ストロング系から低アルコール系へのトレンド。その理由とは?
コロナ禍の社会変化がきっかけで生まれたトレンドはいろいろあるが、そのうちちょっと面白い話題が、アルコール飲料のトレンドの、ストロング系から低アルコール系へのスイッチだ。
アサヒは、今年3月にアルコール度数0.5%のビールテイスト飲料「ビアリー」を発売。これが好調で、ビールテイスト飲料の今年上半期の売上が20%アップした。その他、ビール各社はこぞってアルコール度数1%未満の「微アルコール(以下微アル)」飲料を発売、売上を上げている。
トレンダーズの食トレンド調査では、自宅時間の増加や健康志向、アルコール飲料に対する政策の変化の影響を受けて、2021年下半期には低アルコール系飲料への注目が今後より本格的に盛り上がることを予測している。
なぜ今、微アル飲料がトレンドなのか。また、なぜ私たちは苦労してアルコールを抜いてまでビール風味の飲料やシュワシュワした飲み物を飲みたいのだろうか。
なぜ今、微アル飲料なのか?
ノンアル・低アル飲料への需要の高まりに最も直接に影響していると思われるのはコロナ禍だ。在宅時間の増加による「ヘルシーにアルコール量をコントロールしながらお酒気分を楽しみたい」という需要の高まり、飲食店での酒類提供制限による飲食店でのノンアル飲料提供の増加の影響は大きい。
ただ、「ヘルシーにお酒気分を」といった機運は、実はコロナ禍の前から世界的なレベルで始まっている。「あえてアルコールを飲まない」ことを選択する「ソバーキュリアス」と呼ばれる人たちが増え、世界での2015年から4年間のノンアルコール・低アルコール飲料の販売数量は年平均で6%程度アップしたのだ。
その後、味への物足りなさから世界的にノンアル・低アル飲料の販売数量は伸び悩んでいたが、日本においてはここにコロナ禍と同時に一石を投じたのが「微アル飲料」。
最初は、アサヒのアルコール度数0.5%のビールテイスト飲料「ビアリー」だ。ビールを作ってからアルコールだけを抜く製法により、本格的なビールテイストが楽しめる飲料に仕上がっている。
ここからアサヒも含め各社が微アル飲料を発表した。アサヒがビアリーに続いて発表したのがアルコール度数0.5%のハイボール「ハイボリー」。サッポロが出したのが0.7%のビールテイスト飲料「The DRAFTY」。神戸物産の微アルは0.7%の「Sky」。ドウシシャは「ブローリープレミアムラガー」をアルコール度数0.9%以下で出している。
人はなぜそこまでしてビールを飲みたいのか?
さて、人はなぜ、苦労してアルコールを抜いてまでビールを飲みたいのだろうか?
筆者もある程度の年齢になってビールの刺激に爽快感を感じるようになったが、ビールの苦味や炭酸の刺激は本来、ヒトにとって危険を知らせるものだ。飲み慣れない頃にはビールを美味しいと感じられなかった人は多いはず。それをなぜ多くの人が快く感じて欲するようになるのだろう。
実は、苦味を持つ食物成分には、少量であれば疲労感やストレスの軽減、抗酸化、健胃などといった作用を持つものも多い。ビールの苦味成分イソフムロンには自律神経のバランスを調節する作用があり、気持ちをリラックスさせてくれる。
また、炭酸水によるノドへの刺激は交感神経を刺激し、心身の覚醒レベルを上げるが、炭酸水がよく冷えている場合は同時に副交感神経も刺激し、心身の覚醒とリラックスのバランスを整える作用を発揮することがわかっている。
特に疲れたときやストレスがたまったとき、キンと冷やしたビールが飲みたくなるのは、私たちがビールの栄養成分や風味によって無意識に疲れを取り去り、気分を調整しようとしていることのあらわれなのかもしれない。
微アル飲料で食事や集まりの楽しみ方を広げよう
微アル飲料の登場によって、アルコールに弱い、健康上差し支えがあるなどでもともとアルコール飲料を飲めなかった人たちも「飲める人」たちと一緒に飲料を楽しめるようになり、消費者の選択肢は広がった。
筆者も体質的にアルコールがほとんど飲めないのだが、夫がアルコールを控えるために飲み始めたビアリーが非常に美味しいと言うのでときどき一緒に飲むようになり、非常に気に入っている。
認知症が進んで施設に入っており、アルコールを飲ませるわけにはいかないが本人が長年の晩酌の習慣をやめられないお年寄りへの差し入れにとても良いとも聞いた。まさかビールでないなどとは思わずにうまいうまいと飲んでくれるそうだ。
「お酒」の飲み方はどんどん多様になってきている。これからは、今まで一緒に飲めなかった人たちと、気軽に杯を傾けてみよう。(感染対策には引き続き気をつけて)
文/ヒルダ
自身の豆腐メンタルを克服しようと情報を集めまくっているうちにやたらとメンタルヘルスに詳しくなってしまったライター。