■連載/Licaxxxの読書×鑑賞文【第6回】短いけどしっかりヒヤッとするSF作品を紹介
早いけれど年末年始のお供にも
今回の読書×鑑賞文は、短いけどしっかりヒヤッとするSFを紹介。
この連載、幅を持たせて設定したつもりが生活と密着しているがゆえにどうしてもSF方面に偏りがちなのです。観る映画も読む本も、やっぱりSFばかりなので、1本に絞れもしない…。ラストは最近Licaxxxが吸収したSF作品もサイドストーリーとして紹介します。早いですけど年末年始のお供にも是非ご活用ください。
安部公房『人間そっくり』
《こんにちは火星人》というラジオ番組の脚本家のところに、火星人と自称する男がやってくる。圧倒的にオカシイ奴が訪問してきて振り回されているうちに、その男が火星人そっくりの人間なのか、あるいは人間そっくりの火星人なのかわからなくなっていく。最後は自分も一体何者なのかわからなくなっていく。
Netflix『ブラック・ミラー シーズン2 シロクマ』
記憶のない状態で目を覚まし、外に出るとたくさんの見ている人がいるのだがスマホで撮っているだけ助けてくれず、自分だけが理由も分からないまま覆面で凶器を持った人たちに追われる。わからないまま逃げているとヒントを教えてくれ助けてくれる人物と合流。途中にフラッシュバックする記憶の断片に悩まされながらたどり着くと最後にはそれを見ていた観客の前に放り出される。一体彼女の過去に何があったのか。
訳のわからないまま目の前で起きていることを頭で処理してるとき、自分を信じて行動するしかないと思うのですが、自分がもしかしてめちゃくちゃ間違ってたなんて可能性は全然否定できない訳です。自分はまだ生きてて未知の状況に陥った経験はないですが(いやこれも思ってるだけで、本当に91年に生まれたかも分からない訳です。親に聞かされたことを信じて生きているだけで、0歳時代の記憶は全くないし、写真等の記録も改ざんかも分からないですから…。でもそれを疑って暮らしても楽しくはないと思うので知っていることだけを信じていますが。笑)例えば記憶が不慮の事故で無くなってしまうことは作り話ではなく現実でもある話です。そんな過去や記憶が何らかの理由でリセットされてしまった時に、あなたはどのような行動をとるでしょうか。
安部公房『人間そっくり』は、散々嘘をついてると思ってた相手と喋ってるうちに現実の虚構が分からなくなってしまう話です。これは火星人だ地球人だという話ですけど、言葉たくみに騙された、というくくりで考えたら現実にある訳です。私はこれを読んだ時、陰謀論を面白おかしくではなく、信じこんでいる人のことを思い出しました。私はコロナ以前からフィクションとして楽しんでいたのに、気がついたら不特定多数に向けて面白おかしく話すのがやりずらくなっていた。かといってインターネットレベルでのリサーチでは完全に否定もできないようなものが陰謀論なのです。情報が混乱、錯綜し何を信じたらいいか分からない状況を作り出したのがコロナ禍。情報をどう選択するかは結局自分の信じるものに付随していきます。過去の経験を含みつつ、未来にどう生きていきたいか、というのが大きく左右する気がします。
そしてNetflix『ブラック・ミラー シーズン2 シロクマ』は、SNSの炎上を面白がっている人たち、見ているだけで何もしない人たちへの痛烈な揶揄になっています。この話の結末がまあゾッとする形で伝えられるのですが、気づかない間それを勝手にエンタメ扱いして見ている自分はいませんか? 誰かの失敗、誰かの間違い、明らかな間違い、自分の辛いこと、社会のダメなとこ、それらは全部形が違って、訴える方法は丁寧に検討されるべきで、非常に難しい。その選択で、何が良くなっていくかの効果を考えながら行動をとっていく。ただの否定やだんまりが、自分に返ってくる…。文字通り、本当にある怖い話を体験させてくれる作品です。
さて、この二つの共通点は、ストーリーにおけるどんでん返し感と、SFなんだけど絶妙現実でもあり得るというところ。この二つはヒヤッとするどんでん返しというか、真実が明かされるパターン。どちらも短いのに見応え、読み応えのあるものになっているのは現実と結びついて考えられるからだと思います。ただ怖い…と見るより、SFはやはり一歩踏み込んで置き換えると現在起きている問題につながっている仕組みになっている。そういう作品が重厚感があって面白い。
最近吸収したSF作品も合わせて
アニメ『新世界より』
貴志祐介による日本の小説作品。2012年にアニメ化。呪術を得た人間社会がどのような歴史をたどって形成されているかというのが徐々にわかっていく。のどかで牧歌的に見える世界も、その実態は、安全のためには手段を選ばぬ様々な抑制によって、辛うじて平和が保たれている状態。真実を知るのは一握りの重要人物のみである。
自分たちの種族だけを反映させようとした時代、武器を手に入れた時代、社会を形成する上でこういう選択をしようとした歴史はすでに繰り返されていて、歴史をよく知っている人はゾッとすると思う。
アニメ『刻刻』
堀尾省太による漫画原作。佑河樹里はある日、兄と甥を誘拐したという脅迫電話を受ける。助けに行こうとする樹里と父を制止させた祖父は、止界術を使い時間を止める。何もかもが止まった止界で樹里たちは2人を助けに向かう。謎多き世界の中で家族を想う佑河家の奮闘を描いた作品。
これも謎の力を手に入れてる系なのですが、突然ふざけたキャラが出てきたり、ツッコミが強烈だったり、わかりやすくない家族がわかりにくいまま家族愛みたいなのを伝えてくるテンションが結構好きでした。
今回の映像×本
安部公房『人間そっくり』
・作品ぺージ:https://www.shinchosha.co.jp/book/112112/
Netflix『ブラック・ミラー シーズン2 シロクマ』
・作品ぺージ:https://www.netflix.com/jp/title/70264888
アニメ『新世界より』
・公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/shinsekaiyori/
アニメ『刻刻』
・公式サイト:http://kokkoku-anime.com/
文/Licaxxx
Licaxxx
東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティ。2010年にDJをスタート。マシーンテクノ・ハウスを基調にしながら、ユースカルチャーの影響を感じさせるテンションを操り、大胆にフロアをまとめ上げる。2016年にBoiler Room Tokyoに出演した際の動画は50万回以上再生されており、Fuji Rockなど多数の日本国内の大型音楽フェスや、CIRCOLOCO@DC10などヨーロッパを代表するクラブイベントに出演。日本国内ではPeggy Gou、Randomer、Mall Grab、DJ HAUS、Anthony Naples、Max Greaf、Lapaluxらの来日をサポートし、共演している。さらに、NTS RadioやRince Franceなどのローカルなラジオにミックスを提供するなど幅広い活動を行っている。さらにジャイルス・ピーターソンにインスパイアされたビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰。若い才能に焦点を当て、日本のローカルDJのレギュラー放送に加え、東京を訪れた世界中のローカルDJとの交流の場を目指している。また、アンビエントを基本としたファッションショーの音楽などを多数制作しており、近年ではChika Kisadaのミラノコレクションに使用されている。
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編集/福アニー