当所得の金額は、収入金額(源泉徴収額差し引き前の金額)から、株式等を取得するための借入金の利子を差し引いて計算される。
配当所得を原則どおり総合課税とする場合は、一定のものを除いて「配当控除」の適用を受けることができる。
山林所得
山林所得とは、山林を伐採して譲渡した場合、もしくは立木のまま譲渡した場合に得た所得のこと。山林所得の金額は、原則として「総収入金額-必要経費-特別控除額(最高50万円)」により求めることができる。
また、税額の計算では、所得税の負担軽減を目的として「分離5分5乗課税方式」が採用されている。「課税山林所得金額×1/5×税率×5」という計算式が用いられ、当該方式の適用がない場合に比べ、税額が安くなる仕組みだ。
なお、山林を取得してから5年以内に伐採・譲渡した場合は、事業所得または雑所得に分類される。また、土地を含めた山林全体を譲渡する場合は、譲渡所得となる。
譲渡所得
譲渡所得は、資産を譲渡した場合に得た所得のこと。譲渡所得のうち、分離課税の対象となるのは、土地や建物、株式などを売却して得た収入で、事業用資産や山林などは含まれない。譲渡所得金額の原則的な計算方法は「収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額」だが、売却した資産の内容により異なる場合がある。
文/oki