コロナ禍で業績が厳しい企業を中心にPOが相次いでいる。POは株式を割安に手に入れることができるもので、デメリットを含めてどのようなものか紹介する。
最近はPOが続々
POは、既に上場している企業が資金調達等のため株式を新規発行して(または自己株式の売り出し)、広く投資家に株式を買ってもらうことだ。
直近では、「磯丸水産」などを展開するクリエイト・レストランツ・ホールディングス(3387)、日本郵政(6178)、「甘太郎」「カッパ寿司」などを展開するコロワイド(7616)などが、POを行っている。
POは、既存株主にとっては悪いニュースだ。現在流通している株式に新たな株式が増えることになるので、1株あたりの利益が少なくなってしまう。POの発表があるだけで株価は大きく下落する。そのため、既存株主を考慮すると簡単にできるものではない。
その逆の上場している株式を会社が市場から買い(自社株買い)、上場している株数を減らし1株あたりの利益を大きくすることは既存株主にとってはプラスのニュースで、株価も上がり、好業績の企業でよく行われる。
それでも、最近POが増えているのはこのコロナ禍であるからといえる。POは、新しい事業を拡大するためという前向きな目的で行われることもあるが、ほとんどが資金確保であることが多い。現在コロナ禍で業績が赤字となり資金不足にあえぐ外食チェーン、旅行関連の会社が、最近相次いで資金確保のためにPOを行っている。
POで株式を割安に手に入れることができる
例えば、利益が100の会社があり、株式が5株だったら1株あたりの利益は20だ。一方、株数を5株増やして10株にすれば1株あたりの利益が10に半減してしまう。
このように、POは市場に出回っている株に追加で株式を発行するため、既存株主は今持っている株式にかかる利益が減ってしまう。したがって、POが実施される旨の発表があれば株価は急落する。発表があるのは株式市場が開いていない15時以降がほとんどであるから、発表日の翌営業日には株価は急落することになる。
また、今後も株数が以前より多い状態となるため、利益が大きく急上昇しない限り以前よりは1株あたりの利益が低く、株価も上がりにくい状況が続く。したがって、既存株主にはPOはあまり嬉しくないニュースだ。
一方で、その株式を保有していない人にとっては、POで株式を購入することは以下の理由によりその株式を割安に手に入れるチャンスだ。
・PO発表で株価が急落し割安になっている。
・POは買付手数料無料
・POは3~5%の割引価格で買える
POの発表でまず株価は下がる。そして、取扱証券会社でPOに申し込み、抽選となれば当選して購入することができれば買付手数料が無料で、価格決定日の終値から3~5%割引された株価で購入できる。
また、株式が新しく上場する新規上場株式に比べれば、抽選の倍率も低い。
そもそも、POを実施する企業は資本増強を目的としていることが多いことから、PO実施の発表で株価は急落してしまうものの、自己資本比率が上がり既存株主にとっても資本不足の懸念がなくなることはよいことだろう。
なお、資本増強目的である企業が多く、業績悪化による赤字により自己資本比率が下がってきている企業が少なくないが、POを実施できる企業は倒産してしまうほどの危機に至ってはいないと考えられる。倒産しそうなほど資本不足となっていれば誰も株式を買わないため、そもそもPOを実施できず、金融機関に期限を延長してもらうなどの他の対策を行うことが多い。当然、赤字が続けばPOで資本増強してもまた資本不足となってしまう懸念はあるが、新型コロナ感染症の拡大による業績悪化であればワクチン接種者拡大や感染者減少で業績は復活することも期待できる。ただ、コロナ後でも必要とされる事業内容か見極めつつ投資したい。
PO後の値動き
PO実施後、株価がどのようになっているか具体的に見てみよう。
POの影響だけでなく、株式市場全体、新型コロナ感染者数の減少等の影響もあるが、
基本的にはPO実施発表で急落、価格決定まで伸び悩み、その後上昇、その後株式数が増えたことによるためかまた伸び悩むという値動きが多い。
なお、POは価格決定、購入手続きから受渡日まで相当の日数があり、受渡日になるまで売却できないが、この売却期間は安定操作期間といってPOを引き受けた証券会社により株価が下がらないよう操作されており、購入から売れない期間急落しないようになっている。
■JAL(9201)
日本航空(株)【9201】:チャート – Yahoo!ファイナンス
JALのPOは、2020年11月6日に発表され、発表前の1,843円の株価が翌営業日に1,650円(▲10.5%)まで下がった。POの購入価格は11月18日に1,916円に決まり、受渡日の26日には2,032円まで上がった。現在は2,500円前後となっている。
■すかいらーくグループ
(株)すかいらーくホールディングス【3197】:チャート – Yahoo!ファイナンス
すかいらーくホールディングスのPOは、2021年5月21日に発表され、発表前の株価1,602円が、発表後の翌営業日1,510円(▲5.7%)まで下がった。POの購入価格は5月31日に1,495円に決まり、受渡日の6月8日には1,563にまで上がった。その後8月には新型コロナ感染症感染者数の増加の影響か1,403円まで下がったが、現在1,550円前後で推移している。
このように、短期的な投資であればPO価格決定後いったん上がったところで売却するか、または中長期目的であれば、株数が増えたことによりしばらく株価は伸び悩むかもしれないがそこは我慢して長期で保有して、大きな値上がり益や株主優待を受けるのもよいだろう。
割安に手に入れるチャンス
通常では、既存株主に不利になるため基本POは実施されない。
しかしながら、コロナ禍で業績が悪化し、自己資本比率が下がった企業が続々とPOを実施している。外食関連や旅行関連企業は株主優待を実施しているところも多いので、割安に手数料無料で、株主優待銘柄を手に入れるチャンスでもある。
既に、そのような株式を保有している既存株主にとってはPOが実施される可能性があり、実施されれば株価が下がる可能性があることに注意したい。
POは、発表から申し込みまでの期間が短く、常にそのような情報にアンテナを張っておく必要がある。証券会社のホームページのTOP画面等で発表されるため、POに申し込みたい場合は常にチェックしておこう。POは発表後1週間程度後に申し込み期間が始まり、入金と申し込み手続き、当選後購入手続きが必要だ。常に入金できる資金を準備しておき即時入金できる体制にしておき、申込み、購入手続きもスケジュールを管理することが必要で、どれかを失念してしまうとPOで購入することができなくなる。
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フリーライターとしてマネージャンルの記事を得意とする。おおほりFP事務所代表、CFP認定者、第Ⅰ種証券外務員。