仕事の効率がイマイチよくならない。そういうときには、脳にアプローチしてみるのも一つの方法だ。脳のことでたびたび話題になるのが脳内ホルモン。やる気やモチベーション、幸福感に関係するといわれる脳内ホルモンをコントロールすることで、仕事への取り組みにも変化が出る可能性がある。
そこで今回は、その脳にアプローチする「脳力アップトレーニング」を研修などで実施している、安全脳力開発プロデューサーの古橋麻美氏に、ビジネスパーソンがやる気や仕事効率をアップするためのメソッドを教わる。
「脳力」とは?
古橋氏の言う「脳力アップトレーニング」とは、「脳力」を上げることだという。脳力とは、すなわち脳の力であるが、その土台には、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感があるという。それに加えて第6感、いわゆる直感も無視できないそうだ。
【取材協力】
古橋麻美氏
安全脳力開発プロデューサー。外資系ホテル・日立グループの支社長秘書を経てビジネスマナーインストラクターとなる。現在は、コミュニケーション、ビジネスマナー教育をはじめ、ヒューマンエラーの根本的原因である「脳のメカニズム」に着目し、「脳を創って、安全を創る」ためのトレーニング法を伝授。実践に即した内容が好評を得ている。
「脳力の土台は五感です。そのため、五感を鍛えることによって脳力アップにつながります。『感覚統合』と呼ばれ、それぞれの感覚を鍛えることが、人の脳力のベースとなるのです。特に、目をしっかり動かすことによって、五感に刺激があり、脳が一番鍛えられるといわれています。現代は、スマートフォンを赤ちゃんのときから使わせている方が多いですが、その分、子どもたちは目を動かす遊びが減りました。昭和時代の遊びや遊具は、目を動かす遊びが多く、自然と五感が鍛えられてきたと思います」
そして昨今、テレワークが続いた。家の中でばかり過ごすことは、脳力にとってはマイナスだという。
「脳力アップのためには、五感に刺激を与えることが大事です。体を動かすほうが五感に刺激が与えられ、脳にも刺激が多いので、テレワークでもできるだけ体動かしたほうがいいです。テレワーク中も、ストレッチをする、公園まで歩いてみるなどして、目で見て、呼吸をして、いろんな匂いもかいで、音を聞いて五感を刺激しましょう」
脳力アップトレーニングとは「幸せホルモンを脳内で出す」こと
その脳力を意図的に鍛える方法として、脳力アップトレーニングがある。古橋氏によると、脳力アップトレーニングとは、すなわち、幸せホルモンを脳内で出すことだという。
●3つの幸せホルモンを出す
「『よし!がんばるぞ!』というやる気に満ちた感情になる前には、脳内から幸せホルモンというホルモンが分泌しています。その幸せホルモンの代表的な3つがストレスを和らげるセロトニン、やすらぎを感じるオキシトシン、やる気を出すドーパミンです」
●脳の反射の形成を創る
「私たちは、レモンや梅干しをイメージするだけで唾液が出てきます。それは、今まで生きてきた中で、『食べて酸っぱい!』ということを脳が学習してきたからです。脳の反射と呼びます。この脳のメカニズムを使い、やる気やモチベーションを維持するための脳を創ります」
●即効性はない
「この脳力アップトレーニングは、即効性はありません。最低でも一週間から10日、もしくは二週間は続ける必要があります。ただ、今回ご紹介する方法は、日常生活の中でできることで、お金も時間もかからないので、楽に続けることができます」
脳力アップトレーニングのメソッド2つ
そこで、古橋氏に、脳力アップトレーニングメソッドを2つ教えてもらった。どちらもドーパミンが出るようにするために、脳の報酬系回路を創るためのトレーニングだという。
1.「テンポ116」
「やり方は簡単、1分間にテンポ116のリズムに合わせて歩くだけです。テンポ116は、活動的なリズムです。スマホアプリでメトロノームのアプリをダウンロードしてインストールし、1分間に116を刻むリズムに合わせて身体を動かします。踏み台昇降や階段の上り下りなどがおすすめです」
2.「よかった、ありがとう」の呼吸法
「夜寝るときなどに、息を吸いながら『よかった!』と思い、息を吐きながら『ありがとう!』と思います。今日、いいことがあったとしてもなかったとしても、嫌なことがあったとしても事実は関係ありません。ただ思うだけの思い方の練習です。これが習慣化されると、無意識のうちに条件反射が形成され、息を吸うとき、吐くときに、幸せホルモンが出てくるようになります。するとストレスが緩和されます。大失敗したり、大怪我をしたりしたときには大きく息を吸うと『この程度で良かった』と思えて“ばんかい”の意欲が出てきます。
特にドーパミンは、幸せや喜びによって出てきます。よかったと思うから、ありがとうが出てきます」
また、時々は、こんなことを意識するといいそうだ。
「そして、たまには遠くを眺めてボ~っとしたり、何も考えないひとときを持つと潜在意識が働いて第6感、つまり直感が作用してくれます。直感が鋭くなることで、感性が高まります。例えば、何となく違和感を感じて災難や事故を避けることができたり、ビジネスにおいて、思わぬ一手をひらめいたりするでしょう」
脳のメカニズムを利用した脳力アップトレーニング。五感を刺激するために体を動かすことも意識しながら、2つのメソッドで幸せホルモンを出してやる気をアップ。すると、仕事効率も自ずと上がりそうだ。そして第6感も研ぎ澄ませることもぜひ意識しよう。
取材・文/石原亜香利