心許ないとは、主に頼りなく不安な気持ちを表現するときに用いられる言葉です。正しい意味や使い方を知っておけば、日常生活やビジネスシーンで役立てられるでしょう。心許ないの意味や語源、類語・対義語を紹介します。
「心許ない」とはどんな状態を表す言葉?
『心許ない』とは、どのような状態を表現する言葉なのでしょうか?詳しい意味や正しい読み方、『心許ない』を用いた例文を紹介します。
頼りなく不安な気持ち
『心許ない』は、どこか頼りない様子で、不安に感じる気持ちを意味する言葉です。物事の展開が読めないことで、気をもんだり心配したりする状態を表します。
『心許ない』は、『こころもとない』が正しい読み方です。『許』という漢字は『許す』と認識されることが多いため、読みやすいように『心もとない』と表記されるケースもあります。
なお、『許』を『もと』と読む場合、許すという意味は含まれません。『親許(おやもと)』のように『支配や影響がおよぶ範囲』の意味で使われます。
はっきりしない
心許ないには、『はっきりしない』『あやふやな』といった意味もあります。『多分そうだと思われるが自信はない』といった考えを示したい場合に使うことが可能です。
『はっきりしない』という状態は輪郭がおぼろげであると同時に先が見通せず不安定な意味にもなりますので、『心許ない』を『心細い』『寂しい』や『待ち遠しい』『じれったい』の意味合いで使うことも珍しくありません。ただし、現代においては、頼りなく不安な気持ちを示す意味で使うのが主流です。
『許』という字には『根拠』『土台』という意味があり、『心許ない』は心をうまく制御できずに感情が不安定になっている状態といえます。
『心許ない』を使った例文
『心許ない』はどのように使うのか、例文で確認しましょう。まずは、最も使用頻度が高い『頼りなく不安な気持ち』を意味する『心許ない』の例文を紹介します。
- 新人の彼を1人で営業に行かせるのは心許ないため、しばらくは課長に同行してもらうことにしている
- 体調を崩していた父が先日とうとう入院した。回復する見込みはあるのか、心許ない日々を過ごしている
- 外資系の企業に就職した彼女は、外国人が多い部署で自分の英語力が通用するか心許ないと言っていた
また、『はっきりしない』という意味で『心許ない』を用いる場合の例文は、以下の通りです。
- 週末に実施するイベントでスタッフが足りるかどうか心許ないため、増員を検討している
『心許ない』の語源
『心許ない』は、古語を由来とする言葉です。古語として使われていた際の言葉の意味や、作中に言葉が登場する代表的な古典を紹介します。
古語「心もとなし」が由来
『心許ない』は、古語の『心もとなし』を語源とする言葉です。日本における多くの古典文学で心もとなしが用いられており、現代における『心許ない』のように、ニュアンスの違ういくつかの意味に分かれています。
古語の心もとなしでは、『待ち遠しい』『じれったい』の意味で使われるのが主流でした。時代の流れとともに意味が転じていき、現代の『頼りなく不安な気持ち』という意味に変化したのです。
古典では『心許無し』と表記されている場合もありますが、現代では『現代仮名遣い』の観点から、『~無し』という表記は推奨されていません。
登場する古典作品
『源氏物語』では、紫式部が『宵過ぐるまで待たるる月の心もとなきに』という表現を使っています。夜が更けるまで月が出ない待ち遠しさを表した文です。
また、松尾芭蕉が書いた紀行文『おくのほそ道』でも、待ち遠しいという意味で心もとなしが使われています。『心もとなき日数重なるままに』という箇所です。
清少納言が執筆したとされる随筆『枕草子』では、『花びらの端に、をかしきにほひこそ、こころもとなうつきためれ』に心もとなしが見られます。美しい色がほのかに付いているように見えることを意味しています。
類語表現と対義語を紹介
似た意味の言葉や反対の意味を持つ言葉を覚えておけば、本来の意味を理解しやすくなるでしょう。心許ないの主な類語と対義語を紹介します。
類語は「不安」「覚束ない」
心許ないと意味が似た言葉としては、『不安』や『心配』などが挙げられます。いずれも今後の成り行きが分からずに気をもむ状態を表す言葉です。
また、『はっきりしない』という意味で使う場合の類語には、『覚束ない』があります。『覚束ない』は『おぼつかない』と読み、ぼんやりとしたあやふやな状態を意味する言葉です。
他にも、心許ないと似た意味の言葉には、『頼りない』『気掛かり』『気遣わしい』『心細い』などがあります。いずれも意味に似た部分があり、それぞれが互いに類語として扱われます。
対義語は「安心」「心強い」
『心許ない』の対義語には、『安心』『心強い』『心配無用』などがあります。いずれも、頼りなく不安な気持ちを表す心許ないの逆を意味する言葉として使用可能です。
安心とは、『心配なことや不安なことがなく心が安らかな状態』を意味します。仏教用語の『安心(あんじん)』を由来とする言葉です。
また、心強いの意味は、『頼りになるものや心の支えがあり安心できること』です。『彼が存在してくれるだけで心強い』のように使います。
心配無用は、『心配する必要がない』を意味する言葉です。『~無用』は、天地無用や問答無用など、『~が要らない』『~してはいけない』の意味で使われます。
構成/編集部