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発生原因は何だったのか?ドコモの大規模通信障害で浮き彫りになった「IoT」の課題

2021.11.07

■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議

スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は2021年10月14日に発生した、ドコモの大規模通信障害について話し合っていきます。

※新型コロナウイルス感染拡大対策を行っております

ドコモの大規模通信障害はなぜ発生した?

房野氏:2021年10月14日に、ドコモのネットワークで大規模な通信障害が発生しました。皆さん影響は受けられましたか? また、通信障害が発生した要因や長期化してしまった理由もお話ください。

房野氏

石川氏:普段メインに使う電話はau回線なのであまり影響は感じませんでしたが、自分が持っているドコモ回線に電話をしても繋がらなかったし、圏外表示になっていました。

石川氏

石野氏:僕はメインでドコモ回線を使っているので影響を受けましたが、データ通信は問題なく使えました。音声通話は繋がらなくて、ある編集部からの電話が受けられないといった問題はありました。

石野氏

法林氏:障害が起きた翌日にはドコモが謝罪会見をしました。質疑応答では「会社支給の電話も自分で契約している電話もドコモで、どちらも繋がらないから困る」と話している人がいました。気持ちはわかるけど、2回線持つなら別の会社で契約したほうがいい。特に記者の人であれば、分けておくのがセオリーな気もする。

法林氏

石川氏:翌日に謝罪会見を開けるのは、大したものだと思いましたけどね。

石野氏:会見のタイミングではまだ情報があまり整理されていなくて、指摘してやっと出てくる情報もあったのが良くなかったですかね。あと、影響がでたのが「200万回線」だと強調しすぎていたと思います。

石川氏:メディアも200万回線という数字に引っ張られてはいたけど、影響を受けた回線数は200万では済まないと思います。ドコモはかたくなでしたが、数千万回線で影響が出ていると思いますよ。

石野氏:「位置情報が登録できない」回線が200万という話なんですけど、位置情報の登録はGPSのように頻繁に行うものではなく、複数の区や県をまたぐくらいの移動で行われるものです。なので、200万回線は長距離を移動した人や、一度フライトモードにして通信を遮断した人のはず。僕みたいにデータ通信はできても音声通話はできないといった人はもっと多かったので、その数まで加味すると何倍にも膨れ上がるでしょうね。

石川氏:質疑応答で原因を確認していったところ、IoTサービス用の位置情報サーバーを仮想化の設備に移す時に問題が起きたり、海外からのローミングデータが移せなかったりといったことが起きていました。昨今のトレンドワードがたくさん出てくるところが注目で、これから5G時代になってIoTがどんどん来るといわれている中で、警鐘を鳴らしているようにも感じる。5G時代への移行に暗雲が立ち込めてきた印象もあります。

石野氏:少しドコモがかわいそうなのが、最先端のトレンドともいえる設備に移そうとした時に障害が起きてしまったところ。新しい設備で問題が起きたのではなく、移す時に問題が発覚したので、元の設備に戻そうとしたタイミングで障害が起きています。

石川氏:要は移す前段階で失敗しているのですが、通信キャリアが仮想化にあまり乗り気じゃなかったのはこういうことなんだなと思いました。稼働しているネットワークを動かしたまま移動させるのは難しい。銀行や鉄道のネットワーク設備を移動させる時には、一度止めてから行います。決済端末を扱っている以上、止めるわけにもいかないので、動かしたまま移行作業を行わなければいけなかったし、各社が仮想化に二の足を踏んでいる理由がわかった気がします。

法林氏:スマートフォンが始まったころ、今から約10年前に制御信号のコントロールができなくてネットワークが落ちたといった話はあったので、何にせよ、動いているネットワークをいじるのは難しいと改めて思いましたね。もう1つ思ったのは、IoT機器というと「人感センサーでカメラが動く」みたいなものをイメージしがちだけど、実は自動販売機の中に入っている機器など身近なところにある。自動販売機内の機器は元々、2Gというか、DoPa(NTTドコモが第二世代のPDCで提供していたパケット通信サービス)で提供していたものを3Gにアップデートして、現在もそれを運用しているんですが、数年後(2026年3月31日)に3Gサービスが終わるという話が出ているタイミングで障害が起きているところを見ると、ドコモはちゃんと取引先を見てコントロールできているのかなと不安になりました。

石野氏:ドコモをかばうわけではありませんが、若干かわいそうなのは「3G通信だけ復旧が遅れたのはなぜか」という点で、タクシーのような移動が多いものに搭載されている機械が多いため復旧に時間がかかった。これはクライアントの情報なのでうかつに公表できないのですが、記者には「何か隠しているのでは」と勘繰られてしまいました。「3G回線を軽視しているのでは」といった質問まで出てきていましたね。

法林氏:さすがにそれは質問する方がどうかな? と思うけどね。お客さんの情報だし、ドコモがいえるわけがない。

石川氏:一番最初に質問した時も、3G端末がどれくらい影響を与えているのかを聞きたかったんだけど、はぐらかされてしまいました。

法林氏:確かドコモはいまだに3Gの契約数も多いよね。

石川氏:その契約数がIoTなのか、携帯なのかが具体的にわからない。iモード契約数は携帯回線の契約なので、差し引きすれば実数は見えてきますが。

石野氏:あと、アナウンスの仕方が良くなかった。障害が起きた当日の19時57分に完全復旧とアナウンスしていて、テレビでも「復旧」と報道されてしまいました。ここでドコモがいっている復旧は、位置登録の100%規制を解除しただけという意味で、通信の輻輳(ふくそう)は全く別の事象。100%規制を解除したといっても、一般のユーザーにはあまり理解されないので、もう通信が完全に使えると思われてしまいました。

石川氏:「ネットワークのコントロールを完了した」といったような、伝わりにくい表現をあえてしたのが良くなかったですね。

法林氏:今、調べてみたら、3G契約数は624万回線程度ですね。

石川氏:そのうちの20万台を移行しようとしていたんですよね。

石野氏:20万台ずつ順番に移行しようとしたら、しょっぱなから失敗してしまった形ですね。

法林氏:ドコモとしては数を絞って、20万台ずつと手堅くいったつもりなんでしょうけど、20万でも多かった。

房野氏:IoTはなかなか曲者なんですかね。

法林氏:IoTという括りにするからわかりにくいけど、IoTが入っている範囲はかなり広いです。自動販売機のデータ通信は最たる例ですね。当時は“補充する人が回らなくても中に入っている残量が確認できる”というのが画期的だったんですよ。

今回の質疑応答でもあったけど、IoT機器は回線が空いている夜間に通信を行うので、それが貯まっていた分一気に流れてしまったという形ですね。加えて決済端末が入っているタクシーも夜のほうが稼働率が高いので、3Gの回復に時間がかかってしまった。

石野氏:ドコモはやっぱり“NTT感”があるというか、技術的な説明を優先してしまって、顧客にどう受け止められるか、マーケティング的な視点が弱い。100%規制解除の件もそうで、間違った情報を伝えているわけではないけど、伝え方でお客さんがどう感じるかを考えないといけません。

「瞬速5G」もそうで、5Gにこだわって速度を出すことが技術的には正しいのかもしれませんが、ユーザーからしてみれば5Gのエリアが狭かったりするので、KDDIやソフトバンクのような柔軟性が欲しいところです。

法林氏:伝え方は工夫したほうがいいよね。ドコモは昔から変わらず、説明が下手です。

石野氏:そうなんですよね。ちゃんとやっていることはわかりますし、真摯に説明しようとしているのは伝わるんですけど、真摯すぎて逆にわかりにくくなってしまっています。

房野氏:技術的な話が多くて難しいですよね。

石野氏:正しく説明するのは大事ですが、もう少しかみ砕いて話してほしいですね。

法林氏:正しく説明することとわかりやすく説明することは必ずしも同じではない。一般のユーザーにもわかるように説明しましょうというのは、今回の件に限らず、通信業界全体として思うところです。

石野氏:質疑応答の最初のほうでも、「位置登録不可が200万回線なのはわかったけど、音声や通信を含めると全ユーザーが影響を受けたのか」という質問に対して、「位置登録不可は200万回線です」と返事していました。それはわかるけど、質問の意図をくみ取ってほしかった。

房野氏:位置登録といっても一般のユーザーには伝わりませんよね。GPSと勘違いされてしまいそうです。

石野氏:そうですね。携帯電話がつながる仕組みを理解している人って、実はそんなに多くないです。KDDIがたまに新しく通信担当になった記者に対するレクチャーをしていますが、こういうことが大切なんだなと思わされましたね。

法林氏:とはいえ、海外の映画やドラマなどを見ていると、基地局の電波が届く範囲の「セル」という言葉が普通に使われていたりもします。今回の謝罪会見に関していえば、質問をしている記者はその程度の知識もないことになるので、質問者としての勉強不足もあると思います。

先ほどの話でも、IoTでの直接的な位置情報登録で影響を受けた回線数が200万で、副次的にその影響を受けた人数は、範囲が広すぎてドコモ側では把握しきれません。ただ、一般の感覚としては「副次的な影響数」が大切だったりもするので、こういう質問が出てきます。

石野氏:技術的には、多少語弊があったとしても「最大で全ユーザーに影響があった可能性がある」とでもいえていれば良かったんじゃないですかね。“確からしい”のはどちらかというとこの表現な気がします。

法林氏:ただ、会社としては、2000万回線に影響があったとはいいたくないでしょ(笑)。他業種でもう少しわかりやすい例えをすると、「新宿駅で人が線路に降りて電車が停まったので、関東全域で1000万人くらいが影響を受けました」と説明しなければいけないのか、という話です。実際は5分電車が停止しただけで、副次的にダイヤが乱れて影響を受けた人をカウントしなければいけないのか、という話です。

石野氏:音声通話は15%減ったと発表されていますけど、これがどれくらい影響が出たかといわれると計り知れないですよね。

石川氏:つながらなかったら結局たくさんかけ直すので、あまり意味ないですよね。

石野氏:データ通信は4%減となっていて、実際僕も通信はできていたので、ある程度の信ぴょう性は感じられます。かつての障害に比べるとそこまで阿鼻叫喚にならなかったのは、データ通信がまだ使えた人が多かったからなのかな。

房野氏:正直、LINEで通話すればいいんじゃないとも思ってしまいました。そんなに電話って使いますかね。

石野氏:あと、復旧後に一度データ通信を切断しないと繋がらなくなる端末があったので、復旧のアナウンスももう少しうまくできないのかなと思いました。ただ、繋がらないところにどうやって復旧のアナウンスをするかという問題もありますね。

法林氏:5Gの時代になって、より通信が活用されていくのであれば、ユーザー側はメイン回線がドコモならサブ回線にauを選ぶとかが必要だし、障害を起こした側、今回でドコモは、ANAの運航状況の案内のように、SNSで情報を流すとか、工夫をしていかないといけません。

房野氏:povoも楽天モバイルも0円で維持できる時代ですからね。

石野氏:ただ、複数の通信キャリアで契約していても、相手がかけてくる番号のネットワークが落ちていたらしょうがなくないですかね。複数の電話番号を伝えている相手って少ないので。

法林氏:それはコミュニケーションツールの多重化が必要という話で、音声通話だけでなくて、メールやLINEも使えたほうがいいし、大切な人とは複数の方法でやり取りできる手段を確保していくべきです。

石川氏:今回は復旧したタイミングが19時57分で、まだまだユーザーがアクティブに動く時間帯でした。これが深夜とかであればまた違ったと思うので、「復旧はしたけど利用はちょっと控えめに」のようにアナウンスするべきですかね。昔の「あけおめメール」の時みたいな対応ですね。

石野氏:「あけおめメール」の存在が忘れられかけているのも問題ですよ。昔は訓練みたいに1年に1度、お正月はあまりメールを送らないほうがいいというイベントを経験していたので、身体に染みついています。初めからスマホを持っている世代は繋がることが当たり前なので、そんな苦労を念のため、知っておいた方がいいのかもしれませんね(笑)

石川氏:今回思ったのは、もし今後、通信キャリアが儲からない時代がおとずれたら、通信品質が落ちてネットワークがバンバン落ちてしまうような世界になってしまうかもしれません。海外のネットワークに近い感じですね。

法林氏:日本の高品質なネットワークは保持してほしいところだけど、通信キャリアだけじゃなく、報道する側ももう少し勉強が必要ですね。

……続く!

次回は、アップルの新製品について会議する予定です。ご期待ください。

法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。

石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。

石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。

房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。

構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦

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