日本ミシュランタイヤから、これまで評判の高かったCROSSCLIMATE(クロスクライメート)シリーズの最新タイヤとして、夏冬ともに性能を向上させた新製品「クロスクライメート2」が登場した。そこで早速車両に装着し、まずは3シーズンタイヤとしての性能をチェックしてみた。
日本ならではの特殊な状況にどう対応するか?
「中庸(ちゅうよう)」と言う言葉からどんなイメージを抱くだろうか。時として、どっちつかずの中途半端、あるいは積極策を採らず、事なかれ的な手段に頼る、と言った印象を抱く人もいるようだ。当然のことながら、孔子が最高の「徳」として説いた概念である中庸には、ネガティブな意味はない。偏ることのない「中」をもって道をなす。それは儒教の規範「四書」の中にあって、もっとも学ぶべきものであると同時に会得がもっとも難しい概念である。
実はミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート+(プラス)」の進化版である最新の「クロスクライメート2」を試したとき、孔子が言うところの中庸の徳がすぐに浮かんできた。一般的にオールシーズンタイヤと言えば、天候に左右されることなく、一年を通して使用できる「全天候型タイヤ」という認識がある。夏タイヤにとって重要なドライ、ウェット性能を高レベルで実現しながら、冬期になれば浅い雪道から圧接路、さらにはシャーベット状の雪などでもトラクションやコーナリング、そしてブレーキなどの各性能を十分に発揮する、まさに一挙両得を実現したタイヤと言う事が出来る。
当然のことながら夏タイヤと冬タイヤの履き替え交換も不要となり、同時にタイヤ保管の手間いらずとなる。交換や保管の手間だけでなく、経済的にも十分に検討すべき存在なのである。
こうした利点がユーザーの間で検討されるに従い、日本のマーケットにもミシュランだけでなく、コンチネンタルやグッドイヤー、ピレリなどを始めとした輸入タイヤメーカーを中心に、オールシーズンタイヤが続々と投入されている。利便性の向上を第一に考える都市部の人たちにとっては当然の流れである。
もちろん、国産タイヤメーカーのブリヂストンやファルケンからも投入されているのだが、どちらかと言えば消極的に見える。
そこには日本独特の雪道状況があるからだろう。私自身も雪国出身であり、日本のやっかいな雪道を走るときの、オールシーズンタイヤの対応力に少しばかり不安がある。最近では気候変動の影響もあり、以前よりも降雪エリアが狭まったことで、オールシーズンタイヤの対応エリアは広がっている、と言う分析がある。もちろん間違いではない。しかし、それでもヨーロッパや北米といった広範なエリアで使用するように、オールシーズンタイヤに適したエリアと、冬専用タイヤに適したエリアの棲み分けがある程度明確になっている状況とまでは言えない。
日本は、100~200km走行しただけでも状況が一変する。狭いエリア内で標高も変化し、路面状況も目まぐるしく変わることが多い。おまけにドカ雪のエリアで高速道路が数日にわたって通行止めになったりするニュースも、いまだに多い。
たとえば、東京から新潟まで走る場合、水上辺りまではオールシーズンでもいけるが、三国トンネルの先には、まさに別の世界がある。圧雪路だけならばいいが、凍結路もあるし、深い轍が出来るような深雪など次々に現れるのである。こうなるといかにもオールシーズンタイヤでは心許なく感じるのだ。事実、ミシュランではクロスクライメート2の性質を「サマータイヤとして求められるドライ路面、ウエット路面での高いブレーキングの性能を有しながら雪上を走ることができる新しいコンセプトのサマータイヤ」と表現している。
そのような状況を懸念してか、タイヤショップでは「オールシーズンタイヤはスタッドレスタイヤと性能が異なるので、降雪地や過酷な積雪路、さらには凍結路での走行ではスタッドレスタイヤの使用を推奨」するところがほとんど。当然、チェーン規制が発令されれば、例えスタッドレスでもチェーンなどの滑り止めを装着しなければいけない。
ドライでのレスポンスのよさは、スポーティな走りに対応
ではミシュランのクロスクライメート2を、ドライ路面で試したときに感じた中庸というか、バランスのとれた感覚はなんだったのだろうか? 最大の理由は夏タイヤとしての性能の高さを感じたからである。なによりもドライでの性能をしっかりと仕上げてあると言うことは、雪道やウエットでの性能もバランスよく仕上げてあって当然という、まさに性善説に基づく期待感である。
たとえば冬専用のスタッドレスタイヤをドライ路面で使用すると、どうしても腰高で、コーナリングや加速時に、ぐにゃりとタイヤが横方向にたわむ印象があって、スポーティな走行などとは縁遠いフィーリングになる。低温時でも柔軟性を保つコンパウンドの柔らかさが生命線だから、これは仕方ない結果だ。なによりも、コーナーを攻めるような使い方をするためにあるものではないから、単純な比較は成り立たない。
ところがクロスクライメート2には、そうした違いを十分に理解した上でも、ドライ路面でのフィーリングは実に良く、クルマが持っているスポーティな味わいを十分に発揮してくれたのである(装着車両はアルファロメオ・ブレラ)。
ドライでのブレーキ性能、高速安定性、クイックなステアリングレスポンス、そしてオールシーズンが苦手とする静粛性など、どれをとってもレベルの高い走りが可能だった。特に感心したのはステアリングの操作量に対する反応の正確さと素早さである。ノーズがステアリングを切った分だけキッチリと反応してくれ、感覚にズレを感じないのだ。まさに夏タイヤのレスポンスと遜色ない軽快さである。
静粛性に関しては、試乗中にウインドーを開け放ち、路面からのパターンノイズに耳を凝らしてみた。気になる低周波のノイズもないし、先代モデルのクロスクライメート+(プラス)よりもずいぶんと静かになった印象である。さらにウインドーを上げ、窓を閉め切ったキャビンでも気になる音の侵入はなし。十分にブレラのスポーティな味を生かしながら、夏タイヤとしての性能を確保しているという印象の仕上がりなのである。
テスト当日は秋晴れであり、ウエット路面を試すことは出来なかった。さらに言えば雪上性能やライフ(耐久性)性能のテストは、また後日ということにしている。だが、ここまでドライ路面の性能を練り上げたと言うことは、十分に雪道での技術開発やコンパウンド材などの進化を享受しているはずであり、その性能は飛躍的に向上しているだろうと予想できるのである。
この段階で、すべてにおいて進化したという判断は当然下せない。だが、牛来路面での好印象はそのまま、雪上での実力の高さを予感させるに十分であった。これこそまさに「中庸の徳」で言わんとしている「不足でも過多でもなく、適当なバランスでちょうどよく行動できる徳」にも通用するのではないか。
すでに各地から雪便りが届いている。本当に四季を通じて通用するか、雪道&ウエットのレポートを近々にお届けしたい。
ドライ路面でのレスポンスはかなり優れていて、ブレラのスポーティな走りに対応出来る。
トレッドのコンパウンドを見直し、さらに新しいVシェイプトレッドパターンの採用。これによってドライ・ウェット・雪上路面など幅広く対応する。
クロスクライメート2は日本の雪道にも対応できるよう、設計部隊を日本に送り込んだという。
パターンノイズの少なさ、キャビンでの気になる音の侵入も少なかった。
日本では冬用タイヤを全車輪に装着することが雪道でのルール。その基準を満たすために求められるのがスタッドレス(国内表記)又はスノーフレークマーク(国際表記)が表示されていること。オールシーズンタイヤだが、国際表記の「スノーフレークマーク」が付いている。
狭いエリアで路面状況が目まぐるしく変化する日本の雪道。シャーベットから深雪、そして凍結路が次々に現れるため、オールシーズンタイヤの対応力の高さが求められる。
スタッドレスタイヤやオールシーズンを装着していても、「チェーン規制中」はタイヤチェーンを装着しなければならない。タイヤチェーンなどの滑り止めの携行は必須。
もう一点、梅雨や長雨もあり、高いウエット性能も求められる(写真はテストコースにて)
(路面適合表)
※乾燥路面と同様の性能を保証するものではありません。速度等、雪道での運転には十分ご注意願います。
※いかなるタイヤ(スタッドレスタイヤを含む)もチェーン装着が必要となります。全車チェーン規制に備えチェーンを携行ください。
(対応サイズ表)
※全サイズ、全額返金保証プログラム対象
ミシュランお客様相談室:0276-25-4411
TEXT : 佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。